メディア活用を、自社が掲げる価値観に沿った形で行う大手企業が増えている。こうした企業の経営陣は、ESG(環境[Environment]、社会[Social]、ガバナンス[Governance])分野における自らの関心事項と調和する形で広告を展開するよう、マーケティング担当者やエージェンシーらに求めている。
メディア活用を、自社が掲げる価値観に沿った形で行う大手企業が増えている。こうした企業の経営陣は、ESG(環境[Environment]、社会[Social]、ガバナンス[Governance])分野における自らの関心事項と調和する形で広告を展開するよう、マーケティング担当者やエージェンシーらに求めている。
しかし、これまでよりさらに(人種や性別など、社会問題的な観点において)包括的かつ、サステイナブルなメディアプランを作るよう頼むこと自体は比較的簡単でも、そのプランが実際にどのような社会的、環境的影響を持つのか測定するのは、はるかに複雑な作業だ。ユニリーバ(Unilever)の最高ブランド責任者かつ最高ダイバーシティ/インクルージョン責任者であるアリーン・サントス氏によると、問題のひとつは、そもそもこうした目標を達成するための長期計画がないことだという。計画のない目標はただの願望でしかない。
「マーケターたちは『いまの時代、企業が(何か目標を掲げるなど)大きなアクションを起こすと、それに対するバックラッシュが起きるリスクは非常に高くなっている』と口を揃える。だがバックラッシュの理由は、そもそも企業が自らの行動に一貫性を持てていないケースが多いからだ」とサントス氏。「人々は、そうしたアクションが、しっかりと裏付けられているかを見ている」。
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ユニリーバが、ESG関連のマーケティング活動に時間をかけてきた理由は、ここにある。彼らの本格的な取り組みの第一歩は2016年、広告から有害な固定観念を取り除くという公約からはじまった。そしてこの年の3月、同社は(自らの人種・民族的アイデンティティが理由で)メディアで活躍する機会を奪われているモデルたちを広告で積極的に起用すること、広告に起用されたモデルたちの体型や肌の色を、デジタル修正しないことを約束した。
広告のみならず、イノベーションも
現在ユニリーバは広告だけでなく、より上流部分を巻き込んだ取り組みをはじめている。具体的には、特定の製品についてのオーディエンス調査の方法から、イノベーションチームを通じて新しい製品を開発する方法まで、徹底的に見直されているという。
たとえば、ユニリーバは現在、障がいを持つ人々に向けたデオドラント製品をテスト中だ。同製品は、専門家やマーケター、デザイナー、エンジニア(そこには、実際に障がいを持つ人々も含まれている)が開発プロセスを指導したおかげで、ここまでこぎつけたという。こうした、より包括的(インクルーシブ)なイノベーションが、今後も展開されることが期待されている。
サントス氏は、「障がいを持つ人々に関する広告表現は、大きく改善された。だがユニリーバの現在地は、そこからさらに進んだところにある。我々はいまや、障がいを持つ人々に寄り添うような、イノベーションを生み出すことを考えている」と述べる。
今後、企業のあいだでこうした取り組みが成功するかどうかは、適切な社内プロセスを構築できるかにかかっている。これが実現できなければ、人々は作業を省こうとしたり、エネルギーをほかの場所に集中させてしまう。「私たちは、新しい働き方を創造しようとしている」とサントス氏。それは、「具体的なコミットメント」を生み出すために、どのように文化や社会にポジティブな影響を与えられるかを、時間をかけて考えることからスタートする必要があるという。
嘘偽りがあってはいけない
企業のブランディング支援を行うエージェンシー、キュリアス・ロンドン(Curious London)のマネージング・ディレクターのニッキー・カニンガム氏は、「広告やブランディング領域において、オーセンティシティ(authenticity:一貫性、本物らしさ、嘘のなさ、からくる信頼性)はますます重要な要素になりつつある」と述べる。
ブランドの成功はブランドの評判にかかっている。だとすると、人々の倫理的・社会的な意識が高まる昨今においては、ESGの取り組みは、ブランドの成功に密接に関わっているといえる。ただいうまでもなく、そこに嘘偽りがあってはいけない。ソーシャルメディアが普及し、企業が世間の厳しい目にさらされやすくなった現代において、オーセンティシティを担保する唯一の方法は「真にオーセンティックである」ことしかない。
またカニンガム氏は、口先だけのリップサービスやPR演出は、すぐに見抜かれてしまうと警鐘を鳴らす。「最近では、控えめな態度であっても通用しないことがある。企業は、ESGへのコミットメントが、単に自らのアピールのための取り組みではないということを、人々に理解してもらう必要がある」。
二者択一ではない
ユニリーバはこうした考え方を、メディアバイイングを含めた、同社のあらゆるマーケティング活動に浸透させようとしている。実際サントス氏は、彼女のチームに対し、たとえこれまで慣れ親しんできた手法を変更してでも、より多様なオーディエンスに、適切な形でユニリーバのメッセージを届けるよう求めている。こうした姿勢に対し一部のシニカルな人々は、ビジネススケールが大きくなればなるほど、倫理観を優先することは実際には難しいというだろう。しかしサントス氏は、これは「スケールか倫理観」のどちらかを選ばなければならないという、二者択一の問題ではないとし、ニュアンスを追求することの重要性を以下のように述べる。
「広告表現ひとつひとつに、消費者が持つ多様な属性を反映させることができなければ、業界全体が変わることなど望むべくもない」。
サントス氏が重要だと主張するのは、バランスを見極めることにほかならない。ESGに拘りすぎるあまり、利益を上げるという目標から目をそらしてしまうと、ビジネスに損害を与える可能性がある。しかしだからといって、企業たちが自らの役割を見直す必要がないというわけではない。もちろん、失敗することもあるだろう。とにかく重要なのは、ブランドの目的と、文化的不和やコミュニティの優先順位を混同しないことだという。後者は、決して前者の重要性を損なうものではないのだ。
とはいえ、多額の資金が投下されている状況下では、当然そのリターンも求められる。ブランドの社会的役割を最優先とするのは、容易なことではないだろう。加えて世の中には、確固たる意思に基づいて挑戦する企業を、好意的に思わない人々がいる。
「ケースバイケースで判断することなので、包括的な回答はできない。しかし重要なことは、あらゆる人々に(広告が掲げる世界観に)自分が含まれていると感じてもらうことだ」。
インドでのキャンペーン事例
サントス氏は、自身の主張を裏付ける例としてインドで実施したキャンペーンを引用する。2016年、インドのトランスジェンダー・ポップ・バンドを起用した、レッドラベルティー(Red Label Tea)のキャンペーンでは、ジェンダー平等が推進された。
「一部の消費者がこのキャンペーンを好まないことはわかっていたが、我々はそれで進めることを決めた」と同氏。「最終的には一部の顧客を失ったものの、さらに多くの顧客を獲得し、ブランドが社会で果たす役割を発信することができた」。
[原文:‘We’re creating new ways of working’: Unilever on how ESG informs its advertising and media buying]
SEB JOSEPH(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)