テキサス州キャロルトンにあるウォルマート(Walmart)の店舗で、食料品を買うついでにカウンセリングを受けられるようになった。問題行動の医療サービスを手がけるビーコン・ヘルス・オプションズ(Beacon Health Options)が、メンタルクリニックを試験的に開設したのだ。
テキサス州キャロルトンにあるウォルマート(Walmart)の店舗で、食料品を買うついでにカウンセリングを受けられるようになった。
ボストンに本拠を置き、問題行動の医療サービスを手がけるビーコン・ヘルス・オプションズ(Beacon Health Options)が、メンタルクリニックを試験的に開設したのだ。このクリニックは店舗内のスペースを借りて営業しており、うつ病や不安症、ストレスや悲しみ、あるいは人間関係に悩まされている人々にカウンセリングサービスを提供している。一方、ウォルマートにとってこのクリニックは、間接的な形でヘルスケア分野に進出する機会となる。同社がこのような取り組みを始めたのは、2018年はじめのことだ。8月には、医療保険会社のアンセム(Anthem)と提携し、高齢者が市販薬を入手しやすくするためのプログラムを開始した。それより前の3月には、同じく保険会社のヒュマーナ(Humana)と買収に向けた予備的な協議を行ったことが報じられている。
ビーコン・ヘルス・オプションズで最高成長責任者を務めるクリスティーナ・メイネリ氏によれば、同社は小売店という場を活用することで、消費者がよりアクセスしやすい場所でサービスを提供しているのだという。これには、通常の営業時間外にサービスを受けられるようにしたり、スカイプ(Skype)などを使って離れた場所からサービスを受けられるようにしたりする取り組みも含まれる。2019年からは、テキストメッセージも活用する計画だ。ウォルマートとビーコン・ヘルス・オプションズが顧客のデータを共有することはない。
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「ここは人々が日常的に自分自身を発見する場所だ。(中略)そして、人々が日常生活で利用しているのが、小売店のような場所なのだ」と、メイネリ氏は述べている。「目的は、質の高い医療を受けられる機会を増やすことにある」。
サービスハブとしての実店舗
日用品をオンラインで購入する消費者が増えるなか、小売店が実店舗をサービスハブとして再利用している例はほかにもある。さまざまな従来型店舗が、顧客に提供する価値を高めて客足を維持しようと、こうした取り組みに目を向けているのだ。たとえばホーム・デポ(Home Depot)は、家のリフォームを検討している顧客のために、店舗内でアドバイザリーサービスを展開している。オフィス・デポ(Office Depot)も、店舗スペースの一部を利用して、コワーキングスペースやビジネスコンサルティングサービスを提供している。
ウォルマートはコメントを控えているが、店舗内のメンタルヘルスクリニックは、ファミリー向けサービスのハブを目指す同社の取り組みを大きく後押しする新たな要素だ。そして、同社が米国で多くの顧客を抱えていることが、このようなサービスを展開する基盤となっている。ウォルマートによれば、毎週1億5000万人の顧客が、全米の4800の店舗のどれかを訪れているという。
「ウォルマートは、人々が必要としているものを把握するのが以前から得意だ。そのため、さまざまなサービスを店舗の目立つ場所で展開してきた。店舗によっては、マクドナルド(McDonald)やサブウェイ(Subway)といったファストフード店を置いたり、クリーニング店を構えているところもある」と、エージェンシーFCBの子会社で、小売業界を専門とするFCB/REDのEVP兼戦略担当責任者、カート・ムンク氏は述べている。さらにウォルマートは、人々が買い物や食事やエクササイズを楽しんだり、地域の活動に参加したりできる「タウンセンター(town centers)」やキャンパスを建設する計画を11月に明らかにしている。
ウォルマートが有するリスク
メンタルヘルスクリニックなどのヘルスケアサービスは、ウォルマートが顧客との関係を強め、彼らが実店舗を訪れたくなる理由を増やすのに貢献するはずだ。しかも、第三者と提携することで、ウォルマートは一部のリスクを管理できるようになると、フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のアナリスト、ジェフ・ベッカー氏は指摘する。
「売上がオンラインショッピングに奪われるなか、顧客の足をウォルマート店舗に向けさせるなら、どんなものでも良い戦略となる」と、ベッカー氏はメールで述べている。「クリニックに店舗スペースを奪われることで生じる機会損失を除けば、第三者のメンタルヘルス企業を活用してサービスを提供することによって、ウォルマートのリスクは非常に小さくなる」。
ただし、今後の課題は、顧客にとって適切な価格を維持することだとベッカー氏は付け加えた。カウンセリングの価格は、開業キャンペーンの一環として1回あたり25ドルから30ドルに設定されているが、2月からは110ドルから140ドルに跳ね上がるという(ただし、保険に入っていない顧客のために、スライド制料金が提供される予定だ)。
「店舗内のメンタルヘルスクリニックが直面する経済的問題は、従来の店舗内クリニックと同じだ。今後は治療を受けやすくし、患者に提供する治療の質を強化するだろうが、それで医療コストが十分に下がることはないだろう」と、ベッカー氏はいう。「発表されたカウンセリング料は、一般的なカウンセリングの平均的な料金だ」。
既成の枠組みにとらわれない
ビーコン・ヘルス・オプションズは、これから90日間かけて利用状況を詳しく分析し、キャロルトンの試験プログラムから次の段階に進むかどうかを判断する予定だ。これには、新しい市場への進出も含まれる。メイネリ氏によれば、ほかの小売店と提携して、メンタルヘルスサービスのハブを構築することも検討しているという。
「ヘルスケア業界で働いている人々が、既成の枠組みにとらわれず、患者のニーズにより適切に対応するために限界を広げられるようにしようとすれば、非常に大きな混乱が起こるのが現実だ」と、メイネリ氏は語った。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)