2020年に大きな話題となった「SPAC」だが、2021年になっても、そのブームに陰りは見られない。乱立するSPACゲームに参戦する投資家の数は増加の一途。この新たに注目を集めているIPO手段をめぐるブームは、とどまるところを知らないように見える。だが、2021年はSPACの今後を占う重要な年になりそうだ。
2020年に大きな話題となった「SPAC」。だが、2021年になっても、そのブームに陰りは見られないようだ。
2021年1月、コンシューマー(一般消費者向けの製品・サービス)分野に焦点を当てた複数のSPACが新たに登場した。代表例が、グレイクロフト(Greycroft)の創業パートナー、ダナ・セットル氏が会長を務めるパワードブランズ(Powered Brands)や、ダラーシェーブクラブ(Dollar Shave Club)をはじめ主にコンシューマー・スタートアップをサポートしているインキュベーターで、コンシューマーとメディアに特化したSPACを運営するサイエンス(Science Inc.)だ。
乱立するSPACゲームに参戦する投資家の数は増加の一途。この新たに注目を集めているIPO手段をめぐるブームは、とどまるところを知らないように見える。だが、2021年はSPACの今後を占う重要な年になりそうだ。
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SPACについての「おさらい」
ここでSPACについておさらいしよう。SPACは、日本では「特別買収目的会社」とも呼ばれており、個人のグループが資金を集め、株式公開を目指す企業の統合や買収を行うシステムだ。SPACの場合、投資家は上場を狙う企業がわからない状態での投資が求められる。つまり、SPACの企業としての力量を信頼して投資を行う。
また、SPACを後期(レイターステージ/IPO直前の段階)の企業との関係強化の手段として捉える投資家もいる。もし資金を投じたSPACが良い成果を上げれば、他の個人投資家よりも競争上優位に立てる。しかし、「SPACの投資先企業はどこなのか? その会社は上場後も公開市場のなかで続けて行けるのか?」、結局のところは、それがすべての世界でもある。現在SPACは増え続けている。上場を狙う優良企業の数は限られており、その奪い合いが激化しているのが実情だ。
サイエンス(Science Inc.)の創業者、マイク・ジョーンズ氏は、SPACを「上場前段階の後期にある企業とともに歩んでいく」ための方法として位置づけている。現在、同社は後期企業向けのベンチャーキャピタルとして投資を行っているが、この市場が飽和状態だと感じているという。
「サイエンスはバーベル戦略を重視しており、これは理にかなった選択だ。ベンチャーでは事業化期(アーリーステージ)に投資し、SPACでは後期に投資をする」とジョーンズ氏は語る。現在、サイエンスのSPAC部門であるサイエンス・ストラテジック・アクイジション・コーポレーション・アルファ(Science Strategic Acquisition Corp. Alpha)は、コンシューマーやメディア、エンタメ業界で「市場に破壊的イノベーションをもたらすようなコンシューマー分野の企業」を探している。
注目度を増している上場手段
SPAC自体は数十年前から存在していた。だが近年になって一般的な上場プロセスを回避しようとする企業が増えたことで、SPACやダイレクトリスティング(直接上場)といった代替となる上場手段が注目度を増している。
SPACで上場したD2Cスタートアップの先駆けとも呼べるのが、遠隔医療を行うヒムズ(Hims)だ。2021年1月にナスダック(NASDAQ)に上場した同社は、評価額で16億ドル(1680億円)ともされている。ペットケアのスタートアップであるバーク(Bark)も12月にSPACから上場する計画を発表していたが、いまだ上場には至っていない。ヒムズの株価は1月28日の上場時点で17.08ドル(約1800円)だったのに対し、1月29日の終値では16.56ドル(約1740円)だった。決して華々しいデビューではないが、堅調な結果だ。
一方、最近行われたキャスパー(Casper)のIPOは、上場前の評価額から大幅に値を下げており、期待外れな果に終わっている。これを受けて、とりわけコンシューマー分野のスタートアップのあいだでは、SPACでの上場のほうがベターなのではないかという見方が広がっている。だが、本当にSPACのほうが優れているのかは、今後スタートアップの上場例が増え、検証が進まなければ分からない。
「うまくいくかは不透明な状況」
そして、必ずしもすべての投資家がSPACのほうが優れていると考えているわけでもない。スウィートグリーン(Sweetgreen)やナダーム(Nadaam)、リセス(Recess)に投資したトーチ・キャピタル(Torch Capital)の創業者のジョン・キーダン氏は「2020年は、上場を狙っている優良企業よりもSPAC経由の企業のほうが数として多いのではないか」と懸念を露わにする。
同氏はSPACの理想的な候補となりうる企業について、「以前から上場を考えていた企業であること、数十億円から数千億円規模の売上をあげていること、高成長市場に展開していること、パンデミックが追い風となった企業」という条件を挙げている。その一例が、医療分野だ。
キーダン氏は、投資先企業(ポートフォリオ[ある個人投資家や機関投資家の所有する各種有価証券の組み合わせ]に入っている会社)のひとつが「あと1〜2年のうちに上場する可能性が高い」とにらみ、SPAC経由での上場を検討するようにアドバイスしている。スタートアップにとってのSPACのメリットとして、経験豊富なSPACのサポートチームからのバックアップを得られることが挙げられる。ただし現段階では、同氏は自らがSPACを始めるつもりはないという。その理由として同氏は「SPACは今、ものすごい速度で増えている。うまくいくかは不透明な状況だ」と語り、次のように締めくくる。
「もし、増えすぎたSPACに失敗事例がどんどん続けば、市場に不安が生じるだろう。だが、それで質の低いものが一掃され、結果として正常な状態に戻ることも考えられる」。
[原文:Why 2021 is a make or break year for DTC SPACs]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)