かつて、D2Cのショールームといえば最先端のブランドを求めて人々が訪れる場所だった。新型コロナウイルスの感染拡大以降、実店舗は存在感を薄れさせつつある。しかし、もともとオンラインを主軸としてきたD2Cブランドだが、彼らは店舗不要論を唱えることなく、新しい店舗のあり方を模索している。
かつて、D2Cのショールームといえば最先端のブランドを求めて人々が訪れる場所だった。マーケティングにおいてショールームの力は大きかったのだ。だが3月に新型コロナウイルスの感染拡大が発生し、ショールームは閉鎖。今後の見通しが立たなくなってしまった。
現在、ネイキッド・リテール(Naked Retail)やショーフィールズ(Showfields)といったD2Cブランドのキュレーター企業は、新たな方法でショールームの営業を再開した。コンバージョン率の高い大規模ブランドに限定しつつ、店頭でもオンラインでも商品を購入できるようにしている。とはいえ、営業再開の上で大きな比重を占めるのはECだ。
こうした店舗とECを織り交ぜた営業再開スタイルは、オンラインを主軸とするブランドのお膳立てにもなっている。上述のキュレーターに限らず、同様の方法で再開を進めるD2Cブランドは多いのだ。実店舗が今後どうなっていくかは未知数だが、現時点では規模を縮小した、より保守的なアプローチでの営業再開が進められている。
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CXを捉え直して売上を伸ばす
3月のパンデミック発生時に、ネイキッド・リテールはニューヨークのソーホー地区にある店舗を閉鎖し、スタッフを一時帰休させた。同社は事態がすぐに戻ることを望んでいた。だが何カ月経っても自体が好転しないなか、プレジデントのジャスティン・カーツナー氏は新たな発想でスペースの活用方法を捉え直す取り組みを始めた。同氏は「十分な商品が揃うのを待って」10月上旬に営業再開に踏み切ったという。一時帰休させていた店舗スタッフを売り場に呼び戻し、限定販売やポップアップ店舗で売上の活性化を目指した。また、同氏は店舗が営業できなかった期間を顧客体験の改善について考える時間に当て、それによる売上増を目指したという。
営業を再開するにあたり、カーツナー氏は「世間が荒んだ感覚に包まれるなか、店舗を落ち着いた空間にしようと努めた」という。店舗全体のデザインは一新され、空気清浄機とハイテクな手指消毒器を設置。さらに、営業再開にあたっては出展する各ブランドとの足並みが十分に揃うのを待ったという。
屋外広告などに大きなマーケティング予算を注ぐこともしていない。「当社には収益をあげられるブランドが揃っており、営業再開は単なるマーケティング戦略ではない」とカーツナー氏は語る。ネイキッド・リテールは現在、新規ブランドの紹介ではなく有名ブランドや大手ブランドの商品紹介に重点を置いている。
カーツナー氏は、ネイキッド・リテールを通じた店舗販売はあらゆるブランドにとって意味があると主張する。この先行き不透明な時期に自社店舗に投資するかわりに、ネイキッド・リテールに手数料を支払って様子を伺うほうがいいという考えだ。「この時期に、なぜ1500平方フィート(約140平方メートル)くらいしかない実店舗に何億円も投資するブランドがあるのか不思議だ」と同氏は語る。
ブランドのストーリーも重視
売れる確率の高いブランドを増やすことを重視するカーツナー氏だが、露出を求める新ブランドに入り込む余地がないというわけではない。たとえば、バーラ(Bala)やトーナル(Tonal)といったフィットネス分野のスタートアップは、自宅で運動できる器具を強みとしており、ネイキッド・リテールで商品を展開している。バーラは店舗スペースを活用し、マリア・シャラポワとバーチャルトレーニングをする動画を流している。「こういったフィジカルな商品のデモ展開は、未だにオンラインで完全には再現できない」とカーツナー氏は語る。
さらに、ネイキッド・リテールは火曜日を特別営業日に指定し、バーチャルイベントや予約制の買い物サービスを展開しているほか、今後展開する消費を扱う小規模なポップアップも設置している。
ECは再び成長分野となっている。コロナ禍以前、ネイキッド・リテールはD2Cブランドのみを取り揃えたサイトを展開していなかったが、現在では「エディトリアリー・ドリブン」なサイトを通じて販売をおこなっている。これは、商品数で勝負するのではなく、各ブランドのストーリー性やコンテンツを重視した取り組みだ。
カーツナー氏はこの新たな計画がうまくいく兆候を見せていると語る。トラフィックこそ20~25%ほど目標を下回っているもののコンバージョン率は高く、売上は以前よりも改善しているという。また、クリスマスが近づきホリデーショッピングが活発になることにより、週毎の売上は増加していくだろうと予測している。
新しい買い物の習慣
D2Cブランドのショールーム、ショーフィールズはソーホー地区に旗艦店を構えている。同社の共同創業者タル・ジ・ナサネル氏は、コロナ禍によって店舗は大きな打撃を受けたものの、「実店舗の販売ソリューションを求めているブランドはいまだに多い」と語る。そのためショーフィールズは、いまでも旗艦店でのブランドのポップアップ展開に柔軟に対応している。同社はマイアミにオープン予定の店舗についても、予定通り11月中の営業開始を目指しており、「マイアミの客足は順調に回復している」という。マイアミ店はアウトドアに特化した店として年初に発表されており、地元の客層に合わせ有名デザイナーとのコラボを戦略に掲げている。
ショーフィールズの店舗は3月から6月にかけて閉鎖されていたが、ナサネル氏は現在、「毎週着実に売上は伸びている」と語る。現時点で、同店舗の客足は前年比で70%まで回復している。さらに「コンバージョン率は2倍になっており、より購入意向のある人が訪れるようになっている」という。店舗では観光客が減っており、かわりに地元客が増えているとのことだ。「提携するブランドは2倍に増えた。また、出展するブランドの規模も大きくなっている」という。これまで新興ブランドの発掘に力を入れてきたショーフィールズは、ドクター・ジャーツ(Dr. Jart)やマジック・スプーン(Magic Spoon)といったより大きなブランドとの独占提携も視野に入れている。
ショーフィールズもやはりオンラインを重視した新戦略を立てている。7月のリニューアルオープン以降、同社のEC戦略は、「来店できないカスタマーに向けたサイト作り」を軸足としてきた。例えばブランドのスタッフとチャットで商品について相談できるサービスも展開している。ナサネル氏によれば、同社のECプラットフォームはこれまでにない成長を見せているという。また、店舗フロアの案内と、非接触のレジの利用支援をおこなうコードスキャン型のARアプリ、「マジック・ワンド」を提供している。
ナサネル氏はコロナ禍以前と比べ、ブランドごとのショールームよりもショーフィールズのようなキュレーション型のショップの優位性が増していると語る。まず、1カ所で複数のブランド商品をまとめてチェックできるキュレーション型のほうが安全だと考えるカスタマーが多い。また、ブランドにとっても完全に借り切ってしまうポップアップや店舗と比べ、テナント料の面でより柔軟に対応できる。
新たな店舗戦略
ダラスを拠点に、世界中の職人が作ったインテリア商品を扱うブランドのシチズンリー(Citizenry)は、10月第4週にソーホー地区で旗艦店をオープンした。これは同社にとって初の店舗展開ではない。(現在の状況下では)ある意味賭けとも呼べる動きだが、同社はこれを「人々の習慣のなかに入り込む」ための取り組みと位置づけている。シチズンリーのブランドマーケティングディレクターを務めるエミリー・ロビンソン氏は、「購入前に、実際の商品を見たいと考えるカスタマーは多い」と語る。「商品のサイズや色、柄は実際に見ないとわからない。当社は今でもインスピレーションとつながりを提供する現実空間の必要性を感じている。パンデミックの真っ只中に、旗艦店をオープンするのもそのためだ」。
店舗の重要性を認識し、店舗デザインの見直しを進めているのはD2Cのショールームだけではない。ニューヨークやオースティン、ロサンゼルス、シカゴで店舗を展開する下着ブランドのライブリー(Lively)も、これからの店舗のあり方を捉え直している。米DIGIDAYの姉妹サイト、モダン・リテール(Modern Retail)のインタビューのなかで、創業者兼CEOのミシェル・コーデロ・グラント氏は、「店舗と倉庫という2つの機能を持つ施設として利用していく」と述べている。
ロビンソン氏によれば、シチズンリーのニューヨークの新店舗はフルフィルメント機能を有しており、カスタマーからの返品受け付けもおこなうという。単なる商品販売の場ではなく、「新しいスタイルやデザイン、家、ライフスタイルについてアイデアを提供する空間にしたい」と同氏は語る。「こういった場は、製品開発やマーケティングの面でも非常に貴重なものになる」。
デロイトを拠点に活躍する小売、卸売、流通アナリストのジャン・エマニュエル・ビオンディ氏は、今後は店舗の役割を捉え直すブランドが増え、デジタルと現実の体験をうまく融合させる動きが進むだろうと指摘する。「ショッピングが持つ、社会的な交流という側面は見落とされがちだ」と同氏は語る。
現在、さまざまな企業が店舗を営業再開するかどうかの岐路に立たされている。ビオンディ氏は、これから営業再開が進んでいくだろうと予測する。ブランディングの観点から見ても、大手であれD2Cブランドであれ、「店舗の営業を一切おこなっていないというイメージはネガティブなものだ」と同氏は指摘する。
店舗とオンラインの境目は曖昧に
一方、成功の指標は変化している。現在、小売ブランドは収益性や客足の推移といった無数の指標を追い続けなければならない状況に置かれている。かつて小売施設は従来型の店舗、フルフィルメント施設、体験型ショールーム、コミュニティベースのポップアップという大きく4種類に分類できた。だが今やこの4つのコンセプトは混ざり合っている。例えばフルフィルメントと体験型が統合されている店舗は多い。今やカーブサイドピックアップ(駐車場受け取り)や店頭でのピックアップは当たり前のものとして捉えられており、実店舗の担当者がオンラインのカスタマーサービスを兼任するケースが増えている。ビオンディ氏は、D2Cスタートアップの店舗が投資に見合うだけの価値があるのと同様に、前述のコンセプトを複数、ときにはすべて取り入れ実施していくことが重要になるだろうと分析する。
小売ブランドは地元の買い物客にとって何が魅力的なのかを考え、柔軟なサービスを提供していく必要がある。各社はカスタマーが「なぜ買い物をしているのか」、「どのように買い物をしているのか」を把握し、迅速に適応しようとしている。「今、人々に外出を促すためには、より一層の努力が必要だ」とショーフィールズのナサネル氏は語る。
ビオンディ氏は、オンライン小売ブランドは今後も店舗展開を進めていくだろうと予測し、次のように述べた。「以前考えられていたようなペースでは増えないかもしれない。だが実店舗とオンラインの線引きは曖昧になっていくのではないか。ブランドとして存在感を発揮するとことの重要性は、どの企業も理解している」。
[原文:‘We actually have brands that make money’ How DTC showrooms are reinventing themselves]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)