5月17日、JAA(日本アドバタイアーズ協会)はWFA(世界広告主協会)と共同で、「グローバルマーケターカンファレンス2018」を開催。Googleやサムスン(Samsung)などグローバル企業におけるクリエイティブの最新動向に加え、グローバルとローカルのクリエイティブはどちらが重要かについて議論が行われた。
ローカルとグローバルのクリエイティブは、果たして共存しえるのか?
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(以下、JAA)は5月17日、東京ミッドタウンで「グローバルマーケターカンファレンス2018」を開催した。これは世界最大の広告主団体、世界広告主連盟(以下、WFA)が主催する「WFA グローバルマーケターウィーク2018」(5月15日~18日)の一環。日本での開催は、今回がはじめてとなる。
カンファレンスでは、広告業界で巻き起こる変化や、クリエイティブの最新動向に、集結した国内外のトップブランドのマーケターたちが熱心に耳を傾けた。なかでも、グローバルのクリエイティブはローカルにも通用するのかというディベートを繰り広げるセッション、「ディベート:グローバルクリティブ vs ローカリクリエイティブ」では、会場を巻き込んで白熱した議論が展開された。
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ローカルに軍配か!?
セッションでは、グローバル派とローカル派、2チームに分かれてそれぞれの立場を主張。ローカル派にはパナソニック コネクティッドソリューションズ社の常務 エンタープライズマーケティング本部長である山口有希子氏と、デス・オブ・バッド(Death of Bad)でクリエイティブディレクターを務める曽原剛氏が登壇。グローバル派には、資生堂のチーフクリエイティブオフィサーである山本尚美氏、スタンダードチァータード銀行 デジタル&リテールマーケティングでグローバルヘッドを務めるサム・アーメッド氏が参戦した。
ディベート開始前には、「グローバルクリエイティブは、ローカル泣かせか?」という質問に対して、モバイルアプリを活用したカンファレンス参加者への投票が行われた。結果は、「そう思う(Yes)」が54.14%、「そう思わない(No)」が45.86%。
議論の口火を切ったのは、ローカル派の山口氏。欧米のHQはグローバル観点で制作されたクリエイティブは、いかなる地域や文化にも共通して受け入れられると信じ込んでいると主張した。生活スタイルや商習慣が多様であるにも関わらず、グローバル共通のクリエイティブは機能しないと指摘する。日本のようにローカルチームは、HQからの押し付けではなく、それぞれの地域の特性を汲んだクリエイティブを作ろうとするエネルギーに溢れていると話した。
続けて曽原氏は、ローカルに即したコンテキストでなければ、人の心には刺さらないと同意を示す。グローバルである程度顧客に受け入れられたクリエイティブであれば、ローカルに合わせたコンテキストを考えなくても、ある意味安全と言える。しかし、同氏は、真にグローバル市場で勝負したいのであれば、コンフォートゾーンを飛び出し、各地域の文化、歴史、感性を仔細に至るまで理解すべきだと話した。
他方、グローバル派のアーメッド氏は、クリエイティブのそもそもの目的は、グロースを伸ばすことと、より収益的な面から反撃する。多種多様なアイデアをまとめるのには、膨大な時間とコストを要するからだ。大きなアイデアがあり、ひとつのクリエイティブで包括できれば、限られたリソースを効率的に使え、コスト削減になると訴える。
さらに、「ローカルはこれが違う、あれも違うと不満が多すぎる。グローバルは、ハッピーな人たちの集まりだ。我々は、常にポジティブだ」と続け、会場の笑いを誘った。
加えて、山本氏は、ローカルのクリエイティブマネジメントについて、ネックは効率性であり、ユーザーエンゲージメントを保つためのクオリティを維持できるか、疑問を投げかけた。そのうえで、グローバルクリエイティブの方が、ROIに貢献できると強調する。また、ありとあらゆるグローバルのインサイトが、より良質なクリエイティブ制作に繋がるとも反論して見せた。
Think globally, Act locally.
ディベート終了後に再び行われた会場投票では、「グローバルクリエイティブは、ローカル泣かせか?」という同じ問いに対して、若干ではあるが、「そう思う(Yes)」が増え、ローカルチームが勝利。
勝利したローカル派からは、曽原氏が「ローカリゼーションは非常に重要。それぞれの地域や文化に根ざした『ローカルネス』がなければ、グローバルにも成功しない」とコメント。さらに、山口氏も、「コンセプトとコンテキストがある。コンセプトはグローバルとローカルで同じでも、ローカルに適した文脈がなければ通用しない」と同調した。
ブランド全体として、グローバルとローカル共通して考えなければならないのは、クリエイティブを通して感動を与えること。目指す方向は同じでも、実行の部分(エクセキューション)では、ローカルの視点を取り入れるべきであり、その方が遠回りのようで実は効率的であると、結論づけた。
とはいえ、この議論に正解はないのは、誰もが納得するところだ。ディベートの内容を締めくくるのに相応しいコメントを残したのは、グローバルチームの両氏だった。
資生堂の山本氏は、「グローバルvs.ローカルと、白黒つけがちだが、グレーゾーンがあってもいいのではないか。グローバルとローカルの中間があるべきだ」と発言。続けて、アーメッド氏も、「『グローカライズ』という言葉が適している。50:50で、どちらも重要なことに変わりはない」と、ローカルチームと健闘の握手を交わしながら語った。

写真左から、パナソニック山口氏、Death of Bad曽原氏、スタンダードチャータード アーメッド氏、資生堂山本氏、WFAマーケティングサービス グローバルヘッドのロバート・ドレブロウ氏(モデレーター)
50:50というと、ありがちな回答に聞こえるが、その適切なバランスは各ブランドにより異なるはずだ。そのバランスを模索することこそが、マーケターに課せられた課題と言える。
日本はもっと自信を持つべき
DIGIDAY[日本版]では、WFAのプレジデント兼ロイヤルバンクオブスコットランドのチーフマーケティングオフィサー(CMO)のデイビッド・ウェルドン氏と、WFA CEOのステファン・レールケ氏にも、本セッションに関する追加取材を実施した。
まず、東京初開催となったカンファレンスについて、レールケ氏は次のように語る。「日本の広告主が、よりグローバルの知見や情報に積極的にリーチしようとしているのを感じる。日本は世界でも規模の大きいマーケットで、ようやくグローバルへの関心が高まってきたという印象だ」。
さらに、今回のディベートについて感想を求めると、「『世界はフラットだ』というのは嘘。地域により文化や考え方・受け止め方が違うのは当然だ」と、両氏は口を揃えた。そのうえで、ウェルドン氏は、「世界は異なるという前提に立って、デジタルが素晴らしいのは、リーンにトライ&エラーできること。その地域でどのようなクリエイティブがウケるかは、やってみないとわからない」。デジタルを活用することで、より良いものを制作することができ、データなどに基づいて、より速くテスト・改善できる利点に言及した。
「ミレニアル世代やダイバーシティなど、グローバルの観点だけで語ることはできない」と、レールケ氏も、考えを述べる。「『トランスナショナル』というように、国や文化の枠を超えたグローバルな動向を捉えつつ、実際のクリエイティブに落とし込む際には、どうすればローカルにフィットするか考える必要がある」。

WFAプレジデントのデイビッド・ウェルドン氏
最後に両氏は、日本の特有の文化が生み出す、洗練されたクリエイティブには、世界が注目しているという。
「日本はもっとクリエイティブの高さに自信を持つべきだ。日本の広告主がそこに自ら気づき、よりグローバルな議論や対話に参加してくれることを期待している。日本が広告において、グローバルに貢献できることはもっとあるはずだ」。
Written by 亀山愛
Photo by Shutterstock(TOP画像)、亀山愛(本文中)