ウォルマート(Walmart)は、デジタルネイティブなブランドの力を借り、セクシャルヘルスケアグッズ(性の健康関連商品)の拡充を狙っている。この数カ月間に、同社はD2Cのローラ(Lola)およびモダン・ファティリティ(Modern Fertility)のリプロダクティブ関連製品の取り扱いを始めた。
米小売大手ウォルマート(Walmart)は、デジタルネイティブな若いブランドの力を借り、セクシャルヘルスケアグッズ(性の健康関連商品)の拡充を狙っている。
この数カ月間に、ウォルマートはD2Cのローラ(Lola)およびモダン・ファティリティ(Modern Fertility)のリプロダクティブ関連製品の取り扱いを実店舗と自社サイトのいずれでも始めた。このウォルマートと――同社の表現を借りれば――家族計画ブランド(family planning brand)とのコラボレーションは双方に利益をもたらすと、両スタートアップの創業者はいう。またアナリストらも、D2Cブランド側は数百万人もの新規顧客に物理的にリーチできる一方、ウォルマート側は新規の、より若年層に照準を合わせた製品ラインにいわゆる破壊的商品を加えられると指摘する。ウォルマートはこの件に関するコメントを出さなかった。
2020年3月、米国でロックダウン(都市封鎖)が実施されるなか、タンポンやナプキンといったローラの生理用品が4600を超えるウォルマート実店舗とWalmart.comに並びはじめた。数週間前からは、潤滑剤やコンドームといった家族計画商品もウォルマートのサイトおよび3000弱の実店舗で販売されている。また、この10月には、自社アプリと連動する妊娠および排卵検査キットを提供するスタートアップ、モダン・ファティリティも、初の実店舗進出先としてウォルマートを選んだ。
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ウォルマートがセクシャルウェルネス(性の健康)分野に積極的に進出している背景には、同分野に対する世間一般の関心の高まりもある。市場調査会社リサーチ&マーケット(Research & Market)の最新報告では、セクシャルウェルネス市場の収益は2025年までに400億ドル(約4.2兆円)に達すると見込まれている。加えて、リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康/権利)とフェミニンケアの両カテゴリーに属する商品は、その売上に占めるeコマースの割合がますます拡大している。近年、この分野に登場したいわゆるディスラプターらのおかげで、「現在、米国で販売されているウェルネス商品の25%以上がオンラインチャンネル経由であり」、その人気サイトのトップがAmazonだと、同報告書は綴っている。
「強力な販売チャンネル」
ウォルマートとの提携は、ローラが新型コロナウィルス感染拡大前から進めていたものだが、このコロナ禍により、顧客のために購入手段を複数用意しておくことの重要性を改めて実感したと、同社の共同創業者ジョーダナ・キア氏は、米DIGIDAYの兄弟サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に語った。今回の提携によるオムニチャンネル経由で、同社は現時点までに生理用品を約1000万個販売したという。
キア氏いわく、「コロナ禍のせいで、誰もがルーティーンを劇的に変えざるを得なくなった。そんななか、ハイタッチなカスタマーエクスペリエンスの維持は極めて重要だと理解している」。そして「これまでのところ、カスタマーレセプションは上々」であり、提携相手のウォルマート側にも、フェミニンケア商品を買い求める、より若年の、幅広い層の顧客が増えているという。
ウォルマートでの販売はまた、ローラのブランドアウェアネス向上に役立っているとも、氏は語る。具体的な売上高の割合は明かさなかったが、小売販売については、今後も自社D2Cプラットフォームと「同等に重視していく」という。
キア氏によれば、現在、ウォルマートでの1回の買物における支出額がコロナ禍以前に比べ、平均で35%増しているという。このデータをもとに、ローラは9月、ウォルマートでバリューパック(お徳用セット)を発売した。
一方、上述のとおり、同じくスタートアップのモダン・ファティリティもウォルマートでの販売を開始した。サンフランシスコに拠点を置く同社は、2019年のシリーズAラウンドで1500万ドル(約15.8億円)を募り、アプリベースのリソースプラットフォームとして創業したが、2020年6月に妊娠検査キットと排卵検査キットの販売も開始した。いずれも現在、全米の1500を超えるウォルマート実店舗で購入することができる。
ウォルマートがモダン・ファティリティに関心を抱いたのは、2017年の同社創業から間もなくの頃に遡ると、共同創業者でCEOのアフトン・ベチェリー氏はモダンリテールに語った。そして「事実として、こうした商品は緊急を要する場合が少なくない」と氏は指摘する。
モダン・ファティリティは当初、コミュニティの育成に苦戦していたが、「一歩引いて、ウォルマートを強力な販売チャンネルとして見直した」ことで事態が好転した。とはいえ、自社製品をニッチとは考えていないと、ベチェリー氏は続ける。「これは都会の若い女性という一部の人々だけでなく、誰にも関係がある事柄だ。我々の商品を女性たちに、それも彼女たちがいる所に届けていきたい。いまは、とりわけそれが求められている」。
ホワイトスペースへの進出
生理用品は緊急時に備えて人々が補充する類の商品であり、ウォルマートにおけるローラ製品は顧客がまとめ買いするアイテムの典型例となっている。また、この提携とほぼ同時期に、ウォルマートはWalmart+も立ち上げた。Walmart+はAmazon Primeに対抗する年間98ドル(約1万300円)のサブスクリプションサービスであり、会員に無制限の無料配送やガソリンの割引といった特典を約束する。ローラやモダン・ファティリティの商品をくり返し購入する顧客の目に会員サービスが魅力的に映ることは、十分に考えられる。
女性のフェミニンケアおよびセクシャルウェルネスは、ブランドとリテーラーのいずれもこれまで手を出していなかった領域だと、リサーチ会社コアサイト・リサーチ(Coresight Research)のビューティ業界アナリスト、エリン・シュミット氏は指摘する。「ウォルマートはフェミニンケアという新分野、いわゆるホワイトスペースへの進出を狙っている。そんな彼らにとって、ローラはすべての条件を満たす理想的な存在といえるだろう。リテーラー勢はいま、自分たちが想像もしていなかったホワイトスペースさえありうる、という現実に気づきはじめている」。
品揃えの最新化についても、D2Cスタートアップ勢はフェミニンケアおよびセクシャルウェルネスにおける新時代を代表する存在であり、彼らとの提携は理に適っていると、シュミット氏は断言する。「フェミニンケアの、そしてセクシャルウェルネスのホワイトスペースはとりわけ、今後2~3年で大幅な成長を遂げると思われる」。何年か噂が飛び交ったあと、メインストリームのひとつに成長したCBD(カンナビジオール)と同様のことが起きうると、同氏は予想する。
消費者と向き合うシンクタンク、カーニー・コンシューマー・インスティテュート(Kearney Consumer Institute)のトップ、ケイティ・トーマス氏は、ウォルマートのこの動きはより若年層の消費者に向けたアピール強化の一環だと、モダンリテールに語った。「20代~30代前半の女性層は、いったん取り込めば、生涯にわたるロイヤルカスタマーになりうることが、ウォルマートといった巨大リテーラー勢にはよくわかっている。とくに、出産したことをレーダーのどこかで探知できれば、その可能性は非常に高まる」。
ニーズに応えるための企業努力
ウォルマートのこの動きを、D2Cを活用するターゲット(Target)を意識したさらなる対抗策と見なすのは簡単だが、これはそれとは違うと、トーマス氏は分析する。氏によれば、ウォルマートには顧客がいま何を求めているのかがわかっており、これはそのニーズに応えるための企業努力だという。
また、今回の提携は大型小売店のウォルマートが従来とは違う類の需要を満たすための試みでもあるという。トーマス氏はその証拠として、Z世代の実に57%が地球環境に優しいサステナブルな商品志向であることを示すカーニーの調査結果を挙げる。「ウォルマートは今後も低価格競争は続けるかもしれないが、Walmart+と最新の品揃えには、消費者セグメントが――そしてそれに付随するニーズが――進化するなか、同社もまた進化している事実が現れている」と、氏はいう。
総じて、ウォルマートのこの動きは、フェミニンケア製品ラインの最新化における「正しい方向への一歩」だと、ベチェリー氏はいう。「多くの消費者がいまや、自身が共感できるブランドを見定められるようになりつつある」。
[原文:Why Walmart is partnering with DTC brands to expand its sexual wellness aisle]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:長田真)