大手ゲームメーカーEAにとって2021年は最高の年だった。収益はほぼ倍増し、同社のゲームプレイヤーは飛躍的に増加している。米DIGIDAYは、EAスポーツのグローバルブランド管理担当シニアバイスプレジデント、アンドレア・ホープレイン氏に、2021年の最大の成功の裏にあった戦略について話を聞いた。
大手ゲームメーカーのエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts:以下、EA)にとって2021年は最高の年だった。2021会計年度の第2四半期から2022会計年度の第2四半期のあいだに収益はほぼ倍増、これは大衆文化の主軸としてのビデオゲームの存在感が増していることを反映するものだ。
EAはこの12カ月間に、この幸運を生かしてモバイルゲームデベロッパーのグルー・モバイル(Glu Mobile)を21億ドル(約2410億円)で、レースゲームスタジオのコードマスターズ(Codemasters)を12億ドル(約1380億円)で買収するなど、M&Aを盛んに行ってきた。
米DIGIDAYは、EAスポーツ(EA Sports)のグローバルブランド管理担当シニアバイスプレジデント、アンドレア・ホープレイン氏に、2021年の最大の成功の裏にあった戦略、そしてEAが2022年に、この勢いにどう投資していきたいかについて話を聞いた。
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インタビューは、読みやすさを考慮し少し編集を加えてまとめてある。
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――この1年、EAスポーツのタイトルの動きはどうだったか?
2021年はEAスポーツにとって、勢いのある大きな1年となった。スポーツ、ゲーム、エンターテインメントの境界線はますます曖昧になってきており、その結果として、これまでで最大の年のひとつとなった。FIFAシリーズでは、これまでで最高かつ最大のゲーム「FIFA 22」を発売したばかりだが、この半年で1億人を超えるファンがこのフランチャイズに参加している。また、マッデンNFL(Madden)シリーズのエンゲージメントは週を追うごとに伸び続けており、F1(「F1 2021」)も2021年のトップクラスのゲームになり、このビジネスで2桁の成長を遂げている。
勢いといえば、EAスポーツは今年、2億3000万人以上のファンにリーチしたが、今後もそれが加速しないと疑う理由はないと思う。私は、今後2~3年のうちに5億人のファンを獲得することを目標としている。
――従来のスポーツファンの世界とゲームの融合は、ストリーミング空間における個人のクリエイターによって推進されてきた。EAは、自社のゲームに携わる個人クリエイターを支援するために、どのような取り組みを行っているのか?
クリエイティブな業界で働く我々は、クリエイターエコノミーをサポートすることが仕事だ。そして、我々のファンほど強力なものはない。彼らは我々と同じくらいクリエイティブだ。我々はクリエイティブなコミュニティを愛している。我々は過去10年間、ゲームチェンジャー(Game Changer)プログラムで、クリエイターと密接な協力関係を築き、内々に我々の開発プロセスに参加させてきた。
10年が経ち、我々はこのプログラムを進化させ、今まさに独自のクリエイターネットワークを作り上げたところだ。
このネットワークは、創造性とはどのようなものかという我々のビジョンを強化させ、私たちが称賛したい創造性の能力、さらには種類を拡大させた。ストリーミングが得意な人だけでなく、写真家、作家、絵が上手な人など、さまざまな人が対象となる。私が今のプログラムを気に入っているのは、あらゆる種類の多様なクリエイターに作家性とプロデューサーとしての力を与え続けている点だ。
――この夏、ゲーム業界を席巻したハラスメントや不祥事疑惑の渦中で、EAは騒動とは無縁のように見えたが、その理由は?
我々の業界で起きていることを聞いたり読んだりするのは、本当に残念なことだった。EAでは、このようなことを本当に真剣に受け止めている。DE&Iは、我々が何者であり、そして我々が持つ才能、持ちたいと思う才能、さらには、我々が有するプレイヤーの多様性をどのようにサポートするかについて、我々がどう考えるかという文化に深く根ざしている。
EAの核心は、プレイヤーと従業員のコミュニティにとって安全な環境を約束し、維持することに重点を置いていると言える。従業員が懸念を表明できるようなツールを用意しており、提起された懸念はすべて徹底的に調査される。
また昨年は、アクセシビリティ技術を民主化するための特許権の不行使誓約であれ、有害な行為を防止し、そのような文化を支援しないことを保証するためのゲーム内ツールであれ、この分野が抱える課題を積極的に解決しようとする取り組みに力を注いできた。我々は非常に真剣に、この課題に取り組んでいる。
――EAは、非ゲームコンテンツの制作にあたり、どのようにゲームを活用したのか?
我々は、自分たちを単なるゲーム会社だとは思っていない。我々はスポーツの未来の熱狂の中心にいる、と私は思っている。そのため、スポーツとエンターテインメントとゲームのあいだの境界線をいかにして曖昧にするか、また、ストーリーを伝え、ファンの世界の育成を促進する無数の方法を考えることができる。
昨年、我々が行った仕事のなかで、非常に誇りに思っている例がいくつかある。それは、深いストーリーテリングと、私たちが祝福できるリアルタイムの瞬間の両方を備えている。ひとつは、先日発表したアンインタラプテッド(Uninterrupted)とのパートナーシップで、ホッケーの世界における多様な声を紹介し、賞賛するものだ。(プロホッケーの)ルーク・プロコップ選手との6分間のドキュメンタリーを制作することができた。それはまさに、彼がホッケーの世界でゲイの選手としてカミングアウトする瞬間だった。
もうひとつの素晴らしい例は、よりリアルタイムなものと言えるかもしれないが、マッデン内のレーティングアジャスター・プログラム(ゲーム内の選手の能力を現実の選手のものにアジャストさせるプログラム)だ。ここ数週間は、(元プロフットボール選手の)ペイトン・マニング氏にレーティングアジャスターのライブ統計を担当してもらっていた。マニング氏にできることは、現実世界のスポーツの統計を取り、それをゲーム内の公式レーティングに反映させることだった。
12月中頃あたりから、自分のレーティングに不満を持ったトム・ブレイディ選手が、マニング氏とソーシャルメディア上でバトルを繰り広げ始めた。これは面白いことであり、我々は現実世界のスポーツから実際にエンターテインメントを生み出し、それがゲームの中のプレイと結びついているのだ。
――2021年にはモバイルゲームが爆発的に普及したが、EAはこれにどのように対応してきたのか?
モバイルはここ数年、我々にとって大きな焦点となっていた。モバイルは大きなチャンスであり、極めて加速されたペースで成長している。モバイルについて考えるとき、最も重要なことは、オーディエンスの立場に立って考えることだと思う。プレイヤーがいる場所と、プレイスタイルのあいだにある摩擦を減らすために、できる限りのことをすることが我々の義務だ。
過去1年間にわたって、グルーとプレイデミック(Playdemic)という、実に重要な買収を行った。グルーは、「タップ・スポーツ・ベースボール(Tap Sports Baseball)」と「タップ・スポーツ・フィッシング(Tap Sports Fishing)」を、プレイデミックは、「ゴルフ・クラッシュ(Golf Clash)」を提供している。これらの買収が素晴らしく、意図的なものである点は、スポーツを楽しむ人々のプレイスタイルやモチベーションを向上させることに非常に役立っていることだ。
スポーツ系のモバイルゲームにおける我々のこれまでのポートフォリオの多くは、シミュレーションベースのゲームだったが、グルーとプレイデミックによって、我々の幅広いファン層のモチベーションに対応できるようになった。これらのチームメンバーを組織に取り込み、より幅広いカテゴリーで彼らがもたらす強みを活用し続けることで、我々の今後の可能性が開けることに私はとても興奮している。
[原文:‘We’re at the white-hot center of the future of sport’: A Q&A with EA Sports svp Andrea Hopelain]
ALEXANDER LEE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)