10月末に投票の運びになっている米連邦通信委員会(以下FCC)が提案する新しいプライバシー規則によって、ベライゾン(Verizon)やコムキャスト(Comcast)のようなインターネットサービスプロバイダー(以下ISP)を通じた広告配信のあり方が、根本的に変わることになりそうだ。
10月末に投票の運びになっている米連邦通信委員会(以下FCC)が提案する新しいプライバシー規則によって、ベライゾン(Verizon)やコムキャスト(Comcast)のようなインターネットサービスプロバイダー(以下ISP)を通じた広告配信のあり方が、根本的に変わることになりそうだ。
FCCのトム・ウィーラー委員長が先日明らかにしたこの新規則では、ISPが広告ターゲティングとマーケティングのために消費者のデータを共有し利用する場合、事前に消費者の同意を得なければならない。この提案は、来たる10月27日にFCCの会議で投票にかけられる予定となっており、ウィーラー委員長と委員長を支持する民主党が過半数を占めていることから、承認される見通しだ。
規則を嫌うマーケティングの業界団体側は、控えめにいっても不安を感じているようだ。全米広告主協会(ANA)やアメリカ広告業者協会(AAAA)は、この規則について「前例のない1歩」だとして、「活力のある確立したインターネット経済をひっくり返す」ことになると述べている。
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この記事では、提案されている変更点と、そのマーケターへの影響について、把握しておくべきポイントを一問一答形式で取り上げる。
――このFCC提案は正確にはどのようなもの?
提案されている規則では、データの収集と利用について、ISPは消費者に通知しなければならない。また、保護必要情報(sensitive information)の利用と共有では、事前に消費者からオプトインで同意を得る必要があり、こちらの方がさらに議論をよんでいる。この提案が承認されれば、ISPは、収集する情報の内容と、そのデータの利用と共有の仕方を正確に規定し、共有する相手についても明らかにすることが必要となるだろう。
――どこに影響があるの?
この規則は高速インターネットサービスにおけるすべてのプロバイダーに適用されることになっており、顧客データを使った収益計画に支障が出るだろう。マーケターもまた、広告ターゲティングと消費者のプロフィール構築で消費者のデジタルデータに頼っており、影響があるはずだ。一方で、Googleのような検索エンジンや、Facebookのようなソーシャルネットワーキングのプラットフォームには影響がないとみられる。
ウィーラー委員長は次のように述べている。「誤解のないように話すと、この提案は家庭での接続やモバイル接続といったブロードバンドサービスを利用している顧客から収集される情報を対象としている。Webサイトやアプリについては、米連邦取引委員会(以下FTC)に権限があり、それらのプライバシー慣行には適用されない」。
――それでは完全に公正とはいえないのではないか。なぜそのようなことになったのか?
FCCが管轄するのは、デバイスをアプリやモバイルサイトにつなげるネットワーク機能までだ。そうしたISPによって消費者がつながる先の、Facebook、Google、AppleといったプロバイダーはFTCの管轄になる。
たくさんのISPが当初、この規則だとGoogleやFacebookといったインターネット大手と比較して自分たちに打撃があると心配したが、そちらは引き続きFTCの規則で管理される。現実を見れば、FacebookとGoogleはすでに市場で十分なアドバンテージを手にしている。また、今年の3月に出されたこの提案の最初の草案では、消費者のブロードバンドデータをサードパーティーに販売する場合、消費者のオプトインがほぼ必須とされていた。しかし新しい提案は、そこまで厳格なものではなくなり、保護必要情報のサードパーティーへの販売について消費者のオプトインを求めるものになっており、保護必要情報でない情報については、消費者がオプトアウトしない限り利用できる。
「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」が報じたように、ベライゾンの最高プライバシー責任者のカレン・ザカライア氏も先日、ベライゾンはFCCがISPなどの「声を真剣に受け止めているらしいことを歓迎している」と語っている。
――この規則のどこにマーケターは関係してくるの?
FCCによる保護必要情報の定義は、健康情報や金銭の情報に関して、広告業界が定義している保護必要情報よりも幅広い。FCCの定義では、アプリ利用データやWebブラウザの履歴までもが保護が必要な情報になる。広告ネットワークやWebサイトの運営者は現在、ターゲティング広告の受け取りについて、消費者がオプトアウトできるようにしており、消費者の明示的なオプトインを必要にはしていない。
そもそも、オプトインするような人はほとんどいないだろう。そのため、ベライゾンなどのISPは、人々が許可を選択した場合を除いて、ほかの場所のユーザーの閲覧行動から収集したデータをターゲティングに利用することをやめることになると思われる。
――マーケターはデータへのアクセスが制限されるようになるのか?
そうなるはずだ。消費者の閲覧履歴や位置情報をベライゾンやコムキャストのようなプロバイダーから入手しているマーケターは、膨大なデータソースを利用できなくなる。マーケターは「オプトインを求めるメッセージが殺到するのを、望む人などいない」と語る。裏を返せば「オプトインを受け入れる人などほとんどいない」ということだ。
オムニコム系代理店DDBのエグゼクティブバイスプレジデントでデジタル担当ディレクターのアズハー・アハメド氏は、「このような細かいガードレールを設定されると、広告主として有意義なコンテンツを提供する能力がひどく制限される恐れがある。相手のことを何も知らないまま、ターゲティングもせずにマスオーディエンス相手に広告ビジネスをするというのは、石器時代に帰れとでもいうようなものだ」と語った。
――しかしそれが消費者のためになる、というのは本当?
それはまだわからない。コンシューマー・ウォッチドッグ(Consumer Watchdog)やセンター・フォー・デモクラシー・アンド・テクノロジー(CDT:Center for Democracy and Technology)などの消費者擁護団体は、この取り組みを称賛しており、より厳しい条項を求める声さえある。
「この対策が消費者から見て道理に適ったものであることは否定できない。消費者はデジタルチャネルのいたるところで、おなじみの過剰な広告メッセージに露出されている。たとえ個人情報を共有し、オンラインのクッキーを許可しても、受け取るコンテンツは往々にして見当違いなこともあり、だからアドブロックのような対策が盛んになっている」と、マーケティング調査会社L2のインテリジェンスグループのシニアリサーチアソシエイトであるテイラー・マームスハイマー氏は語った。
Tanya Dua (原文 / 訳:ガリレオ)
Photo from ThinkStock / Getty Images