ドルチェ&ガッバーナ初の非代替性トークン(NFT)コレクションとなる「ジェネシスコレクション(Collezione Genesi)」は、9月末に行われたオークションで最終的に約565万ドル(約6億4000万円)で落札された。これは正しい方向に踏み出しているのだろうか?
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)にとって、この2年は波乱に満ちていた。デザイナーによる卑劣な失言に中国人モデルにスパゲッティを箸で食べさせるという軽蔑的な動画などがあり、とくに後者は290億ドル(約3兆2940億円)規模の中国のラグジュアリー市場に悪影響を及ぼした。そしていま、ブランドイメージをリセットしようとしているドルチェ&ガッバーナは、NFTコレクションを発表した。だがこれは正しい方向に踏み出しているのだろうか?
565万ドルで落札された初のNFTコレクション
ドルチェ&ガッバーナ初の非代替性トークン(NFT)コレクションとなる「ジェネシスコレクション(Collezione Genesi)」は、9月末に行われたオークションで最終的に約565万ドル(約6億4000万円)で落札された。このコレクションは、ブロックチェーンの構築と接続を促進するポリゴン(Polygon)のプラットフォーム上にあるラグジュアリーマーケットプレイスのUNXDによって主催された。コレクションの中でもっとも価値があったのは、ドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏がデザインしたデジタルの「グラス・スーツ(Glass Suit)」で、総額105万788ドル46セント(約1億1936万円)の値がついた。そのほかの作品には複雑なデザインの王冠「ドージェクラウン(Doge Crown)」や、ふたつのバージョンの「ドレス・フロム・ア・ドリーム(Dress from a Dream)」などがある。これらのNFTの落札者は、自分の寸法に合わせて仕立てられた洋服の現物も受け取ることになる。
Advertisement
第一弾としてのNFTドロップ
D&Gは、これをNFTドロップの第一弾にしたいと考えている。同ブランドの目的は、音楽アーティストがNFTを通じて会員制アクセスを提供しているのと同じように、購入者にさまざまなレベルのブランド限定コンテンツやインサイダーアクセスを提供することにある。UNXDプラットフォームの開発者であるシャシ・メノン氏は、『ヴォーグ・アラビア(Vogue Arabia)』や『ワイアード・ミドルイースト(Wired Middle East)』の発行元であるネルヴォラ(Nervora)の創業者だ。メノン氏はメタバースへのD&Gの進出に関わることができて光栄だとして、次のように語っている。「このプロジェクトは、4月にD&Gと交わしたたったひとつの会話から生まれた。その翌日、我々のプレゼンテーションはイタリア語に翻訳され、取締役会に届けられた。そしてその日の夜にドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏がみずから承認した。我々がやったことはすべてそこからスタートしている。この急速に動いている分野に我々とともに迅速に飛び込んできた組織に私は大きな敬意を表したい。彼らがこのプロジェクトに深く関わっていることは驚くべきことであり、本当に感動的だ。私は10年以上ファッション業界に携わってきたが、これはほかに類を見ないプロジェクトだ」。
実物に匹敵するデジタルクチュールの試み
メノン氏は躊躇することなく、作品の細部にいたるまでのレベルの高さを指摘し、その芸術性を強調した。「我々のクリエイティブスタジオは、これらのアイコニックな実際のアイテムと見た目も感触もまったく同じ作品を制作するのに、時には何百時間も費やした。物理的にすばらしい作品と同様のクリエイティブプロセスを、デジタル空間にも向かわせることができるということを示したかった。デジタルアセットの長年の課題のひとつは、限界生産費が低いかゼロだと思われているせいで、デジタルアセットの内在価値が低く設定されてしまうことだ。そこで我々は、それが事実ではないことを視覚的に伝えたかった。撮影、ライティング、テクスチャリング、物理学など、一見すると目立たない部分にまでこだわり、これらの作品を実物のような感触に仕上げている。これまで誰も目にしたことがないだろう」。
デジタルクチュールの試みが、D&Gのようなラグジュアリーブランドから出てくることは間違いない。しかしオウロボロス(Auroboros)のようなデジタルファーストのブランドも、デジタルならではの忠実かつ高度に再現したディテールで、超現実的な要素の表現を目指したオートクチュールの衣服を発表している。アンリアルエンジン(Unreal Engine)によってガーメントの制作が向上すれば、より多くのブランドが物理的な服に匹敵する、あるいはそれ以上のデジタルガーメントを再現できるようになる。
デジタルファッションが最大級に成長すると期待するDAO
D&Gの作品は、ボストンプロトコル(Boson Protocol)、プランクシー(Pranksy)、purplesq、分散型自律組織(DAO)のレッドDAO(Red DAO)といったNFTコレクターがイーサリアムで入札して購入している。レッドDAOは、物理的なバージョンも付属している「ドージェクラウン」のオークションを、423.5ETH(約127万ドル、約1億4400万円)で落札した。また、純粋にデジタルのみのジャケット「インポッシブル(Impossible)」2点も落札しており、今回のファッション・ドロップでの総支出額は190万ドル(約2億1600万円)近くになっている。
レッドDAOのメンバーであるメーガン・カスパー氏は、暗号資産投資会社マグネティック(Magnetic)のマネージングディレクターだ。今回のオークションについて彼女は次のように話している。「デジタルNFTファッションに関するレッドDAOの予測では、今後20年間で世界の潜在的な収益が少なくとも2倍になるとしている。それはファッションのデジタル化と、その過程で自然に生まれる革新的な新しいビジネスモデルによるものだ。私たちは、デジタルファッションが暗号資産クラスのセクターとして最大級のものになると見込んでいる。ファッションに特化した初のDAOとして、レッドでは、ブロックチェーン技術を用いてファッションのIPや所有権をマネタイズする新たな方法を提供する新興ビジネスモデルを活用し、業界の障壁を打ち破り続けることを計画している。UNXDのD&Gのドロップは、主要なラグジュアリーファッションブランドのNFTを含む史上初の試みだった。ファッションは、その人の物理的なアイデンティティの一部であり、当然ながら、その人のデジタルアイデンティティの一部でもある。2025年までにゲーム業界は30億人のユーザーを抱えるまでに成長すると予想されているが、その全員がデジタルファッションを通じて自分のアイデンティティを表現しようとするだろう」。
従来の価値観では成功しないNFTの課題
さらに、NFT空間におけるコミュニティ構築の概念もとても重要である。D&GのNFTドロップの場合、暗号資産空間に統合されているのではなく、D&Gの経験だけに限定されているようだ。NFT分野のある関係者によれば、多くのブランドが望むような類のコミュニティを形成すると、常に相互コミュニケーションする暗号資産空間での既存の構造を発展させる機会が失われるという。NFTプラットフォームのムーンウォーク(Moonwalk)の創始者であるシヴ・マダン氏とグレッグ・コンシリオ氏は、デジタル空間のまさしくその側面、すなわちコミュニティ文化に基づいてNFTを構築している。「ひとつのNFTを100万ドルで売ったとしても、本当のオンラインコミュニティの創造にはつながらない。でも100万個のNFTを1個1ドルで販売すれば、それが可能になる」。これは、デジタルファッションの世界をカバーする拡張現実対応の雑誌『CYBR』を創刊したジェイムズ・ジョセフ氏を突き動かす考えと同じである。「従来のファッションの世界が従来の価値観のままで暗号資産の世界に参入しても、NGMI(成功しない)だ」と彼は言う。「実際のコミュニティ、支援者への報酬、さらには無料のエアドロップまで提供するこの新しい世界は、100万ドル規模のブランドが消費しろと人々に指示しても、それは受け入れられないだろう」。
NFTに参入する人々が増えるにつれ、パリス・ヒルトン氏やショーン・メンデス氏など、多くの有名人が自分のNFTをローンチしているが、購入する人はそれほど多くない。その中には、コゾモ・デ・メディチというユーザーネームでNFTの熱心なコレクターであるスヌープ・ドッグ氏もいるが、彼は近々、自分のコラボレーションをローンチする。また最近ではリース・ウィザースプーン氏が初めてNFTを購入した。暗号資産ウォレットがより普及して利用しやすくなれば、市場はより多くの有名人の投資対象として開放されていくに違いいない。
[原文:What makes the D&G NFT different from the rest?]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida、編集:山岸祐加子)
Glossy Japanでは、Instagramでも情報発信中。いま注目のD2Cブランドのキーパーソンなどをゲストに迎え、インスタライブ「Glossy Hot Live」を開催しています。次回のライブは11月4日。ゲストにデジタルクリエイターの大石結花さんをお迎えし、Appleとの仕事のきっかけ、日米のテック事情の違い、ウェルネス視点でみるアプリなど、クリエィティブなテクノロジー活用術を伺います。