10月23日の欧州連合(EU)の反トラスト法に関する判決によると、ファーフェッチ(Farfetch)はリシュモン(Richemont)傘下のファッションeコマース企業であるユークス・ネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter、以降YNAP)の株式47.5%の取得を進めることができる。
2022年8月に買収の可能性が発表されたとき、リシュモンの会長であるヨハン・ルパート氏は、この買収は「ラグジュアリー業界のための独立した中立的なオンラインプラットフォーム」を築くという野望への一歩になるだろうと述べていた。
EUの決定は、テクノロジーに先進的なeコマース企業であるファーフェッチと伝統的なラグジュアリー商品の企業であるリシュモンとの統合に向けた合意を阻む最大の争点のひとつだった。反トラスト法の規則では通常、ファーフェッチとYNAPのような市場運営者間の競争を制限し、市場における支配的地位を乱用するような協定を禁止している。
1月には、英国競争庁もこの取引に反対する訴えを起こしたが、3月には和解が成立した。いずれの判決も、昨年提案されたものとはまったく異なる根拠に基づいてはいるものの、取引の成立を認めている。
10月23日の欧州連合(EU)の反トラスト法に関する判決によると、ファーフェッチ(Farfetch)はリシュモン(Richemont)傘下のファッションeコマース企業であるユークス・ネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter、以降YNAP)の株式47.5%の取得を進めることができる。
2022年8月に買収の可能性が発表されたとき、リシュモンの会長であるヨハン・ルパート氏は、この買収は「ラグジュアリー業界のための独立した中立的なオンラインプラットフォーム」を築くという野望への一歩になるだろうと述べていた。
EUの決定は、テクノロジーに先進的なeコマース企業であるファーフェッチと伝統的なラグジュアリー商品の企業であるリシュモンとの統合に向けた合意を阻む最大の争点のひとつだった。反トラスト法の規則では通常、ファーフェッチとYNAPのような市場運営者間の競争を制限し、市場における支配的地位を乱用するような協定を禁止している。
Advertisement
1月には、英国競争庁もこの取引に反対する訴えを起こしたが、3月には和解が成立した。いずれの判決も、昨年提案されたものとはまったく異なる根拠に基づいてはいるものの、取引の成立を認めている。
ファーフェッチが直面している問題
2022年8月、ファーフェッチの株価は発表後に24%上昇し、時価総額は260億ドル(約3.9兆円)に達した。その1年後、8月17日の第2四半期決算報告では、四半期売上高は前年同期比1.3%減の5億7200万ドル(約859.6億円)だった。2023年8月の時点で、ファーフェッチの株価は前年同期比で83%急落している。
このeテイラーが直面している問題は、ラグジュアリー市場の広範囲に影響を及ぼしているのと同じ問題に起因しているようだ。たとえば、中国人顧客の回復の遅れや特に米国でのeテイラーでの消費低迷などが問題となっている。マッチス(Matches)は売上が低迷するなか、10月にアウトレットをローンチし、エッセンス(Ssense)は2月に100人以上の従業員を解雇した。8月の時点で、ファーフェッチはロンドンオフィスの再編と縮小を計画しており、アナリスト筋によれば、マーケットプレイスで多額のディスカウントを提供しているという。
ファイナンシャルアドバイザリー会社ウィリアム・スタンレーCFOグループ(The William Stanley CFO Group)のCFOミッシェル・デルカー氏は、「ファーフェッチは売上高が増加したにもかかわらず、支出と予算を管理する主導権を欠いていたため、最終的には経費の増加と株価の下落を招いた」と述べた。ファーフェッチは2019年、オフホワイト(Off-White)やパームエンジェルス(Palm Angels)などのブランドを擁するコンテンポラリーファッション企業ニューガーズグループ(New Guards Group)の買収に6億7500万ドル(約1014億円)を費やした。「昨年は、貿易価格と支出を比較した為替レートによる損失が、同社の継続的な売上高では補われていない」。この記事の掲載に関して、ファーフェッチはコメントの要請に応じなかった。
デルカー氏は次のようにも述べている。「ファーフェッチは2022年の対ロシアの取引停止、Covid-19による中国での取引制限、2023年春夏コレクションの配送スケジュールの変更などに対処するなど、昨年は最悪の事態に直面している」。
リシュモンにとって取引は魅力的ではなくなっている
ファーフェッチの状態を考慮し、アナリストはリシュモンが契約条件を再交渉すると予想している。
「この取引はリシュモンにとって、14カ月前に発表された時よりも財務的には魅力的ではなくなっている」と述べたのは、エコノミストでブランドストラテジストのブライス・クイリン氏だ。「このあいだのファーフェッチの株価の90%下落は、買収額を6億ドル(約901億円)以上から1億5000万ドル(約225億円)以下に押し下げている」。
買収の条件もまた変化している。クイリン氏によれば、リシュモンはYNAPの買収の価値が低下したため、さらに大きな評価損を計上することになるという。「もし買収が完了すれば、リシュモンは買収が発表されて以来、リシュモン株を保有する投資家の意欲を減退させていたであろう、ずっと頭上に漂っていた不確実性から逃れることができるかもしれない」。この不確実性は、リシュモンのYNAPが利益を生むかどうかということだ。「バランスシートが悪化し、成長が鈍化しているファーフェッチは、YNAPの残りの株式を取得できない可能性が高い」。
デジタルファッションコマース全体にとっての懸念材料
最後にテクノロジーの問題がある。ファーフェッチは、2015年にファーフェッチプラットフォームソリューション(Farfetch Platform Solutions)を導入するなど、ラグジュアリーeコマースのパイオニアだった。それ以来、このサービスはリーボック(Reebok)やマノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)といったブランドのウェブサイトのリローンチに貢献してきた。
「リシュモンはオンラインビジネスをファーフェッチのテクノロジーに移行させる必要があり、これはファーフェッチにとってはメリットがあるが、リシュモンにとっては経営上の課題となる」とクイリン氏は指摘する。「(この買収が成立した場合)このラグジュアリー商品グループはファーフェッチに成功してもらわなくてはならず、最終的には、利益を上げたことのないファーフェッチを確実に立て直すために、後々の段階で介入する必要性が出てくるかもしれない」。
ファーフェッチのようなデジタルコマースプレーヤーは、パンデミック絶頂期の勝者だった。Covid-19のシャットダウンによってラグジュアリー小売店の売上が世界的に落ち込んでいた2020年第1四半期、ファーフェッチの売上は、4つの報告セグメント全体で前年同期比90%増の3億3100万ドル(約497.4億円)に達した。今、市場は変化しており、小売業が復活し、顧客は体験に飢えている。
「より広い業界にとって、この取引はデジタル流通市場の一般的な不確実性を指し示している」とクイリン氏は言う。ファーフェッチは業界全体、特にコペルニ(Coperni)、ジャックムス(Jacquemus)、同社がライセンス権を保有するオフホワイト(Off-White)などの小規模なブランドにとって重要な存在だという。「ファーフェッチがさらに不安定になることは、デジタルファッションコマースのエコシステム全体にとって懸念材料となるだろう」。
[原文:What the Farfetch-Richemont deal clearance means for luxury e-commerce]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)