マーケティング業界において、またひとつ、ややこしい新語が加わりました。「ゼロパーティデータ」です。これは、オーディエンスデータを勝手に取得するのではなく、適切に要求して得たデータのこと。今回のデジタルマーケティングの新語について解説する「一問一答」シリーズでは、このゼロパーティデータについて解説します。
マーケティング業界において、またひとつ、ややこしい新語が加わりました。「ゼロパーティデータ」です。
英国の個人情報保護監督機関であるICO(Information Commissioner’s Office:情報コミッショナー局)は、広告業界が現在、オープンエクスチェンジで行っている個人情報を使用した広告売買が一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)に違反しているという警告を発しました。それだけではなく、ICOは7月8日、ブリティッシュ航空(British Airways)とマリオット・インターナショナル(Marriott International)に重い罰金を科しています。これらを受けて、マーケターにとってカスタマーとのやりとりや宣伝において、GDPRを遵守することの重要性が増してきました。
ここで登場するのがゼロパーティデータです。ゼロパーティデータとは、オーディエンスデータを勝手に取得するのではなく、適切に要求して得たものです。今回のデジタルマーケティングの新語について解説する「一問一答」シリーズでは、このゼロパーティデータについて解説します。
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――まず、ゼロパーティデータとは一体なんですか?
ゼロパーティデータは、ある個人が広告主に対して意図的に共有するデータです。たとえば、ある個人が自分と関係のある何らかのオファーを広告主から受けるのと引き換えに、その広告主に自分のデータを使うことを許諾するといったケースのことです。ゼロパーティデータは調査企業のフォレスター(Forrester)が昨年11月に命名した用語で、現在注目を浴びているもの。これはオーディエンスが「個人情報を守りたい」と考える一方で、「ブランドに自分のことを分かってほしい」とも思っている、という分析に基づいているといいます。
――でも、ファーストパーティデータとは何が違うんでしょう?
ファーストパーティデータは、広告主が自社チャネルで自動的に収集するオーディエンスのデータです。ゼロパーティデータは、ファーストパーティデータの一種ともいえるでしょう。ただし、ゼロパーティデータの場合は、オーディエンスが自分たちの好みや心象について、興味のあるブランドに対して意識的に共有するデータです。
いまのGDPRの影響下にある広告ビジネスにおいて、民族的な出自や性的指向といったセンシティブなデータを扱うためには、この明確な同意が重要になるのです。こうしたデータを明確な同意なしに収集するのは違法であり、ICOは一部企業によるこのGDPR条項違反を指摘しています。
――ゼロパーティデータがそれほど重要なのはなぜですか?
ゼロパーティデータは基本的にクリーンで、コンテクストに基づいており、同意をきちんと得たデータです。それゆえに広告ビジネスにおいて単一の消費者プロフィールに統一できるという大きなメリットがあるのです。「とりわけ消費者データの入手方法が限られている広告主にとって、ゼロパーティデータを導入すれば広告支出について、ある程度の分析と最適化ができるため、とても魅力的だ」と、カスタマーデータプラットフォームのブルーコニック(BlueConic)で戦略部門のシニアバイスプレジデントを務めるコーリー・マンチバック氏は指摘します。
エージェンシーのチーター・デジタル(Cheetah Digital)は7月10日、ウェイン(Wayin)の買収を発表しましたが、これもゼロパーティデータが目的のひとつとなっています。ウェインはブランド用にデータと引き換えに遊べるゲームを制作して、売上をあげている企業。2017年からウェインは13億以上のゼロパーティのカスタマーデータを収集しています。クライアントにはボーダフォン(Vodafone)やレキットベンキサー(Reckitt Benckiser)、ニュージーランド航空(Air New Zealand)、マンチェスター・シティFC(Manchester City FC)などが名を連ねています。GDPRがデータに関する同意の必要性をより明確にしたことで、データを共有してもらう見返りを提供しようとする広告主が増えてきました。そのため、ウェインのような企業が求められているのです。
――でも、ゼロパーティデータという表現は分かりづらいですね。
そこが難しいところです。ゼロパーティデータは基本的に、「同意を得たファーストパーティデータ」といえます。なぜ、新たな用語が必要なのか、疑問に思う業界のエグゼクティブが存在するのも確かです。ウェインのような企業は、調査およびユーザーの許諾を得たデータをゼロパーティとしています。ですが、このデータを何らかの形で使用するにはデータをIDとリンクさせる必要があります。リンクさせたものがファーストパーティデータであり、これはユーザーが削除を依頼すれば、必ず削除されるデータとなっています。
位置情報に関するカスタマーデータプラットフォーム、リップル(Rippll)でCEOを務めるダグ・チズム氏は次のように指摘します。「同意を得たファーストパーティデータが『ゼロパーティ』と呼ばれているが、昔ながらの同意を得ていないファーストパーティデータや同意を得たファーストパーティデータの追跡について、我々はもっと議論を深めなければならない」。
――広告主にとってのメリットは?
ファーストパーティデータに多い、いわゆる推測データよりも、同意のうえで提供されたゼロパーティデータのほうが正確です。こうしたデータは、数こそ少ないですが、積極的なユーザーのデータを多く含んでおり、ブランドからの情報を欲しがっている場合が多いのです。広告主にとっては金脈とも呼べる存在といえるでしょう。ゼロパーティデータならではのマーケティング戦略もあります。たとえば、個人にターゲティングした広告がクリックスルー率に及ぼす影響だけでなく、カスタマーの考え対する影響といった分析も可能となります。
――デメリットはありますか?
ゼロパーティデータやファーストパーティデータは、いずれも同じような強みを持つ一方で、その規模面はデメリットになります。同意を得たユーザーデータは、広告においてもちろん貴重なのですが、影響力のあるキャンペーンを展開するのに必要なだけのゼロパーティデータを集めるのは、容易ではないかもしれません。ゼロパーティデータの不足、そして収集にかかるコストといった問題から、どれくらいデータが必要か考え直さざるをえない広告主も出てくるでしょう。同意を確実に得たデータのために高いCPMを払いたくない広告主も出てくる可能性はあります。また、ゼロパーティデータでは既存のカスタマーに関する分析しかできないという問題もあります。新しい市場に進出する際には、効果が限定的になってしまうのです。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)