IPv6は、広告主にとってさらに役立つ識別子になる可能性がありますが、この新しい標準仕様への移行は混乱をもたらしており、またプライバシーに関する懸念を引き起こしています。デジタルマーケティングの未来に示唆を与える用語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回は、IPv6を取り上げます。
広告のターゲティングや追跡を行う企業が、コネクテッドTVなどクッキー(cookie)を利用できないデバイスを識別するためによく利用しているのが、IPアドレスです。しかしいま、「IPv6」と呼ばれる新しいIPアドレスへの移行が進んでいます。これにより、個々のデバイスをより確実に識別できるようになりますが、デバイスの追跡で混乱がもたらされる可能性もあります。
人々がサイトやアプリにアクセスするときにやり取りされるIP(インターネットプロトコル)アドレスは、インターネット上で電話番号のような役割を果たす番号です。通常は、インターネット接続に使用されるネットワークごとに、固有の番号が割り当てられます。したがって、同じWi-Fiiネットワークに接続しているコネクテッドTVとラップトップは、同じIPアドレスを持つことになります。
一般に、IPアドレスはデバイスの場所を特定するために使用されます。しかし、広告会社がデバイスと個人を対応付けたり、コネクテッドTVなどに広告を配信するためにデバイスと世帯と対応付けたりするために使うこともできます(後者のケースのほうが多いでしょう)。「特にコネクテッドTVの場合、常に取得できる永続的な識別子がないため、我々はこれ(IPアドレス)を利用してリーチやコントロールの頻度を決めています」と、トレーディングデスク企業のザクシス(Xaxis)で北米地区のデータおよびテクノロジー運用マネージングパートナーを務めるマイク・ピスラ氏はいいます。
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IPv6は、広告主にとってさらに役立つ識別子になる可能性がありますが、この新しい標準仕様への移行は混乱をもたらしており、またプライバシーに関する懸念を引き起こしています。デジタルマーケティングの未来に示唆を与える用語をわかりやすく説明する「一問一答」シリーズ。今回は、IPv6を取り上げます。
――IPv6とは何ですか?
IPv6は、IPアドレスの次期バージョンの名前です。IPアドレスの世界では、現バージョンのIPv4から次期バージョンのIPv6への移行が10年前から行われています。この移行について知っておくべきことは、いままでよりIPアドレスの数に余裕が生まれるため、インターネットに接続するすべてのデバイスに番号を割り当てられるようになるということです。
IPアドレスを電話番号のようなものと考えてみてください。米国では現在、3桁の市外局番を含む10桁の電話番号が使われています。しかし、米国で電話番号を必要とする人が増え続け、10桁の数字の組み合わせでは全員に電話番号を割り当てることができなくなったとしましょう。この場合、20桁の電話番号に移行すれば、すべての人に十分行き渡るだけの電話番号を確保できます。これがまさに、IPアドレスで起こっていることです。IPv6は20桁の電話番号のインターネット版なのです。
「IPv4では、インターネット全体で利用できるIPアドレスの数が40億あまりに制限されています。たくさんあるように思えますが、推計によれば、現在インターネットに接続しているデバイスの数は数百億台で、さらに急速に増え続けています」と、IDマッチングを専門とするマーケティングテクノロジー企業バウンスエクスチェンジ(Bounce Exchange)のCTO、アンドレ・ヒル氏は指摘しています。
――十分な数のIPアドレスがあることがなぜ重要なのですか?
IPアドレスをより細かく割り当てられるようになるからです。IPv4では通常、複数のデバイスが共有するネットワークごとに外部IPアドレスを割り当てますが、IPv6ではデバイスごとに独自のIPアドレスを割り当てます。そう説明するのは、クリエイティブ資産管理を手がけ、独自の動画広告サーバーを運用しているエクストリーム・リーチ(Extreme Reach)のCTO、ダニエル・ブラケット氏です。
――つまり、IPv6アドレスを固有のデバイスIDとして利用できるということですか?
その答えは、イエスでもありノーでもあります。IPv6アドレスをデバイスID代わりに使用できる可能性はありますが、IPv6だけを利用して広告のターゲティングと追跡を行うべきではないと考えられる理由があります。そのひとつは短期的な混乱、もうひとつは長期的な懸念です。
――短期的な混乱とはどういうことですか?
IPv4からIPv6への移行は、IPアドレスを利用してデバイスを識別している広告会社に混乱をもたらします。インターネットに接続しているIPアドレスは、その多くがいまもIPv4です。検索大手のGoogleが公開しているIPv6の普及データを見ると、IPv6アドレスを利用しているGoogleユーザーの割合は、世界全体で27%に過ぎず、米国でも35%です。携帯電話、ラップトップ、コネクテッドTVをIPv6対応のハードウェアにアップグレードする人々が増えれば、IPv6のシェアは上昇するでしょう。
しかし、IPv6がインターネットトラフィックの大部分を占めるようになるまでには、数年かかる可能性があります。しかも、その時点でも古いデバイスはIPv4アドレスを使用しているでしょう。アップグレードの頻度が少ないと思われるコネクテッドTVデバイスでは、特にその可能性が高くなります。コネクテッドTVデバイスのオペレーティングシステムは「最新ではないことが多く、たいていがIPv4です」と、従来型TVとコネクテッドTVの分野で自動広告取引を手がけるタタリ(Tatari)のエンジニアリング担当副社長、パトリック・ステイン氏は述べています。その結果、ひとつの世帯でIPv6を使用するラップトップとIPv4を使用するコネクテッドTVが同じネットワークに接続しているのに、広告会社が各デバイスを別々の世帯のものだと勘違いする可能性があるのです。
――長期的な懸念とは?
プライバシーの問題です。IPv6アドレスは個々のデバイスに割り当てられるため、個人を特定できる情報と見なされる可能性がIPv4よりも高くなります。この個人を特定可能という問題に加え、デバイスが記事、動画、広告などのコンテンツをインターネット経由でリクエストするたびに、(IPv6を含む)IPアドレスがやり取りされるという問題があります。そのため、企業はあらかじめユーザーの同意を得なくても、そのユーザーのIPアドレスを簡単に収集できてしまうのです。
「IPv6の問題は、その仕組み上、企業がIPアドレスを入手できてしまうことにあります。そのため、たとえ(ザクシスのように)IPv6の情報を利用していなくても、そう主張して人々に納得してもらうことは難しくなる可能性があるのです」と、ピスラ氏はいいます。
――それは問題ですね。プライバシーの問題に対処するためにできることはないのでしょうか?
あります。ステイン氏が述べているように、一部のモバイルオペレーティングシステムメーカーは、IPアドレスを定期的にランダムに割り当てる設定を導入しています。さらに、欧州の一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州で近く施行されるプライバシー法のようなプライバシー関連の法律は、IPアドレスを個人情報として分類し、本来広告に利用するためのものではないIPアドレスを広告会社に使わせないようにしています。「IPアドレスはインターネットにネットワークルーティング機能を提供するために作られたものであり、その目的で使用されてきました。しかし、広告目的で悪用されているケースもあるのです」と、ブラケット氏は語っています。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)