老舗コーヒーブランド、「水出しコーヒー」で D2C に挑戦:「卸売の経験を、今度は自分たちのために」

この数カ月、リモートワーカーの急増を背景に、自宅でコーヒーを淹れる習慣が爆発的に広がっている。このシフトにもっともすばやく対応できたのは、顧客に直接つながるラインをすでに持っているコーヒーブランドにほかならない。

創業44年のコーヒーブランドがD2C事業の強化を試みている。アメリカズベストビバレッジ(America’s Best Beverage)は1970年代半ばにスペシャルティコーヒーの焙煎をはじめ、合わせて紅茶も販売してきた老舗だが、この8月に同社初となるコールドブリュー(水出し)コーヒーのD2Cブランド「クラウドバーストコーヒー(Cloudburst Coffee)」を立ち上げた。今回、老舗ブランドが消費者と直接向き合う商品流通に参入したことで、ほかの大手コーヒーブランドも直販チャネルの強化に乗り出すかもしれない。

統計データプラットフォームのスタティスタ(Statista)によると、水出しコーヒーを求める消費者のニーズは近年増加傾向にあり、2025年の市場規模は2017年の1億6600万ドル(約175億円)から大幅に増えて9億4416万ドル(約999億円)に達する見込みだ。一方、市場調査会社のニールセン(Nielsen)の推定では、新型コロナウイルス感染症が流行しはじめてから最初の4週間で、各種の小売チャネルを通じた袋詰めコーヒーの売上が24.9%増加した。

アメリカズベストビバレッジのホビック・アザカニアン最高経営責任者(CEO)が米DIGIDAYの兄弟サイト、モダンリテール(Modern Retail)に語ったところによると、クラウドバーストは昨年12月から温められてきたコンセプトだが、現下の情勢を考慮して、立ち上げの予定を今夏に繰り上げたという。これまで、同社は製品の販売をもっぱら卸売に依存してきた。

「私たちは数多くのブランドの立ち上げを支援し、製品を供給してきた。今度は同じことを自分たちのためにやるべきだと考えた」と、アザカニアン氏は語る。長年の経験から家庭用の水出しコーヒーがブレイクする頃合いだと判断したという。守秘義務があるため具体的なブランド名は明かせないとしながらも、「国内でもっとも大きな水出しコーヒーのブランドのうち、3つを手がけた」と打ち明ける。「そこで収集したデータをもとに、私たち自身のブランド戦略を練った」。

壊滅的なtoB部門を補完するため

水出しコーヒーのカテゴリー全体に占める家庭用のセグメントはいまだ新しく、依然としてコーヒーショップが支配的だ。平均的な1杯の価格は3ドル(約317円)から5ドル(約529円)くらいで、少しでも節約したい水出しコーヒーの愛好家はAmazonに出店する業者あるいはラコロンブ(La Colombe)やグレイディーズ(Grady’s)のようなスペシャルティブランドでDIYキットを購入して使っている。

クラウドバーストの一番の売りは使い勝手の良さだ。「フィルターやグラインダーなどの特別な器具は必要ない」とアザカニアン氏は言う。コーヒー豆を粉状に挽いて袋詰めにしたクラウドバーストはフレンチプレスで一晩水出しすればよい。抽出時間は12時間から18時間だ。価格も手頃でスペシャルティコーヒー豆の市場価格と同じ程度に設定している。ひと袋14.99ドル(約1587円)なので、「1杯当たり65セント(約68円)程度だ」とアザカニアン氏は言う。

コロナ渦以前、アメリカズベストビバレッジはプライベートレーベル、カフェ、学校や職場などの食堂、ホテルをはじめとするホスピタリティ業界のパートナーに商品を卸していたが、これらの多くは新型コロナウイルスの流行にともなって大きな打撃を受けた。さらに、同社はサンフランシスコ・ベイエリアのカフェとレストランで20%の市場シェアを持っている。ロックダウン中の卸売の売上減は95%におよび、好転の兆しが見えるまで、この低迷が数週間続いた。本格的な旅行再開はこれからで、ホスピタリティ部門と旅行部門の売上はなお変動が続いている。

アザカニアン氏によると、コロナ禍のおかげで新ブランドの立ち上げスケジュールは12カ月から3週間に圧縮された。8月の販売開始に間に合うように、Amazonのような販売パートナーを見つけ、デジタルインフラを整備しなければならなかった。アザカニアン氏の話では、クラウドバーストは消費者に訴求するためのマーケティング予算をまだまったく使っていない。当初のAmazonの在庫はスポンサード広告を活用することなく最初の1週間で完売した。

ロイヤルティ獲得する得がたい好機

クラウドバーストの立ち上げは加速する消費者の動向とも符号する。そう指摘するのは調査会社のカンター(Kantar)でディレクターを務めるティム・キャンベル氏だ。同氏の言う消費者の動向には、家で料理をしたりコーヒーを淹れたりする、新しいブランドを積極的に使ってみるなどが含まれる。しかも先行き不透明な状況で、多くの買い物客は価格にも敏感だ。

おかげで、老舗であれ挑戦者であれ、どんなブランドにもカスタマーロイヤルティを獲得する得がたい好機が訪れている。もちろん、コーヒーのような習慣的に購入する食料品も例外ではない。「D2Cの未来は昨年よりも明るいが、長期的な見通しはいまだ不透明だ」とキャンベル氏は言う。このさき数カ月間、食品を扱う巨大企業とスタートアップはどちらも等しく消費者の注目を奪い合うだろうと同氏は予想する。最終的に頂点に上りつめるのはほんのひと握りの勝ち組だ。

「ベイエリアの企業として、私たちはイノベーションの盛衰を目の当たりにしてきた」とアザカニアン氏は語る。ベンチャーキャピタルが支援するイノベーションと美しさを追求するブランディングは確かに重要だが、サステナブルなビジネスモデルを可能とする経験と販路を持たなければ、大きな成長を見込めるブランドの構築は難しい。「こういう状況でこそ、私たちのような会社はスタートアップには真似のできないやり方で消費者にアピールできる」。

[原文:Why an older coffee brand is pivoting to DTC

Gabriela Barkho(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)