ワシントン・ポスト、 GDPR 対策のペイウォールを開始:データトラッキング回避に課金

欧州で施行開始された一般データ保護規則(GDPR)が連日話題だ。アメリカのパブリッシャーのいくつかは、規則に準拠するのではなく、ヨーロッパからのサイト訪問者をブロックするという手段に出ているところもある。

ワシントン・ポスト(The Washington Post)の場合は、さらに一歩踏み出した。ヨーロッパからのサイト訪問者対象にペイウォールを設置したのだ。広告を非表示にし、データをトラッキングしないという「プレミアムEUサブスクリプション(premium EU subscription)」を年間90ドル(約9900円)で提供。これはワシントン・ポストの通常のオンライン・サブスクリプションと比べると30ドル(約3300円)割高になっている。

「これは透明性を生み出し、読者側での摩擦を最小化し、そして規則に準拠するために我々が長いあいだ取り組んできたものだ」と、ポストのマーケティング部門バイスプレジデントであるミッキー・キング氏は語る。「承認ベースの無料での限定アクセスか、サブスクリプションか、という我々の選択肢に新しいオプションを追加するというのが我々のアプローチだった。プレミアム料金を支払うことで、サードパーティによるトラッキングと広告を無効にするという第三のオプションを追加した」。

法的な正当性はあるのか?

このプロダクトに法的な正当性があるのかどうかについて、ワシントン・ポストからはコメントをもらえなかった。しかし、法的正当性を疑う声は挙がっている。一般データ保護規則のもとでは、ユーザーのオンラインデータ収集は本人の承諾を得るなどの方法で正当化されなくてはいけない。ワシントン・ポストの新しいペイウォール制度は、ユーザーからの同意は強制されることなく、与えられなくてはいけないとする規則の要件に真っ向から対抗しているのではないか、が争点だ。

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トラッキングされたくない欧州ユーザー向けの年間90ドルのサブスクリプション制度をワシントン・ポストは開始した

GDPRに対応するためのコンサルティングを提供している英国拠点のコンサルタントであるティム・ターナー氏は「(ワシントン・ポストは)無料のオプションを選ぶために(ユーザーに)承諾を強制しており、トラッキング無しのためにはお金を払うように仕向けている。(プレミアム料金を)支払えない、支払いたくない人々に無理やりトラッキングに承諾させることで、GDPRの正当な利益を消してしまっている。どちらにしてもこれは違反である可能性が高いと思う」と語る。

欧州インタラクティブ広告協会(IAB Europe)は「データ(トラッキング)承諾という観点において、サービスへのアクセスを条件付きにすることを私企業は許されている」とする論文を昨秋提出している。しかし、反広告ブロッキングに取り組む企業であるページフェア(PageFair)の元エコシステム部門責任者であるジョニー・ライアン氏は、それに異議を唱えている。「GDPRはそのような”トラッキング・ウォール”を禁止している」と、彼は言う。

パブリッシャーたちの戦略

「『(ユーザーの同意が)自由に与えられる』という文言が何を指しているのかによる」と、デジタル・メディア、テクノロジー、プライバシー分野の法律事務所デーヴィス・アンド・ギルバート(Davis & Gilbert)のパートナーである、ギャリー・キベル氏は言う。

広告、出版、そしてアドテク分野の顧客を抱えるキベル氏は、ワシントン・ポストのアプローチの法的正当性については直接はコメントを出さなかったが、このアプローチが「自由に与えられる」という要件に違反している、といえるレベルであるかどうかが問題だろうと指摘した。たとえば従業員が何かに同意する場合、その回答次第で自分の職を失うような状況では、彼らの同意は「自由に与えられた」とは言えない。「ウェブサイト閲覧がそれと同様と言えるかというと、そうではないだろう」と彼は言った。

GDPRに対するアメリカのパブリッシャーたちの戦略はさまざまだ。単純にヨーロッパからのサイト訪問者をブロックするトロンク(Tronc)のような社もあれば、余分な物を一切取り除いたバージョンのサイトをヨーロッパからのユーザーに提供しているギャネット(Gannett)のUSAトゥデイ(USA Today)のようなパブリッシャーもある。USAトゥデイのこのシンプルなサイトはユーザー体験という点では通常のサイトよりもずっと快適だという声も挙がっている。ニューヨーク・タイムズはプログラマティック広告を取り除いたようだ(タイムズ社は本稿へのコメント要請には応えなかった)。データトラッキングをしてほしくないユーザーには追加料金を要求するというワシントン・ポストのアプローチは新しい。

広告によって収益を得ているパブリッシャーたちのビジネスモデルは、程度の差こそあれ、ユーザーをトラッキングして広告でリターゲットすることで成り立っている。かつてパブリッシャーたちはアドブロッカーを利用するユーザーたちのサイトアクセスを禁止し、広告ブロッカーを解除するか広告無しのサービスにプレミアム料金を払うかをユーザーたちに求めたが、ワシントン・ポストの今回のアプローチはそれを思わせる。

CMPという新しい手段

パブリッシャーによる広告ブロッカーのマネタイジングを手伝うソースポイント(Sourcepoint)のCOOであり共同ファウンダーのブライアン・ケーン氏によると、マネタイズと(ユーザーによる)サイトアクセスのバランスを見極めるために、さまざまなオプションをパブリッシャーは試みるだろうという。データトラッキングに関する承認を得る段階で、プレミアム料金を支払うというオプションをユーザーに提供できる、パブリッシャー向けのプラットフォームをソースポイントは提供している。「たくさんのパブリッシャーたち」がそれを検討していると、ケーン氏は言う。もちろん、プラットフォームもGDPRに準拠しなくてはいけない。ソースポイントのプラットフォームを通じても、ユーザーはプレミアム料金オプションを無視して、サイト閲覧を続けることができるという。

ヨーロッパからのサイト訪問者すべてをブロックするというアプローチはおそらく短期的なものだが、これによって大きな影響が出てくると、ケーン氏たちは指摘する。

「情報をシェアするという観点では、封建領土のような時代へと逆行してしまう問題がある。自分たちの業務運営に資金を獲得する方法を見つけ出さないといけない。GDPRに準拠できれば、我々の承諾管理プラットフォーム(CMP)はその戦略と透明性とデータ利用を統合させるひとつの手だ」と、彼は言う。

Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)