新型コロナウイルスの到来から数カ月。少なくとも近い未来の文化的風景の不変的な特徴として、ブランドはウイルスの存在を受け入れようとしている。新型コロナウイルスはファッション業界にすぐさま甚大な影響をもたらした。そして今、その影響がデザインのプロセスにまで広がり始めている。
新型コロナウイルスの到来から数カ月。少なくとも近い未来の文化的風景の不変的な特徴として、ブランドはウイルスの存在を受け入れようとしている。
新型コロナウイルスはファッション業界にすぐさま甚大な影響をもたらした。そして今、その影響がデザインのプロセスにまで広がり始めている。
コロナに影響を受けた作品たち
オランダのクチュールブランド、ヴィクター&ロルフ(Viktor & Rolf)は7月上旬、2020年秋コレクションを発表。「チェンジ(Change)」と題したコレクションには、スカート部分が大きく広がるドレスが3点含まれており、そのうち1点はウイルスの外見を模した突起に覆われている。
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そのデザイナーは7月15日に公開されたキャンペーン動画のなかで、パンデミックとソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)の重要性がインスピレーションになったと語っている。ドレスはまだ販売されていないが、ヴィクター&ロルフの作品は通常、1000ドル(約10万円)以上の価格が付けられる。
ソーシャルディスタンシングを目的とした衣料品は、大きな付属物が飛び出したデザインを中心に、次々と提案されている。ドレスが1500ドル(約15万円)前後するパペッツ・アンド・パペッツ(Puppets and Puppets)、AREAなどのブランドは、ヒップの部分が大きく広がったスカートやフープで膨らませたスカートを発表し始めている。いずれもソーシャルディスタンシングがテーマだ。
特注の帽子や衣装を手掛けるベロニカ・トッピーノ氏は、人と人の距離を開ける手段として、つばが異常に広い帽子を発表した。金属製の帽子もある。一方、メゾン・マルジェラ(Maison Margiela)はフェイスカバーにユニークな解釈を加え、顔を完全に覆うネットを提案している(本物のマスクのような効果はないと思われる)。
ウイルスから身を守る手段としての衣類というアイデアは、ファッションブランド以外にも広がりを見せている。フランス、パリのアートギャラリー、59リボリ(59 Rivoli)は、中国宋朝の王宮で使用されていた帽子をモデルに張り子の帽子をつくり、来場者に配布し始めた。翼のような装飾が横に張り出し、ほかの来場者との距離を1メートルほど開けられるようになっている。
本当の価値は注目されることにある
本記事で取り上げた作品のほとんどは、(バーチャル)ランウェイやルックブックで披露されたばかりで、価格は公表されていない(作品を発表したブランドにコメントを求めたが、いずれも拒否されたか、回答を得られなかった)。面白い作品ばかりだが、作品そのもので稼ぐつもりはなさそうだ。本当の価値は、作品が注目されることにある。
シミラーウェブ(SimilarWeb)でアパレル業界の首席アナリストを務めるキャロライン・キム氏は「この種の商品はサイトに新しい訪問者を呼び込む効果があり、売上に間接的な影響をもたらす。新しい訪問者はサイトのあちこちをクリックし、ほかの商品を閲覧する可能性があるためだ」と説明する。「また、人々の心は今も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に支配されているため、ブランドにとっては、ウイルスとの闘いに関与し、『自らの役割を果たす』素晴らしい手段であり、ブランド認知度を高めることができる。さらに現在、新型コロナウイルス関連のキーワードが大量に入力されているため、検索トラフィックが増えるというボーナスも期待できる」。
たとえば、マルティプライ(Multiply)は5月、ソーシャルディスタンシングからインスピレーションを得たペチコートを発表した。キム氏によれば、その後、マルティプライのウェブサイトは前月比300%増のトラフィックを記録したという。
エディティド(Edited)の小売アナリスト、クリスタ・コリガン氏は、人々が社会的距離を維持する未来のファッションを暗示する動きと捉えている。大胆不敵なランウェイブランドやトッピーノ氏のようなコンセプチュアルアーティストは今、新しいデザインの実験を行っているが、そうしたトレンドが大衆ブランドに浸透し始めたとき、本当の変化がはっきり見えてくるためだ。
「より現実的な提案として、グラフィック入りのマスク、皮肉なスローガンがプリントされたTシャツ、個人防護具(PPE)と一体化した衣服などが登場している」と、コリガン氏は話す。「直径2メートル近いフープが入ったスカートは、間違いなく消費者の目を引くが、大きな商取引につながる可能性は低い」。
原文:Welcome to the age of coronavirus-inspired fashion]
DANNY PARISI(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)