カリフォルニア州バーバンクにあるウォルト・ディズニー・スタジオ(The Walt Disney Studios)の敷地内でもっとも古い建物のひとつ「アニメーション・ビルディング(Animation Building)」のなかには、同映画スタジオの未来がある。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(190円)です!】
カリフォルニア州バーバンクにあるウォルト・ディズニー・スタジオ(The Walt Disney Studios)の敷地内でもっとも古い建物のひとつ「アニメーション・ビルディング(Animation Building)」のなかには、同映画スタジオの未来がある。
その建物の1階(かつて3階には、ウォルト・ディズニーのオフィスがあった)には、ウォルト・ディズニー・スタジオが新興技術に対して行う投資の中心地「スタジオラボ(StudioLAB)」があるのだ。ウォルト・ディズニー・スタジオはアクセンチュアインタラクティブ(Accenture Interactive)とシスコ(Cisco)、ヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)と提携を結び、2カ月前に同社の研究開発の拠点を正式にオープンした。その目的は、ひときわ有名なこの場所を、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)、人工知能(AI)などに関連する作業を行うためのスペースに特化することだ。
スタジオラボのオフィスで先日行われた取材で、ウォルト・ディズニー・スタジオでテクノロジー・イノベーション・グループのバイズプレジデントを務めるベンジャミン・ヘイビー氏は「以前にもラボはあった。すぐそこのグレンデールだ。こんなではなかったが」と語ってくれた。「かつての私は、『おい、いまこれが来てるぞ』と言いながら、機材を持って従業員のオフィスに入っていったものだった。20分の話し合いのために、セットアップに3時間割いたピッチミーティングもあった」。
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社史上の最重要建物
ヘイビー氏とスタジオラボの20人編成のチームは現在、同社の歴史上もっとも重要な建物のなかに3500平方フィート(約325平方メートル)のオフィスを構えている。このロケーションだけでは、スタジオラボがディズニーにとっていかに重要かを示すのに十分ではないという人もいるかもしれない。だったら、これはどうだろう。スタジオラボには、ディズニー傘下スタジオ5社(ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ[Walt Disney Pictures]、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ[Walt Disney Animation Studios]、ピクサー・アニメーション・スタジオ[Pixar Animation Studios]、マーベル・スタジオ[Marvel Studios]、およびルーカスフィルム[Lucasfilm])の幹部からなる諮問委員会が設置されている。ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャー・プロダクションのプレジデントであるショーン・ベイリー氏とウォルト・ディズニー・スタジオの最高技術責任者(CTO)であるジェイミー・ボリス氏が同委員会の会長を務めている。会議は年に4回行われ、たとえば同社の各部門がスタジオラボとその技術をどのように活用すれば、映画制作者がより多くのコンテンツをより効率的に生み出せるか、などといったことについての話し合いが行われる。
スタジオラボはディズニー従業員のためのツアーのほかに、新入社員に向けたオリエンテーションも実施している。だが、その活動の中心は、どのような最新技術をプロジェクトに活用できるのかを映画制作者が把握するためのショーケースとしての役割を果たすこと、そして、そこで彼らが実際に作業を行うワークスペースとしての役割を果たすことだ。この点は、すでに名声を確立した映画制作者が新たな技術を使いこなせるようになるためには、とりわけ重要かもしれない。
たとえばスタジオラボの制作室には、仮想現実(VR)体験に没入できるようにデザインされたタマゴ型のイスをはじめとする、VRのためのありとあらゆる設備が取り揃えられている。新進気鋭のフィルムメーカーの耳にはクールに聞こえるかもしれないが、その一方では、こうした最新設備に怖じ気づいてしまう40年選手もいるかもしれない。この問題に対処するため、制作室にはトラッキングショット用のカメラドリーなどの、撮影班が昔から使っている手動式の機器も備えつけられている。こうした手動式の機器はVRハードウェアにつながれている。某プロジェクトに取り組んでいるあるベテラン撮影監督は先日、スタジオラボの制作室を利用し、すでに慣れ親しんだ機器を使って、仮想環境で映像をキャプチャーする方法を習得した。「こうしたことは我々にとって非常に重要だ。新しいものを導入したいという思いはあるが、その一方で伝統を重んじ、こうしたスキルもうまく活用していきたいと考えている」とヘイビー氏は述べる。

スタジオラボの制作室
次世代的なオフィス
ディズニーによる数々の傑作映画のオリジナルスケッチがもう廊下には飾られていなかったと仮定するなら、スタジオラボのロビーエントランスに足を踏み入れた瞬間に、ここは昔ながらのオフィスであるという考えは吹き飛ぶ。オーバーヘッドプロジェクターがオフィスのドアに動画を投影、同社のアニメーションの歴史を繰り返し映し出し、その歴史に対する技術の重要性を強調する。そのドアの奥には、広さ3500平方フィート(約325平方メートル)を誇るオフィスがある。そこはかつて、ジェリー・ブラッカイマー氏が映画『パイレーツ・オブ・カリビアン(Pirates of the Caribbean)』シリーズを制作していた当時、オフィスとして使っていたスペースだった。
ディズニーのこの研究開発の拠点は、次の時代を担うエンターテインメントスタートアップのオフィスに似ている。もっとも、そこには「潤沢な資金を調達した」という但し書きがつくが。オフィスには、カウチやゲーム機、特大のフラットスクリーンテレビを完備する共用スペースに向けて開かれた、必須のキッチンが備えつけられている。共用スペースのテレビと壁を共有するのは、やはりと言うべきか、さまざまな機器で飾り立てられた会議室だ。
室内には長い会議用テーブル、別種のテレビ会議用にデザインされた壁にはテレビ2台が取りつけられている。シスコの技術が用いられたテレビには、コンピュータービジョン技術が組み込まれたカメラが取りつけられており、会議中に発言者を自由にズームできる。ヘイビー氏は、映画制作者もこれらの機材を使えば、映画セットのリモートウォークスルーを行えるようになるのではないかと予想している。

スタジオラボの会議室
新しいディズニーの世界
ディズニーが制作過程の部分的なデジタル化をどのように思い描いているかを示す例をもうひとつ紹介しよう。スタジオラボ会議室の一方の壁には、『白雪姫』などの映画のアナログのストーリーボード(絵コンテ)が取りつけられている。その反対側の壁には、タッチスクリーン式のテレビが取りつけられており、それを使えば、デジタルストーリーボードを作成・鑑賞できる。このデジタルストーリーボードには、ブラウザベースのアプリからもアクセスできる。
スタジオラボは、映画制作に対するテクノロジー活用法を示すことだけではなく、映画をマーケティングすることも目的としている。エントランス近くの壁には、LG製のタテ型OLEDスクリーンが掛けられている。そのスクリーンはデジタルポスターとして機能しており、静止画像の代わりにアニメーションを映し出している。ディズニーはこのようなスクリーンを、ハリウッドにあるエル・キャピタン・シアターにも設置する予定だ。エル・キャピタン・シアターでは、同社のアニメーション映画のプレミア試写会が頻繁に開かれている。このデジタルポスターから廊下を進んでいくと、そこは行き止まりだ。だが、ヘイビー氏がプロジェクターのスイッチを入れると、隣り合う3つの壁(うち2つにはドアがある)の一面に360度動画が映し出される。

スタジオラボのVRプロジェクション
その動画は、VRヘッドセットを装着して見るそれと同じクオリティーを保っている。だが、ここが重要なのだが、この動画を見るのにVRヘッドセットは必要ないのだ。「ヘッドセットを嫌う人もいる。この技術こそが、世界にVRをもたらしつつある」とヘイビー氏は述べる。そしてスタジオラボも、VRをはじめとする新興技術をディズニーの世界にもたらそうとしている。
Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)