過去10年のあいだに、ARを使ったソリューションは飛躍的にその洗練さを進歩させた。それによってバーチャルでのプロダクト試着に関心を持つブランドにとって、ARはより経済的かつスケーラブルなものになってきている。
過去10年のあいだに、ARを使ったソリューションは飛躍的にその洗練さを進歩させた。それによってバーチャルでのプロダクト試着に関心を持つブランドにとって、ARはより経済的かつスケーラブルなものになってきている。
バッシュ(Ba&sh)やファーフェッチ(Farfetch)、アディダス(Adidas)、ケンドラ・スコット(Kendra Scott)などのブランドや小売業者はすべて、この1年間に新しいバーチャル試着プログラムを導入した。理由のひとつは、技術が進歩していることにある。しかし同時に、パンデミックに煽られたeコマースの急増のなかで、これまで以上に多くの商品返品を生み出していることも理由となっている。商品返品は小売業界にとって1兆ドル(約109兆円)規模の問題であり、パンデミックの最中に多くのブランドや小売業者が返品期間を延長したことで問題は大きくなった。こうした返品を減らす方法のひとつとして、バーチャル試着が急速に登場している。
返品率が平均64%も低下
マスタークラス・アパレル(Masterclass Apparel)のようなブランドにバーチャル試着サービスを提供しているパーフィットリー(Perfitly)のプレジデント、ラガーブ・シャーマ氏は、彼らのブランドパートナーの多くにとって返品を減らすことはコンバージョン率を高めることと合わせて第1の目標となっていると語った。シャーマ氏によると、パーフィットリーと提携しているブランドは、提携していないブランドに比べて返品率が平均64%も低くなっており、また80%のコンバージョン率を達成しているという。メイシーズ(Macy’s)は昨年バーチャル試着を導入し、この機能が返品率を2%以下にするのに役立ったとしている。ショッピファイ(Shopify)もARを駆使したビジュアル化ツールのおかげで昨年返品が40%減少した。
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パーフィットリーへの関心はパンデミックのあいだに高まっており、シャーマ氏によると、2020年には2019年の10倍近くの問い合わせがあったという。
さらに、ブランド社内でも、リモートワークになったことでデザイン部門の従業員たちがひとつの部屋で一緒に働けなくなった。そのため業界は迅速に3Dモデリングなどの技術を採用する必要が生まれた。シャーマ氏によると、パンデミック前であれば、ブランドがバーチャル試着を開始したいと思っても、ビジュアル化のためにすべての製品の3Dレンダリングを作成しなければならないことがハードルのひとつだったという。しかしデザイン工程のための基礎的なものであってもレンダリングを持っているブランドの場合は、必要な素材がすでに存在するため、バーチャルな試着プログラムをより簡単に設定できる。パーフィットリーのような企業のほとんどはSKU単位でブランドに請求しているため、素材がすでに手元にあれば、バーチャル試着プログラムのコストを大幅に削減できる。シャーマ氏によると、バーチャル試着のための費用はブランドによって大きく異なるが、SKUあたり2桁程度に抑えられる可能性もあるという。
そしてブランドは3Dデザインを真剣に受け入れている。たとえば、ランズエンド(Lands’ Eng)の最高プロダクト責任者であるチエ・ツァイ氏は9月、米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(Glossy)に対し、同社はパンデミック以前にも3Dレンダリングを使ったデザインに多少手を出していたが、パンデミックが始まってからはほぼ完全に3Dデザインに切り替えたと語った。トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)とカルバン・クライン(Calvin Klein)は2020年の初めに、デザイナー全員が3Dデザインの訓練を受けていると発表した。
没入的で個人特化の購入体験
3月末、ファーフェッチはスタートアップのパートナーであるジーキット(Zeekit)とバーチャル試着プログラムの作成を開始した。このプログラムを通して今年中にはバーチャル試着室がデビューする予定だ。8月にファーフェッチは、テック企業ワナビー(Wannaby)が作った、スニーカーだけに焦点を当てたバーチャル試着プログラムに手を出したが、ジーキットとのコラボレーションで、ファーフェッチの幅広い製品カテゴリーに対応することを意図している。ジーキットは昨年からトミー・ヒルフィガーやアディダスなどのブランドとも提携している。
ファーフェッチのプロダクト・イノベーション部門シニアディレクター、キャロル・ヒルサム氏は次のように述べている。「ジーキットとともに取り組むことで、我が社が抱えるグローバルかつ多様な消費者に極めて没入的かつ個人個人に特化したショッピング体験を提供することができている。サイトでの買い物の手助けをできること、さまざまなサイズや肌の色の人たちにとって、プロダクトが(試着すると)どのように見えるかを可視化できることは、(消費者に)インスピレーションやチョイスを提供する助けになる」。
ほとんどのバーチャル試着プログラムはSnapchatなどの他社アプリを通じて提供されているが、ファーフェッチのiOS版試着アプリなど、ブランド自身のモバイルアプリやサイトを通じて提供されているものもある。
実店舗においても使用方法が
バーチャル試着の盛り上がりの大部分はeコマースに集中しているが、実店舗においても使用方法がある。フランスのアパレルブランド、バッシュは最近、Snapchatのバーチャル試着オプションと合わせて、初めてのスニーカーラインをローンチしたが、同ブランドCEO、ピエール-アーノード・グレナド氏は、この技術を消費者がどれくらい自宅で使用しているか、と同じくらいどれくらい店舗内で使っているか、にも興味があると語った。
「営業員の追加ツールとしても考えている」とグレナド氏は言う。「彼らはスマートフォンを取り出して、店舗には在庫がない色やスタイルを顧客に見せ、顧客が欲しいなら注文することができる。現在、Snapchatとはより多くの話し合いを行っており、将来的にはさらに多くのことを行いたいと考えている」。
[原文:Virtual try-on is the antidote to the pandemic-fueled rise in returns]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)