従来型の小売業者がデジタル界における存在感の強化に努めるなか、家具のネット通販大手ウェイフェア(Wayfair)は大型小売店を開業する。この店舗において、ウェイフェアは値引き品のほか、返品されてきたコンディションの良い商品を販売し、配送費の削減と、返品コストの大部分回収を目指す。
従来型の小売業者がデジタル界における存在感の強化に努めるなか、家具のネット通販大手ウェイフェア(Wayfair)は大型小売店を開業する。
2月15日、ケンタッキー州フローレンスで開業したその店は、ウェイフェア初の実店舗ではない(2018年、マサチューセッツ州とニュージャージー州にポップアップストアを試験的に出店している)。ただ、今回の決断の背景には、従来型の小売業界に自らの立ち位置を確立するという単純な話では済まない事情がある。この店舗において、ウェイフェアは値引き品のほか、返品されてきたコンディションの良い商品を販売し、配送費の削減と、返品コストの大部分回収を目指す。同店舗は返品処理を行なう自社倉庫と同じ建物内にあり、さらに、近隣の町ケンタッキー州アーランガーには同社の流通センターがある。
ウェイフェアの広報は米DIGIDAYの取材に対し、この新店舗が流通と返品の両センターに隣接している点を鑑みるに、在庫品を地元コミュニティに低価格で提供することは理に適っていると語る。現在のところ、ほかに小売店を開く予定はないという。
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店舗を選んだ理由
eコマース小売業者にとって、過剰在庫は、その原因が返品にせよ売れ残り品にせよ、金食い虫になりかねない。コンサルティング会社アプリス・リテール(Appriss Retail)によると、 米国における返品の機会損失額は3510億ドル(約388億円)に上った。男性シャツブランド、アンタックイット(Untuckit)など、過剰在庫をAmazonで売りさばいているところもあるが、家具の小売には特有の物流問題が付いて回るため、過剰在庫を市場に出すことは、コスト効率の面で最善策とは限らない。
「大型小売店を構えるほうが、コスト効率がはるかに良い。eBayやAmazonに出品し、個々の購入に対応するのにも、[相応の追加]コストが発生するからだ」と、コンサルティング会社エイペックス・サプライ・チェーン・テクノロジー(Apex Supply Chain Technologies)の広報ケヴィン・ダガン氏は語る。
膨らむ一方の配送費とサプライチェーンコストがマージンを激しく圧迫するなか、実店舗は低経費で過剰在庫を処分する有効な手段になる。不要品の配送は、不測の事態などにより、余計な経費を生みかねない。そこで、ウェイフェアは小売店を流通および返品センターに隣接させ、そうした追加費用の原因となるいくつかの過程を省くことにした。
物流費は重要課題
同社はインハウス物流機能とデジタルケイパビリティの構築に相当な投資をしており、そのため、いまだ黒字に転じていない。eコマースマーケティングエージェンシー、バイ・ボックス・エクスパーツ(Buy Box Experts)の市場リサーチディレクター、ヘンドリック・ラーブシャー氏は、ウェイフェアにとって最大の悩みは、物流コストや返品、キャンセル、オーダーミスによるマージンへの甚大な打撃だと指摘する。
商品を自社倉庫まで送り、続いて顧客のもとに届ける一連の流通作業をウェイフェアは主にドロップシッピングで行なっていると、ラーブシャー氏は最近の報告書で述べている。 だがこのシステムでは、キャンセルや誤配送、不十分な梱包による商品の欠損などが生じた場合、ウェイフェアが追加費用をすべて被りかねない。
物流費の削減は実際、ウェイフェアにとってきわめて重要だ。同社は依然、家具のネット通販界におけるリーダー的存在ではあるが、 ウォルマートやAmazonといったライバルがプライベート家具ブランドを立ち上げ、追い上げを見せている。ウォルマートは広範な店舗ネットワークという利点を有する一方、Amazonにはほかのビジネス分野からの収入でフルフィルメント費を相殺できる強みがある。
「戦略として正しい」
カンター・コンサルティング(Kantar Consulting)のeコマース&デジタル部門VPアリス・フォーニア氏は、今回のウェイフェアのように、過剰在庫の処分目的で実店舗を構える動きは今後、オンラインファーストブランドのあいだでトレンドになると予測する。事実、大手消費者ブランド各社も過剰在庫の処理問題に取り組んでいる。たとえば今年2月第2週には、米スポーツ用品メーカー、アンダー・アーマー(Under Armor)が2018年第4四半期に在庫を12%削減したと発表した。アンダー・アーマーは以前から過剰在庫をいわゆる「オフプライスストア」で販売させている。家具のような大型商品の場合、消費者は一般に、自身の目で見たり手で触れたりしたいと思うため、実店舗はさらに有効となる。
「多くのオンラインブランドは今後、実店舗が必要な段階に至ることになるだろう。家具の場合、現物に触れてから購入を決めたいというのが、消費者の心情のはずだ」と、フォーニア氏は続ける。「そういう意味でも、(小売店を通じて)返品と在庫の管理を同時に行なうのは、戦略として正しい」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:SI Japan)