ワクチン接種、そして新型コロナウイルス感染症ガイドラインの緩和が進み、年内にも店内飲酒が元通りになる可能性が見えてきて、アルコールブランドたちは戻ってくる消費者を迎える準備を進めている。
米国ではワクチン接種、そして新型コロナウイルス感染症ガイドラインの緩和が進み、年内にも店内飲酒が元通りになる可能性が見えてきて、アルコールブランドたちは戻ってくる消費者を迎える準備を進めている。
最近では、ドスエキス(Dos Equis)やバドライト(Bud Light)などのビールブランドが、日常への慎重な復帰を促すブランドメッセージを込めたキャンペーンを展開している。たとえば、バドライトの「バドライト・サマー・スティミー(Bud Light Summer Stimmy)」と題したキャンペーンでは、スポーツイベントのチケットをプレゼントしている。また、ドスエキスの最新キャンペーン「ア・ドス・オブ・ダブルエックス(A Dos of XX)」では、全国ネットのテレビ、ソーシャルメディア、デジタルアクティベーション、小売店、屋外広告などで、友人とバーで夜を過ごす準備をする人々を描いたスポット広告を流している。
これらのキャンペーンは、アルコールブランドたちが、宅飲みから夜の外出を促す方向へシフトしている例の一部にすぎない。たとえば、ハワイで創設されたコナ・ブリューイング・カンパニー(Kona Brewing Co.)という別のビールブランドは、その手法は変化しているが、メッセージそのものを変える予定はないようだ。ようやく世界が元に戻る兆しが見えつつあるなか、同ブランドは5月中頃の週末にコロラド州デンバーでリアルイベントを開催している。
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一方アナリストたちは、パンデミック後の生活をテーマにした広告やメッセージは、消費者を引きつけるための正当な手段と見ている。
エネルギーや社交性が戻りつつある
「エネルギーや社交性という、パンデミック以前に我々がビールやアルコール製品の広告から感じていたものが、戻ってきている。広告のコンテンツを見れば、それがよくわかる」と、エージェンシーのフォートナイト・コレクティブ(Fortnight Collective)で戦略ディレクターを務めるブライアン・オコネル氏は、電子メールで述べている。
また、オコネル氏は米国疾病予防管理センター(CDC)が新たにガイドラインを緩和したことを挙げ、「指導機関からこうした動きが出てきたことは、我々が社交や余暇を楽しむ生活を再開できることを示唆している」と指摘した。
ちなみに、カンター(Kantar)のデータによると、ビールブランドが2020年に支出した広告費は推定10億ドル(約1090億円)で、2019年から約300万ドル(約3億2600万円)減少している。ただし、カンターはソーシャルメディアへの支出を追跡していないため、ソーシャルメディアに費やした金額はここに含まれていない。
ブランドたちの思惑
ドスエキスのスポット広告では、人々が飲食店で集い、元の生活を取り戻している様子が表現されているが、最新のキャンペーンにはそれ以上のメッセージが込められていると、ブランドを所有する米ハイネケン(Heineken USA)の最高マーケティング責任者、ジョニー・ケイヒル氏は話す。そこで意図されているのは、ビール愛好者たちにアピールするための動きであり、パンデミック中の「家で飲み物を作ることを促すメッセージからの脱却」を図ったものだという。
「我々は、いつ、どこで飲むべきかを示すのではなく、いずれ訪れる回帰を祝福したかった」とケイヒル氏は話す。「この先必ず訪れる人間らしい瞬間を祝い、幸せなものにすることが適切だと考えている。もちろん、安全性を尊重したうえで」。
一方、コナ・ブリューイング・カンパニーは、2020年初頭にパンデミックが発生してから初となる対面イベントを5月中頃に開催。このイベントはエッセンシャルワーカーなどを対象としたもので、約9000人が参加した。なお会場では、来場者間の距離を6フィート(約1.8メートル)空けるためのステッカーを貼ったり、ブランドのマスクを配布したり、入場できる同一グループの人数を制限するなど、新型コロナウイルス感染症の予防措置が取られたと、ブランドマーケティング担当シニアディレクターのシンディ・ワン氏は述べている。またワン氏によると、コナ・ブリューイング・カンパニーは、秋には音楽フェスといった対面式イベントも予定しているという。
ただ同ブランドは「One Life, Right?(人生は一度きり)」という、パンデミック中一貫して打ち出してきたメッセージを変更するつもりはないようだ。「パンデミック中、むしろ我々のメッセージは、これまで以上に現実に即したものとして受け入れられた。人々は家で過ごし、自分たちにとって何が大切なのかを考える時間を得たからだ」と、ワン氏はメッセージを変更しなかった理由を話す。「我々は、あらゆるタッチポイントで、一貫したメッセージやキャッチフレーズを発信するよう努めている」。
「なかったこと」のようにはふるまえない
カンターの最近の調査によると、パンデミックのネガティブな面を強調した広告は、オーディエンスからの評価が低い傾向にある。ソーシャルディスタンスや旅行のキャンセルなどを表現した広告がその例だと、カンターのインサイト部門で北米コンテンツ分析担当責任者を務めるケリー・ベンソン氏は話す。
「パンデミックから抜け出し、規制が解除されてくると、人々はこれまでの困難な1年の象徴ではなく、前向きで楽観的なシナリオを見たがるようになることが、過去の事例から予想される」とベンソン氏は電子メールで述べている。
しかしそれでも、ブランドたちはメッセージの変更に慎重になるべきだと、クリエイティブエージェンシーのバーリン・キャメロン(Berlin Cameron)のマネージング・ディレクター、カレン・フラナガン氏は指摘する。
「我々は、アルコールを楽しむ人々の安全を配慮しなければならない。確かに、家に閉じこもってポッドキャストを聴いている時期は過ぎ去りつつある。ただ、前向きな展望をもってメッセージを進化させていく一方で、世界的なパンデミックを『なかったこと』のようにふるまうわけにはいかない」。
KIMEKO MCCOY(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:村上莞)