ウォルマートの2021年第1四半期の総売上は、前年同期比で6%増加。その大きな原動力となったのは、「ウォルマートのeコマース事業はピークに達しつつある」とする一部アナリストの予測に反し、オンライン経由の売上だった。
ウォルマート(Walmart)が発表した最新の収益報告は、同社のデジタル事業が失速していないことを示している。
ウォルマートの2021年第1四半期の総売上は、前年同期比で6%増加。その大きな原動力となったのは、「ウォルマートのeコマース事業はピークに達しつつある」とする一部アナリストの予測に反し、オンライン経由の売上だった。同社の報告によれば、第1四半期のオンライン総売上は前年同期比で37%増加したという(2020年の第1四半期末は、米国内における最初のロックダウン期間と世界的にeコマース利用が急増した時期だ)。
しかし、ウォルマートが安定した増益を報告する一方で、それが描く軌道の全体像を懸念する声も社内から漏れ聞こえてきている。リコード(Recode)が5月上旬に極秘入手したレポートによれば、ウォルマートの幹部陣は、eコマースとグロッサリー(食料雑貨)の各部門において、同社がライバル数社に押され気味であることに課題を抱いているという。なかでも同社がライバル視しているのが、Amazonとインスタカート(Instacart)の2社だ。このレポート内のスライドショーでは、「成長のかなめであるグロッサリー部門が、シェアを急速に失いつつある」ことが示されている。また、同スライドショーでは、ウォルマートはAmazonプライム(Amazon Prime)をモデルとする同社のサブスクリプションサービス、ウォルマート+(Walmart+)の利用者のつなぎ止めに、四苦八苦していることも示唆されている。
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リサーチ会社のエッジ・バイ・アセンシャル(Edge by Ascential)が、2021年5月はじめに発表したレポートも、こうした懸念をいっそう強める内容となっている。同レポートでは、米国内における小売部門の王者に君臨し続けるウォルマートを、Amazonが2025年までに追い越すとする予測が展開されている。
エッジ・バイ・アセンシャルで、製品およびコンテンツ戦略/分析部門のディレクターを務めるダグ・クーンツ氏は、DIGIDAYの姉妹メディアであるモダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、エッジ・バイ・アセンシャルのレポートは、ウォルマートにとって必ずしも悪い内容ではないと話す。「5年前なら、私はウォルマートに対してこれほど前向きな見方をしなかっただろう」と同氏は述べ、テクノロジーとロジスティックスへの投資が、ウォルマートの競争力の維持につながっている点を強調した。
Amazonがウォルマートを2025年までに追い越すという見通し。それは当初の予測を若干上回るペースで進んでいるが、同氏によれば、その主な原動力は小売業界全体におけるeコマースの急成長だという。「Amazonのeコマース事業は、現時点では、ウォルマートのそれよりもはるかに巨大だ」と、同氏は語る。「たとえウォルマートがAmazonを上回るペースで成長していても、現状、その差を埋めるのは難しい」。
ウォルマートのeコマース事業の成長は予測を上回ってはいるが、それでも、この構図が根本的に変わることはないというのが、同氏の見方だ。以下は、ウォルマートの最新収益報告で明らかにされた、その他の重要ポイントだ。
戦場と化しつつあるグロッサリー部門
ウォルマートのグロッサリー部門の売上に関する具体的な数字は、明らかにされていない。同社は、今期のグロッサリー部門の売上は前年比で減少しているものの、(2020年の第1四半期には、いわゆる「パニックバイイング」の1カ月が含まれていたことを考えると、これについては驚くに値しないだろう)、部門全体でマーケットシェアを拡大できたと述べるにとどまっている。
またウォルマートは、過去2年間の成長を考慮したうえで、「この2年で、ミッドティーン(15~17歳)の購買層のあいだで食品カテゴリーの売上が伸びた」とも述べているが、これに関しても具体的な数字は公開されていない。
ウォルマートの長きにわたる差別化要素は、グロッサリーだ。スタティスタ(Statista)の最近の推定によれば、グロッサリー市場全体に占めるウォルマートのシェアは26%だという。そしていま、同市場への参入を試みているのが、Amazonだ。グロッサリーを対象とするサービスを徐々に展開してきたAmazonだが、特にここ1年でそのプレゼンスは急激に高まっている。その一因となったのが、近い将来、米国内の28箇所に実店舗Amazonフレッシュ(Amazon Fresh)を出店するという計画だ。
リコードによれば、この計画が少なくとも一部のウォルマート幹部の自信をぐらつかせたようだ。ただ現時点では、「Amazonのグロッサリー事業は成長してはいるが、規模ではウォルマートのそれに遠く及ばない」と、クーンツ氏は語る。
マーケットプレイスが勝敗を分かつ鍵
実店舗への投資に力を入れはじめたAmazon。その一方で、ウォルマートは、グロッサリーとそれ以外のカテゴリーにおけるeコマース事業の成長にフォーカスしている。ここ数カ月だけでも、ウォルマートはグロッサリーの2時間配送サービスの必要最低条件(35ドル[約3800円]以上の注文)を撤廃したり、注文量に関係なく、全ウォルマート+会員を対象とする送料無料サービスを開始している。
それだけではない。ひっそりとではあるが、ウォルマートはサードパーティセラーの自社マーケットプレイスへの誘致にも取り組んでいる。ショッピファイ(Shopify)のライバルであるビッグコマース(BigCommerce)と提携して、世界の販売業者に向けた「ウォルマートマーケットプレイス(Walmart Marketplace)」を立ち上げ、自社の商品ラインナップの穴を埋めてくれる主要なAmazonセラーの募集を開始している。また、フルフィルメント by Amazon(Fulfillment by Amazon:FBA)との競合をめざす、ウォルマートのフルフィルメントサービス「ウォルマートフルフィルメントサービス(Walmart Fulfillment Services)」については、1日で何百というセラーを承認したという実績も確認されている。
しかしいまのところ、Amazonマーケットプレイスに比べると、ウォルマートマーケットプレイスは小規模だ。実際、Amazonのアクティブセラー数が190万であるのに対して、ウォルマートのサードパーティセラー数は約8万9000にすぎない。だが、ウォルマートのeコマース戦略は、Amazonのそれと似ているように見える。両社に共通するのは、莫大な数のサードパーティセラーを利用して商品ラインナップを充実させ、そのうえで手数料やフルフィルメント料金、有料検索広告などでさらに稼ぐという手法だ。なお、Amazonのセラーサービス(このカテゴリーに含まれるのは、サードパーティセラーがAmazonに支払う、手数料をはじめとする各種料金)の売上は、2021年第1四半期に、237億ドル(約2兆5800億円)を記録している。
ウォルマートは最新の収益報告で、店舗ピックアップ、デリバリーと並んで、マーケットプレイスが同社のeコマースの成長を「けん引した」と述べているが、それを示す具体的な数字は明らかにしていない。
ウォルマートマーケットプレイスをAmazonマーケットプレイスと競り合えるだけのプラットフォームに成長させる。これが実現すれば、ウォルマートの競争力は高まるだろう。エッジ・バイ・アセンシャルの調査から読み取れるのは、「オンラインにおけるAmazonの成長の最大の原動力は、サードパーティマーケットプレイスであるということだ」と、クーンツ氏は語る。「これこそが、販売力と成長の両面において、今後Amazonがウォルマートを追い抜くための鍵になる」。
[原文:Walmart reports strong e-commerce growth, but Amazon is inching closer]
MICHAEL WATERS(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)
Photo by Walmart PR