米マクドナルド(McDonald’s)が「チャンネル・アス(Channel Us)」というスピンオフのYouTubeチャンネルをはじめたのは、2015年7月のことだった。しかし、それからわずか1年で閉鎖されることになる。この失敗は、ブランドのメディアを活用したマーケティング活動の参考事例となっているようだ。
米マクドナルド(McDonald’s)が「チャンネル・アス(Channel Us)」というスピンオフのYouTubeチャンネルをはじめたのは、2015年7月のことだった。しかし、それからわずか1年でこのチャンネルは閉鎖されることになる。
ユーチューバーのオリー・ホワイト氏とヘーゼル・ヘイズ氏をフィーチャーしたこのYouTubeチャンネルは、ビデオブロガーになる方法やファッションショーを開く方法など、キャリアに関するさまざまなトピックをカバーしていた。その目的は想像通り、16歳から24歳のユーザー層を惹きつけることにあった。だが、そうした若いオーディエンスは次第に姿を見せなくなる。もっとも多いときには75万8000ビューを獲得したこともあったが、2016年に1000ビューを超えた動画はひとつだけだった。
米DIGIDAYはこの件についてマクドナルドにコメントを求めたものの、現在までに回答は得られていない。だが、同社はこのYouTubeチャンネルが失敗した原因について、飽和状態となっているこの分野でコンテンツを作成することの難しさにあったと別の場で語っている。クリエイティービーメディア(Creatv Media)の創設者、ピーター・サティ氏は、すべてのブランドが自社のファンをメディアコンテンツに惹きつけられるわけではないと述べている。
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「自社のチャンネルやOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスで成功できる可能性が本当にあるのは、正真正銘のライフスタイルブランドだけだ。これをうまくやってのけたのが、レッドブル(Red Bull)だ」とサティ氏はいう。
リスクの高い新規チャンネル
また、主張できる具体的なライフスタイルがないブランドは、既存のチャンネルやクリエイターを活用したほうがいいと同氏は指摘する。
マクドナルドのようなブランドは、インフルエンサーを自社の動画やチャンネルに登場させることで、彼らスターの力を独占したがる。だが、ブランドのチャンネルでコンテンツを公開する場合、フィーチャーしたインフルエンサーのファンと良好な関係を作ることが難しいという問題がある。
「私がオーディエンスなら、ブランド最優先でインフルエンサーは二の次だとわかった時点で、すぐにコンテンツを観るのをやめるだろう」と、VCCPキン(VCCP Kin)でマネージングディレクターを務めるピート・グレンフェル氏はいう。それよりは、自社の複数のチャンネルでクロスプロモーションを展開したほうが、効果が高いことにブランドは気づくからだ。
コントロールを明け渡すべき
ここで重要なのは、コントロールを手放すということだ。つまり、インフルエンサーにブランドのストーリーをブランドの視点(または言葉)で語らせるか、チャンネルにコントロールを明け渡すかという問題だ。インフルエンサーをメッセンジャー(ブランドメッセージの代弁者)にするのではなく、メッセージ(インフルエンサーからのメッセージ)そのものにする必要がある。
自社チャンネルならば、独自コンテンツがどのように消費されているかのデータを知れる。だが、若いオーディエンスにリーチしたいなら、Snapchat(スナップチャット)など、詳しいデータが得られない外部のチャンネルにコントロールを明け渡すべきだ。
「コンテンツを公開すれば、あらゆる場所に配信されるというのがいまの流れだ」と、ソーシャル動画情報企業バースト・インサイツ(Burst Insights)のCEO、マイケル・リットマン氏。「重要なのは、もはやサブスクリプションを拡大することではない。さまざまなチャンネル全体でブランドのオーディエンスを増やすことだ」と指摘した。
また、マクドナルドのコンテンツは、同社がオムニコム(Omnicom)と新たに締結したマージンなしの契約に従って、厳密にチェックされるようになっている。5000個のマーケティングコンテンツを制作するという方針が掲げられるなか、パフォーマンスのよくないコンテンツはすぐに終了させられることになるだろう。
スピンオフには十分な資金が必要
オグルヴィ・アンド・メイザー(Ogilvy & Mather)でイノベーション担当プランニングパートナーを務めるジェイムズ・ワトリー氏によると、さらに大きな問題はコンテンツの配信場所だという。Facebookが動画の世界でますます支配を強め、YouTubeのようなプラットフォームがその割を食っているからだ。FacebookやSnapchatなど動画コンテンツの多いアプリの利用時間が長くなるなか、ブランドにとっては、自分の「家」(この場合はYouTubeチャンネル」)にオーディエンスを引き込もうとするより、自分からオーディエンスに向かって行くほうが理にかなっている。
「ほかの場所でパーティーをやっていて、みながそこにいるというのに、自分の家を建ててパーティーを開く必要があるだろうか」とワトリー氏。
調査会社ソーシャルベイカー(Socialbakers)のソーシャルメディアアナリスト、ジョーダン・ジュリアン氏もこの意見に同意する。「現状では、スピンオフチャンネルは急速に金食い虫になっている。メインのブランドチャンネル向けのコンテンツを作るのに費用がかかりすぎて、2番目のチャンネルにまで手が回らないのだ」。
2016年現在、YouTubeなどのチャンネルは「料金を払って遊ぶ場所」になっている。そのため、「チャンネル・アス」のような取り組みに十分な予算を注ぎ込まないことは、誤りとさえいえるかもしれない。5月にはじまったばかりの「コークTV(CokeTV)」は、動画1本あたり15万ほどのビューを定期的に獲得している。彼らは「チャンネル・アス」に似たコンテンツを作っており、マニー・ブラウン氏やドディー・クラーク氏といったビデオブロガーが毎週トランポリンやパルクールにチャレンジしている。「コークTV」は十分な資金かけることで成功した例だと、ワトリー氏らは指摘している。
Grace Caffyn(原文 / 訳:ガリレオ)