Amazon アグリゲーターは実店舗の小売にこだわっている。この分野の大手2社であるセラシオとブーステッドコマースは、大手小売店、DIY、ヘルスケアの小売業者とのパートナーシップを得るため、いくつものビジネスをアクハイヤー(優秀な人材獲得を目的とした買収)している。
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Amazonアグリゲーターは実店舗の小売にこだわっている。
この分野の大手2社であるセラシオ(Thrasio)とブーステッドコマース(Boosted Commerce)は、大手小売店、DIY、ヘルスケアの小売業者とのパートナーシップを得るため、いくつものビジネスをアクハイヤー(優秀な人材獲得を目的とした買収)している。セラシオは2021年12月、セキュリティ・ブリーフケースとストレージ・ソリューションのブランドであるアイデアストリーム(IdeaStream)を獲得したことを発表した。クリーブランドを拠点とする同社はウォルマート(Walmart)、ウォルグリーン(Walgreens)、ロウズ(Lowe’s)、ライトエイド(Rite Aid)で自社商品を販売している。一方でブーステッドは2022年1月にフォクシーベイ(Foxy Bae)というヘアケアブランドをアクハイヤーした。同社の商品はT.J.マックス(TJ Maxx)、マーシャルズ(Marshalls)、ターゲット(Target)、CVSで販売されている。
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実店舗でのプレゼンスを拡大
eコマースのブランドを急成長させることを主眼としてアグリゲーターの分野から生まれた両社は現在、実店舗でのプレゼンスを拡大することをめざしている。両社は、実店舗との関係が確立されている企業のブランドや人材を採用することで、従来型の小売業者に対して、より多くのポートフォリオを提供したいと考えている。大手小売店から、薬局、百貨店に至るまで、パンデミックのあいだに、競争力を維持してマーチャンダイジングを加速するため、新興のD2Cブランドを探し求めたことも、この傾向に拍車をかけている。
専門家たちは、この傾向は、アグリゲーターの成長の最新フェーズとして、最良の商品を本格的なブランドへと転換しようとしている、つまり、P&Gのような巨大企業と似たような活動になっていくと主張する。しかし、これらの専門家たちは、Amazonの物流ネットワークの外側で大量の注文品をこなすために、コストが増大することも警告している。
eコマース投資銀行のグローバルワイヤードアドバイザーズ(Global Wired Advisors)で調査責任者を務めるロブ・サーモン氏は次のように説明している。「大手のCPG企業に見られるように、目標となるのは特定のベンダーへの集中を減らすことだ。彼らは依然としてAmazonで成功しているブランドに狙いを定めているが、彼らは、ほかのチャネルに拡大するために主力となるSKUを求めている」。
セラシオ、実店舗への進出でブランドの露出を高める
セラシオは、実店舗での小売が戦略の重要な部分を占めているという。ボストンを拠点とする消費財企業である同社は、4年足らずのあいだに、多数の会社が参入しているこの分野で、調達資金において最大のアグリゲーターに成長し、今日までに34億ドル(約3880億円)を調達している。同社はペット用消臭剤、ハイキング用品、おもちゃなど200のブランドを保有する。これらの商品のなかには、すでにターゲット、ベストバイ(Best Buy)、ビクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)などの小売業者で取り扱われているものもある。セラシオのプレジデントを務めるダニー・ブックバー氏は、同社によるアイデアストリームの買収は、同社の実店舗での展示を拡大するためのものだったという。
同氏は次のように述べている。「これは当社にとって標準的な買収ではない。当社は通常、純粋な企業取得を行うが、今回は製品を実店舗へ迅速に拡大することを計画したため、チーム全体を引き入れた」。
アイデアストリームのアクハイヤーにより、セラシオはこのブリーフケース会社の会計および在庫管理システムにアクセス可能となり、これらのシステムは自社独自の技術スタックに組み込まれるようになる。このプラットフォームにより、アグリゲーターである同社は自社ブランドの在庫管理、サプライチェーン、マーケティング、国際展開を含む運用のすべての部分を管理できる。また、アイデアストリームのスタッフはセラシオの実店舗での小売部門に加えられる予定だ。
また同社は、オンラインとオフラインの小売のつながりを利用することで、ブランドの露出を高めたいと考えている。ブックバー氏は次のように述べている。「アラスカの3つの郵便番号に対応する地域のホームセンターに商品を置くと、それらの地域に関連するオンライン検索が指数的に増加することを目にしてきた。これらは相互につながり、共食いすることなく、互いに補完しあえる」。
クロスセルの機会を見計らっているブーステッド
一方で、設立2年のブーステッドコマースは自社が保有する40ブランドのデータを使用し、実店舗におけるクロスセルの機会を見つけようとしている。同社の商品には加重ブランケットのルナ(Luna)、複数のスキンケアブランド、および乳幼児向けのバス・トイレ用品を扱っている。
ブーステッドコマースの共同創設者であるケイス・リッチマン氏は次のように述べている。「当社は、自社の垂直市場内の顧客層とベンダーについて経験を積み、ほかの商品をこれらの層にパッケージ販売する方法を探している。たとえば、乳幼児向けのバスタブとトイレトレーニング用品は一緒に販売するのに適しており、当社はこの種のクロスプロモーションを活用することを考えている」。
ブーステッドは、Z世代の女性向けのヘアケアブランドであるフォクシーベイのアクハイヤーにより、T.J.マックス、マーシャル、ターゲット、CVSなどの店舗で、自社のポートフォリオをさらに多くの買い物客に見てもらうことを期待している。フォクシーベイは現在、収益の半分を自社ウェブサイトでのD2C販売から生み出している。ブーステッドは、シーイン(Shein)などのファストファッションeコマース企業に奪われた顧客層を取り戻そうとする小売業者が、このブランドの若い顧客ベースに注目することに期待していると、リッチマン氏は述べている。同社は既存の手法の一環として、自社のほかのブランドを同じ店舗に売り込む予定だ。ブーステッドは、電子メールやテキストのマーケティング情報の顧客データベースを100万人分保有している。
同業のアグリゲーターであるセラシオと同様に、同社はアクハイヤーによって実店舗の人員も増強している。リッチマン氏は、フォクシーベイのLAを拠点とする30人のスタッフは、現在約60人の欠員があるブーステッドの役割にすぐ適用できると述べている。
真のオムニチャネルブランドを求めて
eコマースのエグジットに特化したM&A企業であるザ・フォーティアグループ(The Fortia Group)の共同創設者でCEOを務めるエメット・キルダフ氏は、セラシオとブーステッドはどちらも、Amazonの巨大なマーケットプレイスを超えて成長する新しい方法を模索しているアグリゲーター市場の一部であるという。
キルダフ氏は、「Amazonアグリゲーターは最終的に、Amazonのみならず、真にオムニチャネルを実現できる強力なブランドの獲得をめざしている」と述べている。「次のステップは、アグリゲーターがオフラインの機能を強化しはじめることだ」。
グローバルワイヤードアドバイザーズのサーモン氏によると、この戦略は、アグリゲーターがD2Cブランドに狙いを定めることからはじまり、新興企業が成熟して収益基盤を多様化しようとするなかで、実店舗を包含するまでに拡大しつつあるという。
この拡大によって今後出てくるであろう課題のひとつは、アグリゲーターが大手小売店やほかの小売業者から寄せられる大量の注文にどう対処するかということだろう。Amazonのフルフィルメント能力の助けがないため、米国内で自社及びサードパーティの流通・物量インフラに投資している最大手のアグリゲーターのみが、実店舗での卸売戦略が成功した場合の需要の殺到に対応できるだろうと、サーモン氏は付け加えている。
ブーステッドのリッチマン氏にとって、小売パートナーシップのメリットは単純明快だ。「外部からの検証を得られる」ということだ。「小売店の店頭で商品を見てもらうことで、差別化が図れるのだ」。
[原文:Why Amazon aggregators are acquiring brands with brick and mortar partnerships]
著者:Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Foxy Bae