現在、リーバイ ストラウス(Levi Strauss & Co)の米国事業を率いるマーク・ローゼン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、5年前に同社へ参画してからというもの、D2Cビジネスに必要な基盤の構築に注力してきたと語る。
パンデミック期間中、小売業は新しいショッピング方法への対応を迫られた。リーバイ ストラウス(Levi Strauss & Co)はこれまで何年にもわたり、苦戦中の卸売業への依存度を下げるためD2Cビジネスを構築してきたが、それでも完璧に備えることはできなかった。
5年前にウォルマートから同社に移り、現在は米国事業を率いるマーク・ローゼン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、オンラインで注文した商品を店舗で受け取る仕組みを、今年初めの時点ではまだ展開できていなかったと語る。だが外出禁止令をうけて店舗を閉めることとなり、数週間のうちにこのサービスを開始して稼働させる必要があった。
eコマースに投資してきたリーバイス社では現在、デジタルでの売上が全体の約1/3を占める。それでもほかのアパレル小売業者が感染拡大期間に経験したような売上減の打撃を、同社も完全に回避することはできなかった。10月初旬に発表した第3四半期決算によると、オンラインビジネスの売上は前年同期比52%増だったものの、総売上高は同27%減であった。
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ローゼン氏は同社に参画してからというもの、D2Cビジネスに必要な基盤の構築に注力してきた。今年初めに独自のアプリやロイヤルティプログラムを展開したほか、テーラーやスタイリストにアクセスできる新しいコンセプトの店舗「NextGen(ネクストジェン)」を試験導入。今後数年間でNextGenを、米国内で100店舗展開する予定だという。
同社は10月末に、ローゼン氏がデジタルエンタープライズオフィスを統括することを発表した。これはD2Cビジネスを通じて収集した顧客データを、リーバイス内のあらゆる部門が活用できるようにし、たとえば製品開発などにおいて適切な判断ができるようにすることが使命なのだと、同氏は説明する。
ローゼン氏はモダンリテールに、例年とはまったく異なる今年のホリデーシーズンにどのように備えているか、新型コロナウイルスがテクノロジーへの投資をどのように加速させたかについても語っている。以下のインタビューは、読みやすさを考慮して要約し、編集を加えている。
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――パンデミックは、御社のテクノロジーロードマップにどのような影響を与えたか? 1~2年後に予定していたものを早めて、今年加速させた投資はあるか?
我々がD2C探究の旅を数年間続けるなかで、核となるさまざまなものを準備して来られたのは素晴らしいことだった。しかし、今回このような事態に陥り、状況は急速に変化している。
オンラインで注文した商品を店頭で受け取ったり、駐車場で受け取る仕組み(カーブサイド・ピックアップ)は、その良い例といえる。店頭受け取りはもともと、今年開発するものとしてロードマップに含まれていた。しかしこの春、COVID-19によって世界中の店舗を閉めざるを得なくなり、店内での販売という枠組みからすぐに脱却する必要があると実感した。そして店頭受け取りからカーブサイド・ピックアップへと方向転換している。
パンデミックによって、ツールの開発や展開の方法も再考させられた。私が「古い世界」と呼ぶ時代には、消費者に完璧なソリューションを提供することを目指したものだった。しかしCOVID-19によって対応しなければならないことが急増し、「迅速に展開するため、少しずつ展開していくにはどうすればよいか」という姿勢に変わった。
我々がまず展開したのはカーブサイド・ピックアップだが、注文を完了するには店舗に電話をかける必要があるなど、完璧ではない部分も残っていた。それでもまずは展開してみて、消費者が使い始めるようになり、残りの部分はそれから徐々に構築していった。きちんと完成してはいなくても、すぐに収益につながった。
同様の例に、来店予約の受付ソリューションがある。パンデミック前、昨年12月から今年2月までマイアミでポップアップストアを開催した際に用意していたものだ。このポップアップストア用のソリューションも、COVID-19によって「消費者が来店しやすいようにするには、どうすればよいだろうか?」と考え、チェーン店舗にすぐに展開した。
データに基づいたソリューションを意思決定に活用する必要性も、非常に高まっていると感じている。以前我々が暮らしていたのは、何事も予測しやすい世界。ある年のホリデーシーズンと、その翌年のホリデーシーズンでは、多少の違いこそあれ大体似たようなものだった。しかし私たちは今、日々変化する世界に暮らしている。
――今年のホリデーシーズンはどのように異なると予測しているか? それに備えるためにどのようなテクノロジーに投資したか?
多くの人々にとってホリデーシーズンが始まるのは、プライムデー(10月中旬)の前後で、その後は11月初旬の「独身の日」(中国の光棍節)が続く。我々はまず11月初旬に、リーバイス版のブラックフライデーである「インディゴ・フライデー(Indigo Friday)」のオファーを公開した。今までよりも早い時期の実施だったが、その大きな理由は、安心してお店に来ていただきたいということを消費者に理解してもらいたかったからである。
お店は今でも、消費者にとって非常に重要なものだ。お店に来て、商品を試着してみたい、着こなしの手助けやアドバイスをスタイリストにしてもらいたいという消費者を、我々は目にする。
オープンしたばかりの新しい「NextGen」では、店舗だからこそできるユニークなことがまだある。そのひとつが、テーラーとともにできるカスタマイズだ。顧客が来店するのは、テーラーに会って(贈り物を)ユニークにしたいと考えているときなのだ。
お店でのスタイリストやカスタマイゼーションによる体験は非常に重要なので、ぜひ試してみてほしい。NextGenの店舗は、従来の我々の店舗より多少小さく、すべての商品を在庫として揃えていないこともある。店舗配送(シップ・フロム・ストア)において我々が特に注力しているのが、在庫をいかに効率よく、消費者にとって適切な場所に配置できるかということ。しかし、従業員がいかにして店頭で、オンライン上の品ぞろえから注文させることができるかについても重視している。
あとは非接触型決済も、今年のショッピングにおいて本当に重要な要素だと考えている。我々はモバイル決済や、決済端末の店舗への導入を加速している。購入者がモバイル端末で返品手続きを開始して、店内の返品ボックスに入れるという、非接触での返品受付も現在テスト中だ。今年初めにアプリとロイヤルティプログラムを開始し、特にアプリを通じての利用が多くあった。パンデミックのあいだは、以前にも増してよく使われていることが分かった。
――アプリやロイヤルティプログラムから収集したデータを、ビジネスの意思決定に活用することについては、どのように考えているか?
アプリは、優良顧客にコラボレーション商品をお届けするひとつの手段だ。優良顧客がアプリを使用していれば、ロイヤルティプログラムにも登録できる。そしてユニークなオファーやコラボレーション商品の情報は、ロイヤルティプログラムを通じてお届けしている。最近はニューバランスとのコラボレーションを実現したが、このようなユニークなコラボレーションは数量限定で行うことができる。
我々は時々、このような企画を非常に小規模で行い、その後でもっと多くの消費者に向けて、規模を広げて展開することがある。商品をテストし、最優良顧客の方々がどのように思うのか、反応を見れるからだ。
アプリで提供している機能にはほかに、カスタマイズがある。これはTシャツやトラッカージャケット(デニムジャケット)に図柄を加えたり、オリジナルのジーンズをデザインすることができるというものである。消費者が何を好むのか、Tシャツに何をプリントするのかといったカスタマイズのデータは、新たなトレンドを把握するためにも活用している。
――これまで話を伺ったリテール業のエグゼクティブのほとんどが、ホリデーシーズンの配送遅延に懸念を示していた。リーバイスでは、どのように備えているか? たとえば配送パートナーを増やしたり、商品の店頭受け取りを促進しているのか?
ホリデーシーズンのキャパシティの計画や、消費者の需要を満たせるだけのキャパシティの確保のため、物流やロジスティクス、配送のパートナーと緊密に連携している。オンラインとデジタルが予想よりも速く成長していることは、誰もが知るところ。我々が注視しているのは、早めに買い物を済ませる人が一体どれくらいいて、ホリデーシーズンの終了ぎりぎりの頃にはどれくらいのキャパシティが残っているのかということだ。
我々はいま全力を注いでいるのは、ホリデーシーズン中のギフトとして当社商品を注文した方が、確実にそれを受け取れるようにすること。ホリデーシーズンが近づいたら、お届けを確約できる注文の締切日を大々的に告知するが、その頃にはオンライン注文の店頭受け取りなど、ほかのお届け方法も提供する予定でいる。
Anna Hensel(翻訳:田崎亮子、編集:長田真)