TikTokにおいて、シャネル(Chanel)、グッチ(Gucci)、プラダ(Prada)、エルメス(Hermès)といったブランドの#最安値商品(#cheapestthing)を買うトレンドが生まれている。TikTokでは「一番安いもの」を買うのは恥ずかしいことではなく、むしろ名誉の証となっている。
15年前のポップカルチャーには裕福な子供向けのコンテンツが溢れていた。「ザ・ヒルズ(The Hills)」「マイ・スーパー・スイート16(My Super Sweet 16)」「ザ・シンプル・ライフ(The Simple Life)」などだ。端的に言えば、「贅沢であること」がカルチャーにおいて流行していた。現在、世界的なパンデミックのなかで、ファッションとビューティの重要性は極めて低下している。しかし、だからといって「贅沢」が完全に時代遅れというわけではない。
TikTokの最新トレンドのひとつがその例だ。シャネル(Chanel)、グッチ(Gucci)、プラダ(Prada)、エルメス(Hermès)といったブランドの#最安値商品(#cheapestthing)を買うトレンドが生まれている。各種ブランドで売られているもっとも値段が安いプロダクトには、キーホルダーからリップグロスまで、あらゆるものが含まれる。もちろん、シンプルなリップグロスを購入したとしても、高級ブランドは依然として高級なパッケージを提供しており、この点がソーシャルメディアに投稿するに足るポイントとなっている。TikTokでは「一番安いもの」を買うのは恥ずかしいことではなく、むしろ名誉の証となっている。このハッシュタグは11万9100ビューを越え、今もその数は伸びている。
ブランディングとマスリーチの境界
このトレンドを利用して、デザイナーの小物を使った自分のDIYプロジェクトを宣伝するユーザーもいる。たとえば、ステッフィー・プライス(Steffie Price)の名で知られるステッフィー・イン・ザ・シティ(Steffie In The City)は、プラダの50ドルのキーホルダーをネックレスに変えるために購入した。「これは50ドル(約5400円)したけど、大きな可能性を秘めている。実際はキーチェーンとして販売されてるが、ネックレスにDIYしてみようと思う。やり方を見たければプラス・ボタンを押して(投稿にlikeをして)ね」と彼女はビデオで語った。このビデオの再生回数は700万回だ。
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米DIGIDAYの姉妹サイト、グロッシー・ポップ(Glossy Pop)はプライス氏に対し、これらの動画がフォロワーの共感を呼んでいると考える理由について聞いた。「ラグジュアリーアイテムを扱うTikTokはいつも人気があり、(ラグジュアリーでありながら)実際に手頃な価格の商品を扱うことは、TikTokを利用している若いオーディエンスにとって特に楽しめるものだ」とプライス氏は述べた。
スケーリングリテール(Scaling Retail)のCEO、スヤーマ・ミーガー氏によると、このトレンド(特にDIY要素が加わった場合)はリミックス文化を反映しているものだという。昨年のグッチ(Gucci)とノースフェイス(The North Face)のコラボレーションがその例だ。こういったコンテンツは究極的にはラグジュアリーブランドにとっても基本的には無料広告として機能し、有益であるとミーガー氏は捉えている。また、主要な顧客基盤がソーシャルメディアであまりアクティブでない企業のブランド認知度を向上させる効果もある。
「ただ遠くから(ブランド商品を)眺めているだけの人から消費者へ、そして(ただの消費者ではなく)ブランドにとっての優良顧客になってもらう、といったライフサイクルを導く方法は、顧客がいる場所に出向くことにあると、ラグジュアリーブランドたちは理解している」とミーガー氏は言った。「したがって、グッチはおそらく常に主に高級志向の消費者に向けて広告を出すだろうが、ブランドをより主流にするためにこれらのコラボレーションを行うという理由がある。高級ブランドは、高級ブランドの価値を維持することと、より大衆市場の消費者にアピールすることのあいだの境界線を慎重に見極めようとしている」。
「サブカルチャー的な声明」
クリエイター側の視点からすると、「もっとも安いもの」を紹介する動画はある種のメッセージの機能を果たしている。長年手の届きにくい雰囲気に包まれてきた高級ブランドを取り囲む、排他的なベルベットロープ(レッドカーペットや高級クラブなどで使用される、侵入を止めるためのロープ)を少し切り開いているのだ。「『私もラグジュアリーの消費者だ。年収は3万5000ドルかもしれないけど、贅沢品も変える』という声明のようだ」とミーガーは述べた。「これは非常に重大な声明だ。基本的に、高級ブランドが自分の手が届かないものではない、という主張だ」。
そして、「アンボックス(商品開封)」の要素がある。たとえば、シャネルのウェブサイトから直接注文することの楽しみのひとつは、何を注文しても、豪華な梱包を開封する体験ができることだ。「多くの人は、自慢として飾るための箱やパッケージを手に入れるためだけに、一番安いものを買っているのだろう」とプライス氏は言った。
それとは対照的に、YouTubeでアンボックス動画を最初に広めた人たちはたいていの場合、ハイファッションであふれる部屋を動画のなかで披露していた。「私にとっては(今のトレンドは)ラグジュアリーと関わりを持つこと、そして非常に手の届く価格帯であることに関するサブカルチャー的な声明に感じられる。このことはラグジュアリーブランド自身が彼らを消費者として求めているかどうかと関係ない」とミーガー氏。
大きなポテンシャルを秘めている
そして最終的には、これら小物の売り上げも、ブランドとしての重要度を維持するのに苦労している高級ブランドに依然として恩恵をもたらしている。「マーケティングとブランド認知の観点からは、これらの高級ブランドにとって(これらの動画は)悪い知らせではないと思う。キャナル・ストリート(マンハッタンの中華街の中心的な通り)に行けば偽の模造品を買える。それでも彼らは模造品を買わない。彼らは実際にブランドの商品をひとつ所有したいと思っている。この点から、彼らはブランドのロイヤルカスタマーだと言える」と彼女は言った。
プライス氏はプラダ(Prada)のキーホルダーDIYが大きなポテンシャルを秘めていることを分かっていた。「ラグジュアリーのトレンドと『一番安いもの』トレンド、それにDIYトレンドをひとつの動画のなかに取り込んだもので、バイラルになることはわかっていた。誰でも簡単に手に入る手頃な価格のものだったため、信じられないほどの反響を呼んだ。このキーホルダーのオリジナルのブラックのものは今でも売り切れ状態だ」。
[原文:The #cheapestthing Chanel sells is going viral on TikTok]
SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)