過熱するAmazonセラーの買収競争に、新たな企業たちが名乗りを上げている。その一社が、ドイツのベルリンブランドグループだ。同社は、2005年にAmazonにおける製品販売をきっかけに立ち上がった企業。現在はトルコ、スロバキア、米国、香港など、多数の市場にオフィスを構えており、Amazonやその他のプラットフォームで自社製品を世界中に販売している。
過熱するAmazonセラーの買収競争に、新たな企業たちが名乗りを上げている。
ここ数カ月のあいだ、小規模なAmazonビジネスを買収し、自社製品のポートフォリオを拡大することを戦略の中心に据える企業が驚異的なペースで現れており、それに伴い毎週のように資金調達が発表されている。実際、リサーチ企業のマーケットプレースパルス(Marketplace Pulse)によると、2020年12月以降、買収企業は合計で20億ドル(約2170億円)以上の資金調達を達成しているという。彼らの提案はシンプルで、小規模なAmazonセラーに対し、魅力的な金額でイグジットを提案する。買収後は生産規模の拡大やコスト最適化を行い、買収した商品を「真の大ヒット商品」に変えるというものだ。
こうした買収企業の一部は、Amazonエコシステムに不慣れであるため、その多くは潤沢な資金を持つ個人投資家が率いている。彼らのバックグラウンドは、ゴールドマン・サックス、エアビーアンドビー(Airbnb)、モルガン・スタンレー、グラブハブ(Grubhub)などさまざまだ。
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しかし、こうした状況が変わりつつある。最近目立っている買収企業のひとつ、ブランデッド(Branded)は1億5000万ドル(約163億円)以上を調達し、南アジアの巨大eコマース企業である、ラザダグループ(Lazada Group)の共同創業者を幹部に迎えている。
また、Amazonセラーの買収競争に最近加わった大手eコマース企業、ドイツのベルリンブランドグループ(Berlin Brands Group:以下BBG)の存在も目立つ。BBGは、2005年にAmazonにおける製品販売をきっかけに立ち上がった企業。現在はトルコ、スロバキア、米国、香港など、多数の市場にオフィスを構えており、Amazonやその他のプラットフォームで自社製品を世界中に販売している。そんな同社は2021年1月、買収分野への進出を発表。3億200万ドル(約328億円)の資金を調達し、成長著しいAmazonセラービジネスや、Amazon以外のD2Cビジネスの買収に充てるとしている。
BBGには、eコマース分野での商品開発、販売、マーケティングの確固たる実績がある。同社の参入は、Amazonセラーの買収に特化した、経験の浅い競合企業とは対照的だ。こうした買収企業の台頭はバブルにすぎず、遠からずはじけると予測する評論家もいるが、BBGのような企業の参入は、Amazonビジネスの買収が長期的に持続可能なビジネスモデルであるという主張を、裏付けるものだ。
なぜBBGが重要か
BBGは小規模で知名度は低いものの、いわばeコマース志向のP&G(プロクター&ギャンブル)だ。というのも同社は、買収事業に進出する前から14の自社ブランドを確立しており、取扱商品は2000を超える。BBGが米DIGIDAYの兄弟サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に提供したデータによると、2020年の年間売上は4億1000万ドル(約445億円)だったという。
なお、同社の自社ブランドには現在、ホーム&キッチン用品のクラースタイン(Klarstein)や、スピーカーブランドのアウナ(Auna)などがあるが、2020年12月にはじめて他社ブランドの買収を行ってから、BBGは15以上のeコマースネイティブ起業を買収している。その投資額は、3000~4000万ドル(約32億5500万円~43億4000万円)に相当するという。
CEOのピーター・チャルジャウスキー氏は、BBGが2005年以降に設立した自社ブランドについては、「すべてゼロからスケールしてきた」と述べる。「我々はビジネスの立ち上げや商品発売の方法を熟知している」。
チャルジャウスキー氏によれば、BBGはほかの多くの買収企業と異なり、Amazonだけに焦点を絞ってはいない。米国のウィンブランドグループ(Win Brands Group)と同様、BBGはAmazon以外のD2Cブランドも、ポートフォリオに組み込むつもりだ。チャルジャウスキー氏は、同社がAmazon以外のeコマースブランドにも注目するのは、欧州では「オンライン小売の大部分がAmazonの外にある」ためだと述べる。
成功する筋書きが見えている
eコマースの専門家は、BBGの最新の動きは業界の方向性を示すものだと見ている。「BBGは、Amazonでスタートしたデジタルネイティブブランドとして、ドイツで最大級の企業だ」と、Amazonに特化したエージェンシーであるリメイジング(Remazing)の創業者、ハンネス・デチェン氏はいう。「彼らのサプライヤー、物流、倉庫のネットワークは拡大しつづけている」。
一方、Amazonビジネスの買収に特化した企業の場合、「市場に参入して間もない小規模プレイヤーは(物流システムを)実質的に持っていない」ためだ。「彼らはAmazonに関する知識も、コネクションやネットワークも持ち合わせていない」。
「Amazonビジネスで高い収益をあげるのは、簡単なことではない」と、ドイツのマーケットプレースエージェンシーであるフィンク3(Finc3)の創業者、ヤン・ベヒラー氏も指摘する。「すべてとはいわないが、新規買収企業のほとんどは、この分野でまったくといっていいほど実績のないチームが運営しているのが現状だ」と、同氏は指摘。これは主にドイツの状況を指しており、ベヒラー氏の推定によれば、昨年ドイツでは15社ほどがAmazonビジネス買収市場に新たに参入した。「これらの企業の成功に関して、私はかなり懐疑的だ。だがBBGについては、成功する筋書きがはっきり見えている」。
Amazon買収企業の未来
Amazonビジネスの買収に特化した企業はしばしば、彼らが互いに直接の競合関係にないと主張する。Amazonマーケットプレイスはきわめて広大なため、多様な買収企業が差別化を行いつつ共存する余地がある。別の買収企業であるモホークグループ(Mohawk Group)の最高財務責任者、ファブリス・ハマイデ氏は、以前モダンリテールのインタビューに対し、「この広大な市場に、たったひとつの企業だけが居座ることはないだろう。プレイヤーは増えていくはずだ」と述べている。
むしろBBGのよう企業の参入は、小規模な買収企業にとって好ましい展開につながるかもしれない。大企業や経験豊富な企業が分野に参入することで、「いずれ資金力のある企業が、たった10のAmazonビジネスを買収するためだけに設立されたような、小規模な買収企業を吸収しはじめる可能性がある。むしろ、小規模企業はこうした展開を期待しているだろう」と、デチェン氏は述べる。
現時点で、最大のAmazon買収企業であり、16億ドル(約1740億円)の資金をもつセラシオ(Thrasio)は、すでにサースティ(Thirstii)というドイツの小規模買収企業を買収。市場が拡大するにつれ、ほかにも多くの企業がバイアウトを選ぶかもしれない。どこかの時点で「統合が起こるだろう」と、デチェン氏は述べた。
[原文:Why a German e-commerce company is acquiring Amazon brands]
MICHAEL WATERS(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)