テレビ視聴率調査で知られるビデオリサーチだが、実はデジタル領域でのリサーチにも積極的に取り組んでいる。デジタル広告視聴率を提供するニールセン デジタルや、モバイルネットワークを介して膨大なデータを有するソフトバンクなどと共に、テレビ×デジタルでマーケティング価値最大化を目指すビデオリサーチの取り組みに迫る。
テレビ視聴率は世帯視聴率だけでなく個人視聴率の活用も開始したが、デジタルも本当に個人を正確に捉えられているだろうか。
2019年2月13〜14日、メディアリサーチや市場調査を手がけるビデオリサーチが主催する「VR FORUM 2019」が開催された。テレビ視聴率調査のイメージが強いビデオリサーチだが、実はデジタル領域でのリサーチとデータの利活用にも積極的に取り組んでいる。
ビデオリサーチのソリューション群からも、その姿勢はうかがえる。タブレット端末を使用し、1万人規模でシングルソースの生活者調査が可能な「ACR/ex(エーシーアールエクス)」。テレビ、PC、モバイル端末といったクロスメディアの接触状況を測定する「VR CUBIC(ブイアールキュービック)」。さらにこれらのデータやクライアントのデータまでを統合連結させるデータ統合ソリューション、「VR LINC(ブイアールリンク)」も提供している。テレビにとどまらないデータの利活用を提案するビデオリサーチがいま目指しているのが、マーケティングファネルの上流から下流まで丁寧につないでいくために、ファネルにおける課題をデータによって解決するソリューション提供だ。
「VR FORUM 2019」におけるセッション「これからのマーケティングプラットフォーム」では、ビデオリサーチ・ソリューション事業局長の岩城靖宏氏が登壇。同氏をモデレーターとし、ニールセン デジタル代表取締役である宮本淳氏、ソフトバンクのコミュニケーション本部 デジタルメディア統括部 統括部長を務める藤平大輔氏とともに、テレビとデジタルの組み合わせから生まれる可能性を語った。
ブランディングのためのデジタル広告
冒頭、ビデオリサーチ岩城氏より促されて、ニールセン デジタルの宮本氏は同社がビデオリサーチインタラクティブと2017年に共同で広告主に実施した調査に言及。その結果、49%の広告主が今後ブランディング目的のデジタル広告を増やすと回答したという。「実際に広告主とやりとりをすると、その通りだと感じる」と、宮本氏は続ける。「生活者がデジタルを介して多様な情報に触れる状況で、ブランドとしてもデジタルを利用してメッセージを届けようとする動きが広がっている」。
続けて、事例として挙げられたのが、現在ソフトバンクが展開する新たなプロモーション「ギガ国物語」だ。ブランドを再認識してもらうためにTVCMを放送し、さらにWeb用の縦型コンテンツでショートCMも展開しているとソフトバンクの藤平氏は語る。「テレビ、デジタル両面で認知を広げ興味喚起をするという戦略のため、コンテンツのテイストは同じだが、それぞれ別個に制作している」。内容訴求・理解の目的では、別パターンの動画や記事、ディスプレイ広告を展開し、ユーザーを啓蒙しつつ来店へとつなげる。
独自の来店計測もWi-Fiを利用して行なっているものの、来店購入やサイト閲覧、広告接触などのユーザーデータはバラバラの状態で、それらもつなげて評価するには限界がある。藤平氏はこう指摘する。「アトリビューションは来店だけでなく、態度変容がどう起きたのかといった複雑な要因が組み合わさっている。テレビだけであれば視聴率データから個人のデータを捉えることができるようになったが、デジタルにリアロケーションしているなかで、テレビとデジタルを組み合わせた上位ファネルの計測をどう実現するのかが、最大の課題となっている」。
これを受け、岩城氏は「上位ファネルのプランニングでいかにKPI・KGIに結び付けられるか、そのデータをサプライする側にも解決を求められている」とまとめた。

「テレビとデジタルを組み合わせたデータをどう活用するかが課題」と語るソフトバンク藤平氏
「人」で捉えられていない問題
さらに、ビデオリサーチ岩城氏よりデジタル広告で生じる課題について、業界の概況と解決方法について問われたニールセン デジタル宮本氏は、こう答えた。「デジタル上ではダウンロード数、視聴回数、クリック数、PV、CTR、インプレッション数などさまざまな指標が入り混じっている。それぞれの単位には意味があり、個々の数値を理解する参考にしたり、パブリッシャーがメディアパワーを訴求する差別化要因と捉えることはできる」。
しかし、広告主がこれらの指標からメディア選定やメディアプランを考えようとすると、問題が生じるという。
たとえば、あるブランドがキャンペーンのためにF1層へのリーチを意図しているとする。有効な媒体を選び、メディアプランを考える際、媒体Aはユニークブラウザ、媒体Bはインプレッション、媒体Cはクリック保証、媒体Dは視聴回数と、各媒体が訴求をしたい指標をもとに提案してくる。指標の意味はすべて異なるため、ブランドとしてはどの媒体にどの程度出稿すれば、もっとも効率的なのか判断できない。
「いずれの指標にも共通しているのは、すべて『人』がベースになっていない点だ」と宮本氏は語る。「再生数はただの回数でしかなく、CTRやPVは1人が複数回カウントされているかもしれない。ビデオリサーチが提供しているテレビ視聴率の場合、世帯視聴率から個人視聴率へと変わり、人を捉えるようになった。しかしデジタルでは数値は人とイコールではなく、誰がそこにいるのかもわからない状態になっている」。
デジタル広告の「視聴率」を算出
こうした状況を受け、ニールセン デジタルがビデオリサーチとともに国内で提供しているのが、「Digital AD Rating(DAR)」だ。デジタル広告視聴率とも呼ばれ、UBではなくユニークオーディエンスでのリーチが計測できる。IAB(Interactive Advertising Bureau)が定める業界統一指標「3MS(Making Measurement Make Sense)」に則った広告効果測定を実施しており、グローバルブランドなパブリッシャーを含めた計測が可能だ。
「ある広告主から『宮本さんはデジタル上の識別子を何個持っていますか』と問われたことがある。私の場合、仕事ではIE、Chrome、FireFoxを使用し、自宅でもFireFoxとChrome。さらにiPadでSafariとChrome、各アプリを使い、モバイルの広告IDもある。スマホはAndroidで、複数のブラウザと広告IDが存在する。つまり、私だけで2桁のデジタル上の識別子を持っていることになる」。こうした例は特異なことではないと、ニールセン デジタル宮本氏は指摘する。「この事実を知らずに、人がベースではないデータを捉えようとするのは深刻な問題だ」。

「人がベースではないデータを捉えようとするのは深刻な問題」と指摘するニールセン デジタル宮本氏
人ベースでデジタル広告のリーチがわかれば、オンターゲット率も正確に把握できる。「プレースメント全体では59%、指定した単一媒体では63%、ネットワークでは52%といった数値があれば、ターゲット外に配信されているインプレッションをなるべく減らし、効率的なメディア選定やコミュニケーションが可能だ」と宮本氏。性年齢別でのリーチやメディアごとの重複、飽和点も把握でき、これ以上出稿しないといった判断もできるようになるという。
メディアが共通の指標で比較できるという状況は、一見都合が悪いようにも思えるかもしれない。しかし、宮本氏は「こうした環境が整っていったことで、テレビ業界は発展してきた」とし、こう続ける。「デジタル領域もいまが転換点と言われている。健全に成長していくためには、各パブリッシャーがコンテンツの内容や媒体努力によって、自分たちのメディアをきちんと訴求できる状態になる必要がある。そうなれば、ブランドもデジタルに投資しやすくなると感じている」。
テレビ×デジタルで効果最大化を
もうひとつ、DARが実現するのが、テレビと同じような意味合いのリーチやフリークエンシー指標を用いた、デジタル広告の包括的な分析だ。これにより、テレビとデジタルの統合プランニングをする際、同じ単位のもとで検討することが可能になる。さらに、ニールセン デジタルとビデオリサーチグループで共同開発したサービス「Brand Lift Plus(ブランドリフトプラス)」では、広告接触による態度変容も人ベースで測定できる。
「テレビのデータはビデオリサーチが第三者機関として、精度の高い公平な測定結果を提供している」とビデオリサーチ岩城氏は語る。「ここにDARが加わることで、デジタル広告もパブリッシャーの自社調べではなく、ニールセン デジタルの信頼性の高い第三者測定による共通指標が提供可能になる。ブランドが正しいブランディングを行うためにも、テレビ×デジタルの統合的なフレームワークが必要になると考えている」。

「正しいブランディングのためにテレビ×デジタルの統合フレームワークが必要」と訴えたビデオリサーチ岩城氏
ソフトバンクの藤平氏も、デジタル領域に携わり続けてきたことで、デジタル単体の限界も見えるようになったと話す。「アドフラウドをはじめ、デジタルが対応しなければいけないことはまだ存在する。アメリカやEUに比べ、日本は基準の整備も遅れていると感じる。DARなどのソリューション提供を通じ、ビデオリサーチやニールセン デジタルにデジタルのレベルを上げて欲しいと考えている」。
さらに、「デジタルがフォーカスされがちだが、経営指標レベルで与える影響はテレビほど大きくない」とも指摘する。「そうした状況を見ていると、テレビは終わった、これからはデジタルだ、という主張にはギャップを感じる。テレビを正当に評価し、デジタルと組み合わせてマーケティングに活用しなければ、成果は得られないだろう」。
国内最大規模のクロスメディアパネル構築
テレビ×デジタルの効果を計測するソリューション提供のために、ビデオリサーチとソフトバンクは2017年に合弁会社every syncを設立した。大手通信キャリアの一角として、もはや社会インフラとなったモバイルネットワークを有するソフトバンクは、個人情報を除外しても相当量のデータを保有している。今後モバイル端末の接触時間がさらに伸長し、インフラが発展する可能性も考慮すると、キャリアが有するデータの重要性も増すと思われる。
「我々のモバイルネットワークのなかでどのようなデータが動いているのか。精緻なリサーチを実施できるビデオリサーチとともに、国内最大規模の生活者パネルを構築したいと考えている。いままでは把握しづらかった細分化されたデータを集約し、アトリビューション全体を見通せる仕組み作りにチャレンジしたい」とソフトバンク藤平氏は話す。具体的には数百万規模の広告識別子を持つアンケートパネルサービスに加え、ビデオリサーチのテレビ視聴測定ノウハウと、デジタルデバイスの計測を組み合わせたクロスメディアパネルを作り上げるという。

テレビ×デジタルのクロスメディアパネル構築を目指す
「広告主として自らの広告効果を高い精度で測定し、テレビのパワーを活かしながらデジタルを含めた効果を最大化するための方法を模索する」としつつ、藤平氏は続ける。「日本におけるテレビ×デジタルのあり方を議論できればと思う」。
ビデオリサーチ岩城氏も「デバイスごとの接触頻度や時間を考えると、デジタルではスマートフォンの実態を捉えることが当然必要になる。クライアントの課題としてテレビの重要性を感じていたソフトバンクと、デジタルとの一層の統合を目指すビデオリサーチのリソースをつなげるための取り組みだ。今後はVR CUBICを超えるクロスメディアパネルの構築を目指したい」と語った。
今後のビデオリサーチのマーケティングファネルに対する取り組みにおいて、ニールセン デジタルとの精度の高い計測や、ソフトバンクとの合弁会社every syncが提供するクロスメディアパネルの利活用に注目が集まると思われる。
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Written by 広告制作チーム
Photo by 渡部幸和(記事中1〜3枚目)、提供:ビデオリサーチ(記事中4枚目)