信頼とプライバシーに関して言えば、Facebookにとって2018年はひどい1年で、アカウントの削除を人々に呼びかける声が高まった。だが、トップマーケターはこの動きに加わろうとしていない。それどころか、解決策に取り組む時間をFacebookに与え、広告支出を投入し続けると述べている。
信頼とプライバシーに関して言えば、Facebookにとって2018年はひどい1年で、アカウントの削除を人々に呼びかける声が高まった。たとえば、著名なテック系ジャーナリストのウォルト・モスバーグ氏は、2018年末にFacebookをやめるとツイートしている。
だが、トップマーケターはこの動きに加わろうとしていない。それどころか、解決策に取り組む時間をFacebookに与え、広告支出を投入し続けると述べている。なぜか? 大半のマーケターの最優先事項が、ROAS(広告費用対効果)だからだ。それに、プライバシー問題があっても、Facebookは十分なROASをもたらし続ける。
「コミットする方が良い」
Facebookとそのリーダーシップをまだ支持するかどうかという問いに、ピュブリシスメディア(Publicis Media)の最高デジタル責任者であるヘレン・リン氏は、今年は「脆弱な点が多々あった。しかし、そうした問題に対処するよう取り組んできた」と述べた。
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「まだ、さらに多くの仕事を行う必要がある。Facebookやすべてのパートナーと協力し、顧客と消費者の利益を最優先して解決策に取り組み続ける。我々は皆、こうしたプラットフォームが健全で、ユーザーと企業が繁栄できる環境であってほしいと思っている」と、Facebookのクライアントカウンシルのメンバーであるリン氏は語った。
クロロックス(Clorox)のCMO、エリック・レイノルズ氏は今月、米DIGIDAYに対して以下のように語った。「我々は、支出を行わないようにすることよりも、ソートリーダーとしての彼らにコミットする方が良いことにつながると信じている。Facebookは基本的に、正しいことを行いたいと思っている。彼らに何らかの罪があるなら、ナイーブなところだ。単に支出を引き上げるだけであれば、彼らにコミットしないことになる。彼らは現在、そういった種類の会話に反応しているが、それがうまくいかなかったら、金の力を試してみることができる」。
YouTube事件との違い
そうした意見は、2017年に起きたYouTubeに対する反発とはまったく異なる。当時、支出額が大きかった企業のなかには、Google傘下のYouTubeへの広告掲載を中止したところもあった。だが、YouTubeの課題は、Facebookが直面しているものとは根本的に異なった。YouTubeでテロ組織のコンテンツの隣に広告が表示されることによって、マーケターは直接的に悪影響を受けた。Facebookも問題のあるコンテンツをプラットフォームで扱っているが、最近のスキャンダルは主に、サービス全体のプライバシー面の弱点に関連するものであり、ブランドを守ることと比べると、マーケターの関心ははるかに低い。
米DIGIDAYによる先日の取材で、Facebookのみならず、プラットフォームのブランドセーフティについて広く議論した際、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)のルー・パスカリス氏は、支出の引き上げは「白黒がはっきりした選択肢」ではないと語った。「日常的にそれについて苦悩している。以前は年に2回、それについて考えた。だが、いまはそれが、我々が下すすべての決定の中心になっている。何事もケースバイケースで、次に起こる出来事が我々の行動に大きな影響を与える可能性もあるので、それは長期の提携や共同開発の面で好ましいことではない」。
なにかあるたびに、Facebookの担当者たちは最大の広告主とコミュニケーションを取っている。Facebookでグローバルマーケティングソリューション担当バイスプレジデントを務めるキャロリン・エバーソン氏によると、こうしたコミュニケーションがこれまで自身の主な焦点だったし、会社が良い方向に向かいつつあると確信しているという。この1年のプライバシー問題は、Facebookで働いてきた8年近くのあいだに目にしたもっとも大きな社風と事業の変化だったと、エバーソン氏は語る。
「我々が取っている措置や、そうした措置や我々の責任の大きさを真剣に受け止めている度合いが正しいと信じている。だからといって、我々が今後すべてを正しく行うというわけではまったくない」と、エバーソン氏は先日、米DIGIDAYに述べた。
広告のROIがすべて
スキャンダルがあろうとなかろうと、マーケターはFacebookの広告の投資利益率(ROI)に目を向け続ける。Facebookはこれまで、エコシステムでの広告制作について協力しやすくなる一方だった(ただし、今年に入って、アドマネージャーの信頼性は落ちている)。2016年の米大統領選に対する自社の影響に関して、マーク・ザッカーバーグ氏とシェリル・サンドバーグ氏が迅速に動くのを渋ったという、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の調査結果とウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)の報道に、マーケターはおおむね動じていない。
「常に『様子見』だ。一部の顧客が態度を明確にする可能性もあったが、今回はそういうことはあまりないと思う。この事例では、広告プラットフォームに問題はない」と、持ち株会社内の幹部は、以前に米DIGIDAYに語った。
実際、これらのスキャンダルはFacebookの株価や雇用にダメージを与えているかもしれないが、いまのところ、マーケターの収益には影響していない。市場調査会社のeマーケター(eMarketer)によると、Facebookは2019年に世界全体のデジタル広告から672億ドル(約7.4兆円)の売り上げを上げる見込みだという。
データ企業としての責任
クロロックスのレイノルズ氏は、現時点で支出を制限せずに、Facebookが大手データホスティング企業としての責任をもっと認めて受け入れるよう求めると語った。
「コミュニティを築くという高い理想像を賞賛する。大人になって、その理想像を維持して守るには、もっと多くのことを行う必要があると、気づいてもらう必要があるだけだ」。
メディアエージェンシー、UMワールドワイド(UM Worldwide)のグローバルブランドセーフティ責任者であるジョシュア・ローコック氏も、説明責任とプライバシーの面で、Facebookがリーディングカンパニーとしての役割をもっと担うことを支持した。また、ザッカーバーグ氏やサンドバーグ氏らの辞任ではなく、Facebookが組織全体に届く独立した声として、新たに誰かを雇うことを勧めた。
「Facebookは、現状と会社の現在の考え方に異議を申し立てる人物が首脳陣に必要だ。会社を導くのに役立ち、一般市民の代弁者となりうる、倫理・プライバシー関連の独立した諮問機関が求められる」と、ローコック氏は指摘する。
ザッカーバーグ氏の考え
さしあたり、ザッカーバーグ氏は独立した監視機関の創設を約束している。だが、その機関は、プライバシーよりも、コンテンツモデレーションや言論の自由の問題に焦点が置かれる。
独立性によって、「チーム内に過度の意思決定が集中するのを防げる。第二に、説明責任と監視が実現される。第三に、商業的な理由からではなく、我々のコミュニティの利益を最優先して、こうした決定が下されると保証される」と、ザッカーバーグ氏はコンテンツの強化に関する短信に書いている。
Kerry Flynn(原文 / 訳:ガリレオ)