米国において、ウォルマートはコロナ禍へ向けて「もっとも準備ができていた」小売企業として、危機下における勝ち組となっている。同社は8月18日に第2四半期の業績発表を行い、ECの売上が前年同期比で97%増となったことを報告した。本記事では同社の業績発表で特に重要と思われる点をご紹介しよう。
米国において、ウォルマートはコロナ禍へ向けて「もっとも準備ができていた」小売企業として、危機下における勝ち組となっている。
同社の店舗は生活必需品を販売しているため、ロックダウンのさなかでも営業継続を許可されている。同社はパンデミック以前から、食品の宅配や店舗内ピックアップといったサービスを充実させてきた。同社の最大のライバルAmazonでは注文が急増したことで品切れが続出。ウォルマートのほうが迅速に商品が届くケースも少なくなかったようだ。
現在、米国では生活必需品以外を販売する企業も店舗の営業を再開しており、配達面でも以前ほどの混乱は生じていない。ウォルマートにとってはこの危機で獲得したカスタマーをどうやって引き止めるかが今年の課題といえるだろう。同社は8月18日に第2四半期の業績発表を行い、ECの売上が前年同期比で97%増となったことを報告した。同社の今期の総収益は1377億ドル(約14.6兆円)で、同5.4%増だった。また実店舗での売上も前年より9.3%伸びている。本記事では同社の業績発表で特に重要と思われる点をご紹介しよう。
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利益率の高い商品がECの売上を牽引
パンデミック以前、同社のEC事業はオンラインの食料品宅配によって支えられていた。同社が2月に行った第4四半期の業績発表では、EC収益は前年比35%増となった一方、玩具、アパレル、ゲーム分野では10%未満の減収となっており、アナリストらから懸念材料として指摘されていた。EC事業において収益性を高めるには、玩具やアパレルといった利益率の高い商品は欠かせないからだ。
ウォルマートのEC戦略において食料品のピックアップサービスや宅配が重要なことに変わりはないが、同社は第2四半期で家庭用品やアパレルといった利益率の高いカテゴリーで予想を上回る売上を達成している。結果として同社全体の利益率は63bp上昇した。ウォルマート米国部門のプレジデント、ジョン・ファーナー氏はサードパーティが出品するマーケットプレイスの売上も大きく伸びたと語っている。
クロスショッピングをさらに推進
業績発表のなかで同氏は「当社オンラインストアの利用客は増加した。新たな利用層を獲得し、定着率も高いことに満足している」と述べている(同氏は定着率の実際の数値については回答を避けている)。
ガートナーL2(Gartner L2)の小売担当シニアリサーチ、エヴァン・マック氏は「競合する食料品店や大型デパートなどと比べて、ウォルマートは今回の危機への備えが圧倒的に進んでいた」と指摘する。ウォルマートは食品のピックアップや宅配サービスの利用客がよりクロスショッピングしやすくなるように、3月にメインアプリと食品アプリを統合した。さらに、パンデミックではじめて同社のピックアップや宅配サービスを利用するカスタマーに向けた同社の説明も秀逸だったという。ウォルマートはウェブサイトで、ポップアップを活用して注文やピックアップに必要な操作などを丁寧に解説している。
新たな景気対策への期待
ウォルマートの店舗に目を向けると、カスタマーは買い物の回数を減らすかわりに1回あたり購入する品数を増やしている。ファーナー氏によると、第2四半期における平均支払額は約27%増え、支払い回数は約14%減少している。
だが同社にとっても、もし米議会がコロナ禍への追加の景気対策を行わなかった場合、今の売上の伸びを維持できるかは不透明だ。その点は同社にとっての不安材料であり、ファーナー氏も失業給付金がまもなく終了することもあって、四半期末に向けて売上は鈍化したと語っている。
待望のウォルマートプラスは、いまだローンチ日未定
ウォルマートはAmazonプライムへの対抗策として会員制度の導入を検討しているとされている。ボックスメディア(Vox Media)によれば名称は「ウォルマートプラス(Walmart+)」で、ローンチは7月の予定と報じられていた。だがウォルマートプラスのローンチは無期限に延期されたようだ。ボックスメディアによれば、ウォルマートプラスの年会費は98ドル(約1万円)で、即日配達や割引といった特典が受けられるという。
ファーナー氏とマクミリオン氏は業績発表のなかで、ウォルマートプラスに関するいくつかの質問に答えている。昨年、ウォルマートは一部の市場で、食品の即日配達サービスの試験運用を開始した。同サービスの利用料も、ウォルマートプラスの予想価格と同じく年間98ドルとなっている。ファートナー氏は、同サービスの試験運用を通じ、ウォルマートプラスの「ベースとして非常に良い、満足のいく結果が得られた」と述べている。
またウォルマートが会員制によって「いかにカスタマーの生活をさらに便利にできるか」という目的のもと、食品の配達に限らずさまざまな検討を進めているという。そして、同氏はカスタマーのリテンションにおいてウォルマートの低価格かつ幅広い品揃えが大きなセールスポイントとなると語っている。
マック氏も「リテンションのためにはロイヤルティプログラムも大切だが、カスタマーを失望させないことも非常に重要だ」と語り、次のように述べた。「ウォルマートプラスのローンチが遅れているのも、おそらくこのような状況下において、満足のいくサービスを提供することを何よりも重視しているからかもしれない」。
[原文:Walmart’s focus shifts to retention as e-commerce sales grow 97%]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)