マーケティング部門のなかには、調達部門は安く済ますことしか頭にないと考える人は少なくない。だが、調達部門の役員らのあいだでこうした風潮を覆そうとする動きが広まりつつある。業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。本稿では、財務上の価値とマーケティング上の目標の両立に苦闘する同役員の話を聞く。
マーケティング部門のなかには、調達部門は安く済ますことしか頭にないと考える人は少なくない。
だが、調達部門の役員らのあいだでこうした風潮を覆そうとする動きが広まりつつある。あるグローバル企業の広告主で調達を担当する上級幹部によると、こういった意義のある取り組みの一方で、会社からマーケティングコストを下げろと指示されたために、調達がなかなか進まないこともあるという。
業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。本稿では、財務上の価値とマーケティング上の目標の両立に苦闘する同役員の話を聞く。なお、発言の意図を明確にするため一部に若干の編集を加えている。
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──貴社の調達チームはうまく回っているか?
調達部門の役員は楽じゃない。いまの会社に勤めて2年になるが、大半の経営陣は基本的にマーケティングサービスの購入と、100本のペンを買うことの違いも分かっていなかった。エージェンシー2社のコストを比べて安い方にしろと指示してきた。たとえばエージェンシーの要求するキャンペーン予算が2500万ポンド(約32億円)だったとして、それがキャンペーンの本当の必要額なのか、追加料金やリベートで水増しされているのかを知る必要があるが、そうした問題も先送りされたままだ。エージェンシーが提示する額の全体像を把握できない。
──調達部門には悪評がつきまとうが、それはなぜだろうか?
それはマーケティング部門の同僚との関係性にもよるだろう。たとえば、いまの会社では、今年のマーケティング予算の削減に成功した場合も、来年度予算は今年の支出の割り当てに基づいて決定されない。どのキャンペーンなどに支出したかで決められてしまう。この調達方法の問題は、同じところに使わなかったら競合他社に負けてしまうという恐れがマーケティング部門のあいだで生じることだ。支出削減をためらうようになってしまうんだ。それと一番難しいのが、エージェンシーの価値の評価だろう。相手のエージェンシーとの相性といった、漠然としたものに価値を見出すカスタマーが多い。
──調達部門がマーケティング部門から孤立しているようにも聞こえる。
当社では調達部門がエージェンシーとのあいだでピッチの調整を行う。マーケティング部門のかわりに我々がピッチ資料を送り、それに対する回答を集めている。このやり方にも問題がある。ピッチの詳細についてエージェンシー役員から確認を受けることが多いが、調達部門の役員では答えられない。マーケティング部門にわざわざ問い合わせる必要がある。
──そのやり方のせいでエージェンシーとの仕事上で問題は生じないのか?
古臭いやり方をしていてエージェンシーをいらつかせたことは一度や二度ではない。あるピッチでは、あまりに時間がかかりすぎてエージェンシー5社のうち1社が降りてしまった。そのエージェンシーには「ほかの4社に対するベンチマークにするために参加させられていると感じた」と言われたよ。エージェンシーをそんな風に扱ってはダメだ。それでは相手からも同じように扱われても文句は言えない。価格の水増しを調べるベンチマークとしてエージェンシーを利用するような会社は、最高峰のエージェンシーから仕事を断られても不思議じゃない。
──そういった役割であれば、マーケティング部門に所属していたほうが良いのでは?
マーケティング部門に専門の調達バイヤーがいたほうが、両部門にとってもやりやすいだろう。マーケティング部門の役員、しかも初対面の相手と関係を築くのには時間がかかった。だが、いまではすっかり打ち解けた。あまり親身になってくれないケースもあった。部外者だからと、マーケティング役員から機密性の高い予算情報を手に入れるのに苦労した経験もある。もし、私がマーケティング部門に所属していれば、こういった役員ももっと情報を共有しやすいだろう。仕事をしやすくなるだろうね。
──自分の役割について理解を得るためにしたことを教えてほしい。
マーケティング部門に、私がパートナーであることを理解してもらおうと努めた。協力することで、良い契約を取り付けられるのはもちろん、より優れたサービスも提供できるようになる。たとえば最近、数日以内に始めなければならないキャンペーンがあったが、準備に3週間かかったんだ。必ず実行したい重要なキャンペーンだったので予算を承認した。以前の経営陣ではこうした柔軟性は発揮できなかっただろう。前の上司が辞めたあと、同僚の信頼を獲得するのは大変だった。調達部門はコストのことしか考えていないと思われていたからね。そもそもコストしか考えない調達は理にかなっていなかった。プログラマティックやアドテクなど、マーケターは我々よりもはるかに最新の分野に精通しているのだから。
──アドテクの調達をこれから増やしていく予定はあるか?
当社のメディアの取引方法についてもっと学んでいきたいとは思っているが、ほかの部署が担当していることだから、なかなか学ぶ機会はない。あるプロジェクトでデジタル部門の上級役員と協力したことがあり、そこで業界の現状についておおまかに説明を受けた。デジタルエージェンシーやコンテンツスタジオなどの主要ベンダーと、請求内容について詳しく解説してもらった。以前の上司とミーティングを行う機会もあった。お互いにデジタル広告分野における新人同士のようで気まずかったよ。当社はマーケティング部門の主要なチームに調達部門の役員を配置すべきだと思う。目標について理解し、抜け目のないコスト管理で目標達成を支援できるような人材が適任だろう。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)