中国向けにライブコマースを提供してきたショップショップスが、2020年11月に米国市場での配信をスタートした。ローンチに勢いをつけるため、ショップショップスがパートナーに選んだのがさまざまな場面で常にアーリーアダプターとなっているレベッカ・ミンコフだ。同ブランドは米国でのライブコマースの浸透をどう見ているのか。
これまで中国向けにライブコマースを提供してきたショップショップス(ShopShops)が、2020年11月に米国市場での配信をスタートした。ローンチに勢いをつけるため、ショップショップスがパートナーに選んだのがレベッカ・ミンコフだ。レベッカ・ミンコフは2018年からこのアプリを使って中国の消費者にリーチしている。
ニューヨークと北京に拠点を置くショップショップスの創設者リイア・ウー氏によると、米国人の「動画エンターテインメント・フォーマット」、すなわちTikTokへの関心の高まりが当初は2021年後半に計画されていたアメリカ市場ローンチのタイミングを早めたという。そしていつものように、レベッカ・ミンコフはアーリーアダプターとなった。
「新しいことは何であれそうだが、うまく軌道にのせるのに時間がかかる。それから爆発(成功)する」とミンコフ氏は述べた。「我々はこのようなプロジェクトに時間がかかることを知っており、そのため常に先駆者でありたいと思っている」。
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本格的なブームは2022年以降か
米国でローンチするにあたり、ショップショップスは2020年の感謝祭(11月最終週)から毎週土曜日にホリデーショッピングイベントを、計4回開催した。各回において、ミンコフ氏のほかにシンシア・ローリー(Cynthia Rowley)やワンダー・ビューティー(Wander Beauty)などのブランドの女性創設者たちが登場した。ミンコフ氏が登場したイベントはもっとも視聴者を集め、中国の平均的なライブストリームよりも多くの視聴者を集めたと、ウー氏は述べている。視聴リピーターや購買リピーターも生まれ、平均視聴時間は10分だった。ウー氏によると、中国におけるショップショップスのライブストリームの平均視聴時間は8分、毎月700から800のライブストリームがあるとのことだ。
中国の買い物客がライブストリーミングを利用するようになった流れから判断すると、米国におけるライブストリーミングの「リアルな」急増は2022年以降になるだろう、とウー氏は語った。中国でのライブストリーミングは、最初にアリババ(阿里巴巴)のタオバオ(淘宝)を通じて広まった。同社はQVC(米国の24時間テレビショッピングチャンネル)スタイルの番組「タオバオライブ(Taobao Live)」を2016年に開始している。ウー氏は2019年2月に米国で開始されたAmazonライブ(Amazon Live)が、米国におけるタオバオライブ的存在になると推測している。TikTokブームに後押しされた米国ローンチだが、ウー氏によると、さまざまな市場を総じて見るとライブストリームの買い物客のほとんどはミレニアル世代だという。そのなかでも、ミレニアル世代の母親が主なターゲットとなっている。
中国では今ではライブストリーミングが「習慣」になっており、各地の買い物客は新しい商品を探すだけでなく、今では馴染み深いブランドの買い物にも利用を拡大している。アパレル(ショップショップス売上全体の50%)に加えて、今では美容製品(売上の25%)やファッションアクセサリー(売上の25%)の購入にも使われていると、ウー氏は言う。
コンサルティングファームのコアサイト・リサーチ(Coresight Research)によると、中国のライブストリーミング市場は2020年に倍増し、推定1250億ドル(約13兆円)の売上をもたらしたという。2015年に設立されたショップショップスは20〜30%の成長を遂げ、2020年1〜2月に売上を倍増させ、第4四半期にもさらに成長を見せた。ウー氏によると、年間を通して、高級ブランドがショップショップスでイベントを開催した結果、売り上げが5〜6桁に達し、一部のブティックデザイナーブランドは週1万ドル(約104万円)に達したという。
アメリカでの成長への期待
ミンコフ氏によると、2020年のレベッカ・ミンコフのニューヨークとロサンゼルスの店舗からのライブストリーミングによる売上は、その年の店舗内売上予想を上回ったという。ブランドがライブストリームするたびに、eコマースサイトへのトラフィックは倍増している。
しかし、米国のブランドがライブコマースというコンセプトに慣れていないため、消費者への浸透も遅れている。ミンコフ氏でさえ、ショップショップスの参加オリエンテーションの一環として実施された2時間のチュートリアルで「頭がいっぱいになった」という。ウー氏によると、米国版のショップショップスアプリでは、テキストを英語にアップデートするだけでなく、機能そのものを米国市場向けに簡素化される必要があったという。たとえば、アプリ内のゲーミフィケーションリワードは廃止されている。また、中国とは異なる支払いプロセスと米国独自のマーチャンダイジングのツールも組み込まれた。
米国の顧客からの早い段階でのフィードバックは、配信を見た消費者がショップショップス上でそのまま買い物をすることにためらいがあることを浮き彫りにした。実店舗を持つブランドからの報告によると、ライブストリームで気になった商品を見つけた顧客が、そのスクリーンショットを持って商品を直接見たいと来店することがあったという。それでも、ウー氏によると同社の米国におけるユーザー数は毎週2倍のペースで成長しているという。2021年上半期の目標は、100の小売業者を確保して利用開始させることだ。
ブランドにとってライブコマースプラットフォームで成功するかどうかは、親しみやすいホストを毎回起用した定期的なライブストリームを通じて、買い物客にブランドへの親近感を感じさせるかどうかにかかっている。ショップショップスは複数の専属番組ホストを雇っており、ブランドのサポート体制を構築している。番組の司会となるこれらホストは必然的にインフルエンサーだ。現在ニューヨークで10人のホストを雇用しており、西海岸市場のためにさらに3人を採用する予定だとウー氏は語る。顧客の注意を引くために、ブランドの創業者たちはしばしば最初のライブストリームを自らホストする。
ミンコフ氏がショップショップス上でローンチしたとき、同氏はインスタグラム、Facebook、Twitterで米国むけライブストリームの開始を発表し、ポッドキャストでも詳細に紹介した。これは「人々がライブショッピングの体験を理解できるように」だとミンコフ氏は言う。その後、同氏は4週間にわたって、土曜日午後6時に配信されるライブストリームのホストをこなした。番組はより多くのユーザーたちに見てもらうためにインスタグラムもストリーミングされたが、購入するにはショップショップスのアプリにアクセスする必要があった。
ライブコマース独自の傾向も
その後、インスタグラムもライブストリームでのショッピング機能を開始したが(レベッカ・ミンコフが注力しているライブコマースプラットフォームでもある)、ウー氏はインスタグラムを競争相手とは見ていないと指摘する。「中国では市場に複数のライブコマース企業が存在する。そもそも、ショップショップスのユーザーはSNSを利用する感覚でアプリをスクロールするわけではない。彼らは買い物を楽しみたいと思っているのだ」。さらにショップショップスは、ライブストリームによるフォロワー数や売上など、ソーシャルプラットフォームが提供していないデータも提供していると付け加えた。
また、ショップショップスはブランドに対してライブコマースに関するアドバイスもおこなう。たとえば、買い物客が都合のいいときに立ち寄れるため、ライブストリームは長いほどいいという。中国のブランドはしばしば4時間のライブストリームを配信しているが、ミンコフ氏の場合は通常45分から1時間だ。また、今のところ米国での平均商品紹介数は20点だが、ある中国のブランドは2時間で125の商品を紹介したこともある。さらに、ライブストリーム限定の商品やプロモーションの実施、景品を提供することも、定期的な視聴者を確保する鍵となっている。
ミンコフ氏によると、ライブストリームの視聴者はエンゲージメントも高く、商品のフィット感に関する詳細やスタイリングに関するアドバイスなどを求めて「たくさんの質問」を投げかけてくるという。「ブランドのWebサイトに記載された詳細情報ページを読むことはない」と、同氏は述べた。
レベッカ・ミンコフは、2021年に中国と米国の両方でライブストリーミングへの投資を拡大する計画だ。「我々は(ライブストリーミングに関して)非常に楽観的だ」とミンコフ氏は言う。「eコマースで買い物をする人が爆発的に増えていることから、これは次のブームになるだろうと思う。我々は(買い物客が)集まるところならどこであれ存在したい」。
[原文:Fashion Briefing: What’s next for fashion commerce]
JILL MANOFF(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)