アメリカではコーヒーショップとの卸売契約に頼っていたスペシャルティ・コーヒー業界が、ビジネスモデルの転換を迫られている。何百万人もの消費者が在宅勤務をしているなか自宅でのコーヒー消費は増加を続けており、多くのコーヒーブランドがD2Cモデルに注目しコーヒーショップ閉鎖による損失の挽回を試みている。
若者受けをするお洒落なコーヒーショップとの卸売契約に頼っていたスペシャルティコーヒー業界は、転換を迫られている。
コーヒーショップの営業が限定され何百万人もの消費者が在宅勤務をしているなかで、コーヒー焙煎業者や販売業者たちは消費者への直販をおこなう必要に迫られた。ソーシャルディスタンスガイドラインによって、近年コーヒーショップを席巻していたラップトップでの勤務や人々と触れ合うためのスペースといった文化はひっくり返された。この影響は大きく、世界最大のコーヒー・チェーンであるスターバックス(Starbucks)は座席戦略を再検討し、テイクアウト店舗のコンセプトを打ち出した。
eコマース分析プラットフォーム、プロフィテロ(Profitero)のデータによると、新型コロナウイルスが米国を襲ってから3カ月のあいだにコーヒー売上は大きな増加があった。1月の売上に比べ5月のコーヒーポッドの売上は20%の増加、エスプレッソカプセルは19%、そしてすでに飲める状態でのコーヒー販売はなんと74%も増加している。従来の(スペシャルティではない)コーヒーとインスタント分野ではこの3カ月に44%の売り上げ増加となった。
Advertisement
ビジネスモデルの模索を続けるコーヒーブランド
フードビジネス業界でデリバリーがブームとなっているなか、人々が自宅待機中にコーヒーを飲むことの大きな恩恵を受けた企業のひとつがサブスクリプションモデルのコーヒーブランドだ。焙煎業者のブラック・アンド・ボールド(Blk & Bold)はAmazonにおける需要増に加えて、5月には売上がなんと1400%も急増した。55の焙煎業者から購入ができるサブスクリプションサービス、トレード・コーヒー(Trade Coffee)は3月の時点で顧客数が10倍に増えた。
しかし、自宅用のコーヒー売上が記録的成長を見せている一方で、一部のコーヒーブランドは生き残りのためにビジネスモデルを完全に刷新せざるを得なかった。D2Cモデルに活路を見出すブランドもあれば、相乗効果による成長を求めて他の大手とのコラボレーションをしたところもあった。
テラ・カフェ(Terra Kaffe)の創業者であるサハンド・ディルマハーニ氏は、自宅でのコーヒー抽出技術に投資したことがコーヒー分野での成長に繋がったという。テラ・カフェは2019年に設立され、ボタン式のコーヒーマシンを775ドル(約8万3100円)で販売する会社だ。新型コロナウイルス拡大前はパラシュート(Parachute)やビューロー(Burrow)といった企業クライアントが興味を持っていた。
ディルマハーニ氏によると、資金調達前の最初の戦略はマンハッタンのソーホー地区をまわり、スタートアップや若者向けのお洒落なコーヒーショップを一つひとつ訪ねてコーヒーマシンを売り込むことだったという。3月に多くのオフィスや店舗が閉鎖されたとき、テラ・カフェは「必死にeコマース事業に取り組もうとしていた」焙煎業者たちとの関係を深めることで新たなD2C戦略を立てた。
マシンと豆の相乗効果
このような時期において、コーヒーは必ずしも「必需品」として捉えられていないことは確かだ。しかし、この状況はコーヒー業界におけるフルフィルメントの手段を多様化させるチャンスにもなった。テラ・カフェの場合、ネセサリー(Necessary)やパートナーズ・コーヒー(Partners Coffee)のような焙煎業者と協力し、コーヒーマシン購入の際に無料のサンプルを提供するようにした。
「良質なコーヒーが顧客に届けられることが、コーヒーマシンを利用するきっかけになってくれた」とディルマハーニ氏は話す。同時に、焙煎業者がコーヒーのサブスクリプションサービスに取り組む助けともなった。
自宅向けのコーヒーマシンの販売は、4月前後で「あらゆる指標で」増加したとディルマハーニ氏は語る。ロックダウン後の経済状況の悪化に対し、人々が「いつもと変わらない正常な状態」を求めたことが原因ではないかと同氏は推測している。彼自身も新型コロナウイルスに感染したが、ちょうどそのころニューヨーク地区の病院に無償でコーヒーマシンを提供するプロジェクトに取り組んでいたという。
オフィスから自宅へ
スタンプタウン(Stumptown)、ブルーボトル(Blue Bottle)、そしてインテリジェンツィア(Intelligentsia)といったスベシャルティコーヒーを代表する焙煎業者のコーヒーをオフィスに提供するB2Bスタートアップのジョイライド・コーヒー(Joyride Coffee)は最近、アメリカ全土でD2Cのコールドブリューコーヒー(水出しコーヒー)宅配サービスを開始した。共同創業者で役員を務めるデーヴィッド・ベラニック氏は米DIGIDAYに対して、クライアントのオフィスの大部分が閉鎖されることになった新型コロナウイルスの感染拡大から数週間以内にこのコンセプトの決定がなされたと語った。
「多くの従業員たちが在宅勤務にシフトするなかオフィスへのコーヒーデリバリーサービスでは、短期的にも会社を維持できないと気付いた」とベラニック氏は言う。新型コロナウイルスが拡大する期間中、コーヒーはコーヒーショップやオフィスではなく自宅で消費されるものへと切り替わったことを確認したのだ。スペシャルティコーヒー協会(Specialty Coffee Association)は最近、コロナ禍においてサブスクリプションコーヒーの売上が3桁の増加を見せたと報告した。
オフィスへの販売機会の喪失をさらに挽回するため、ジョイライドは「ジョイ・アット・ホーム(Joy at Home)」を6月末にローンチした。これは企業が従業員の自宅へコーヒーを送ることができるサービスだ。
「コーヒーショップ文化も残り続けるだろう」
実店舗を抱えた独立系のコーヒー焙煎業者たちもまた、コーヒーショップの限定的な営業による損失を相殺するためにオンライン売り上げを伸ばそうと試みているものの、その移行は容易ではない。
サウス・カロライナを拠点にしたメソディカル・コーヒー(Methodical Coffee)では、在宅勤務が開始されてから「特にサブスクリプションにおけるオンライン売り上げの大きな増加」があった。地域に根ざしたフォロワーの存在を考えると、これは店舗が抱えていた既存の顧客が自宅での消費に切り替わったことによるものと考えられる。しかし、共同オーナーのマルコ・スアレズ氏は消費者行動に変化があったものの、この分野ではコーヒーショップが依然として「重要な役割を担う」と考えている。そして最終的にはコーヒーショップは社会での人々の交流を提供する場所であり、その存在は復活するだろうと予想しているようだ。
ディルマハーニ氏は今後数年にわたってコーヒーの供給形態、つまり店舗やオフィスから自宅への転換は継続するだろうと予測している。「文化面での流れが変わりつつある」と彼は言う。アメリカにおけるコーヒー消費は、自宅での消費とバリスタによる消費の両方が何十年も存在してきた。「それは今後も続く可能性は高いだろう」。
[原文:Wholesale coffee brands are testing out DTC]
Gabriela Barkho(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)
Photo by Shutterstock