Facebook 広告のボイコットに見る、広告購入の新しい基準

ヘイトスピーチ投稿への対応が不十分だとして、多くの広告主がFacebookへの出稿を停止するなか、企業の広告費がネット上にほかにも存在している対立を煽るようなコンテンツにどう投入されているか、ひいては広告主が自社のオーディエンスをどのようにセグメント化しているのかにまで注目が集まっている。

6月末までに、ユニリーバ(Unilever)、ベライゾン(Verizon)、ディアジオ(Diageo)、ホンダ(Honda)、コカ・コーラ(Coca-Cola)などの大手広告主が、少なくとも7月末まではFacebookへの広告出稿をキャンセルすると発表した。

ジョージ・フロイド氏が殺害された事件をきっかけに世界中に広がった激しい抗議運動を受け、企業は人種差別問題を軽視できないと判断し、ヘイトスピーチに対して適切な処置を行わないFacebookに資金を提供しないよう呼びかける抗議者たちに、素早く同調した形だ。そうすることで、今後広告を出稿するメディアの選び方について、ひとつの先例を示したと言えるだろう。

「最初の取り組みとしては評価できるが、人種差別反対活動は長く継続していかねばならないものであり、そのためには企業、業界全体が具体的なアクションを取っていく必要がある」と、マーケティングコミュニケーション企業、プラットフォーム13(Platform 13)の創業者であるレイラ・ファター氏は語る。「求められているのは、自分自身や、自分たちの企業についての不都合な真実をしっかりと認め、問題に向き合い、対処することだ。これは数日、1カ月、今年中にといった短期間で『解決した』と言えるような現象ではない」。

いかに業績と主張を両立させるか?

そして、Facebookへの出稿を取りやめた広告主たちがいま格闘しているのが、人種差別主義者のレトリックには広告ボイコットで抵抗するという誓約と、巨大なソーシャルプラットフォーム上でいままで当たり前に使っていたビジネス手法とを、いかに両立させるかという問題だ。なるほど、広告主の多くはいまに至るまで、人種差別について、そしてそれが長年はびこってきたことに自分たちがどう関わっているのかについて、批判的に考えてこなかった。だからなのか、人種差別に反対していると急いで表明しようとしているが、発信しているメッセージと実際の状況との乖離については、まだ十分に検討できていないようだ。ネット上の虚偽情報を評価する組織、グローバル・ディスインフォメーション・インデックス(Global Disinformation Index)によれば、6月22日から6月26日までのあいだ、抗議行動に関する誤った情報やヘイトスピーチを掲載している記事に、ウォルト・ディズニー(Walt Disney)や、Amazon、マイクロソフト(Microsoft)といった企業の広告が、アドテクベンダー経由で購入した広告枠に掲載されていたという。そうしたことが、彼ら企業が人種差別を公式に非難していた時期に起こっていたのだ。

「企業は、どこに広告を出すか、それが社会にどんな影響を及ぼすのかを、慎重に考えるようになってきている」と、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)のEMEA(欧州/中東/アフリカ)地域担当メディアディレクター、ジェリー・デイキン氏はいう。「プログラマティックテクノロジーは、適切な消費者にリーチすることに焦点を当てており、どんなコンテクストでリーチしているかはあまり重視されていない。そのため多くのマーケターが、本物のジャーナリズムや上質なコンテンツが伝えるものから離れてしまった」。

デイキン氏は、ゲームデベロッパーのエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)でマーケティングインテリジェンスのグローバル責任者を務めていたベリンダ・スミス氏らとともに、世界広告主連盟(World Federation of Advertisers)のタスクフォースの先頭に立ち、広告主たちが、多様性や包括性を訴えるメッセージを出すだけでなく、価値観を共有する企業に広告出稿できるようにするための一連のステップを検討している。「広告主が出稿先のメディアを管理しやすくすることが重要だ。そうしてヘイトスピーチや虚偽の情報を掲載しているメディアに広告費を出さず、質の高いインターネットの構築へ投資するという対応に、足並みを揃えて挑戦していく」と、デイキン氏はいう。

すでにやり方を切り替えた広告主たち

広告主のなかには、すでにメディア予算の投入先をマイノリティコミュニティのパブリッシャーに切り替えているところもある。グループエム(GroupM)などは、一部の広告主からの指示を受け、メディアオーナーとのプライベートな取引を行うためのプログラマティックマーケットプレイスを、ここ数週間で構築したという。「いまは、マイノリティコミュニティの媒体をプッシュし、彼らを支援するために何ができるのかや、今後も長く出稿先として付き合っていけるのかを見極めようとする動きが業界全体としてある」と、グループエムでブランドセーフティ担当グローバルバイスプレジデントを務めるジョン・モンゴメリー氏は語る。

黒人が配信するポッドキャストに目を向けている企業もある。通信会社のAT&Tは、多文化ポッドキャストネットワークのポッド・デジタル・メディア(Pod Digital Media)と提携し、傘下の携帯通信事業者クリケット・ワイヤレス(Cricket Wireless)の広告を出す番組を探している。「AT&Tは、視聴者が自社のターゲット層にマッチしているというだけでなく、メディアとして長期的にコミットすることを視野に入れているポッドキャストをいくつか見極めて、黒人の声をサポートしようとしている」と、ポッド・デジタル・メディアのCEO、ゲリー・コアイシー氏は話す。

こうした取り組みは、これまでのメディア戦略を慎重に検討しなければ実現できない。実際に広告主のなかには、従来の切り分け方でターゲット層を見極めるのではなく、行動や、個人的な興味、ライフステージなどをベースにターゲットをセグメント化するという、細かい違いに着目する方法をすでに検討するところも出てきている。そしてその背景には、セグメント化の手法のなかに、人種差別を後押しするようなものが存在しているという事実がある。BAMEというBlack(黒人)、Asian(アジア人)、Minority Ethnic(少数民族)をすべて一緒くたにした用語などもそのひとつだ。実際にはそれぞれの人たちが、異なる豊かな伝統や、体験、関心事を持っている。

いまマーケターに対応が求められている

「広告購入におけるインクルージョンは、業界全体として見ても問題の改善が遅れている分野であり、ここ数週間の動きを考えると、マーケターの迅速な対応がいかに重要かわかるはずだ」と、アウトドアブランド、ザ・ノース・フェイス(The North Face)のマーケティング担当バイスプレジデント、スティーブ・レスナード氏はいう。ザ・ノース・フェイスは、メディア戦略をどう変化させるのか、今後数週間のうちにもう少し踏み込んだ形で表明する予定だという。

「セグメント化すると、必ず黒人が傷つけられることになる」と、クリエティブエージェンシー、トランスレーション(Translation)のCEO、スティーブ・スタウト氏は話す。「エージェンシーは、人口の13%を占めているという事実に基づいてアフリカ系アメリカ人をセグメント化するが、それでは彼らがカルチャーに与えている絶大な影響を捉えきれない。黒人が生み出している価値は、これまでと同じセグメント化手法を使っていては、正しく評価されないままになってしまう」。

いま広告業界に起こっている変化で、企業がこれまで人種的平等を制度的に促進してこなかったという事実を埋め合わせることはできないが、企業はもはやどっちつかずの態度で傍観してもいられない、というのも事実だ。

「ABCやHuluは我々なしでもやっていける」

「福祉と持続可能性について広告を出すにあたっては、当社はこれまでも多様性や包括性について触れていた。ただ正直なところ、動物福祉ほどには強く訴えてきていなかった」と、ハンサム・ブルック・ファーム(Handsome Brook Farms)のCMO、マシュー・シャーマン氏はいう。だがそうしたスタンスも、フロイド氏の死と、それを受けての抗議活動をきっかけに見直さざるをえなくなっていると、シャーマン氏は述べている。

たとえばハンサム・ブルック・ファームでは、広告予算の投入先としてマイノリティコミュニティのパブリッシャーと黒人インフルエンサーを探すよう、すでにメディア・PRエージェンシーに依頼しているという。「ファネルの下に近い部分でも、安定した資金へのアクセスが望めないような企業をもっとサポートしていきたい。ABCやHulu(フールー)といった企業は、我々の広告費なしでもやっていけるはずなのだから」と、シャーマン氏は話す。

「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)への賛同を表明するため、メッセージ発信の機会や広告費を活用して社会正義を支援し、訴えを拡散し、寄付をして、一緒にやっていける新しい媒体を見つけるつもりだ」と、シャーマン氏は締めくくった。

Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)