店舗でのショッピング体験の要素を、デジタル空間に取り入れようとする小売企業が増えている。
ジェイクルー(J.Crew)は今月初め、ビーチハウスをイメージした没入感あるバーチャルストアをオープンした。この店舗では、6つのテーマにそれぞれ沿った部屋を閲覧しながら、アパレルやシューズ、アクセサリーの一部を購入することができる。美容品ブランドのエリザベスアーデン(Elizabeth Arden)は、歴史的あるNY5番街のサロンを模した新しいバーチャルストアを5月に公開した。同月には、韓国美容ブランドのラネージュ(Laneige)もはじめてのバーチャルストアを立ち上げ、そこには、5つのバーチャルルームと、買い物客が同社の商品に使用されている原料について学べるインタラクティブラボを備えた。
毎年この時期になると、小売企業はリソースの一部を、ポップアップ店舗を通じた店頭体験の実験に注ぎ込むのが一般的だ。ポップアップ店舗は今でも人気の高い投資だが、バーチャルストアによってオンラインショッピングの改善に取り組む小売企業も増えている。専門家は、これを小売企業が店頭でのショッピングの楽しさを、eコマースに持ち込むための継続的な試みの一環だとしている。
「小売企業は、顧客に提供する次の体験を何にしようか考えている。デジタルの機会がますます強いものになっていくことには疑いの余地はない」とコンサルティング会社BDOのナショナル・デジタル・リテール・リーダーを務めるロバート・ブラウン氏は語る。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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店舗でのショッピング体験の要素を、デジタル空間に取り入れようとする小売企業が増えている。
ジェイクルー(J.Crew)は今月初め、ビーチハウスをイメージした没入感あるバーチャルストアをオープンした。この店舗では、6つのテーマにそれぞれ沿った部屋を閲覧しながら、アパレルやシューズ、アクセサリーの一部を購入することができる。美容品ブランドのエリザベスアーデン(Elizabeth Arden)は、歴史的あるNY5番街のサロンを模した新しいバーチャルストアを5月に公開した。同月には、韓国美容ブランドのラネージュ(Laneige)もはじめてのバーチャルストアを立ち上げ、そこには、5つのバーチャルルームと、買い物客が同社の商品に使用されている原料について学べるインタラクティブラボを備えた。
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毎年この時期になると、小売企業はリソースの一部を、ポップアップ店舗を通じた店頭体験の実験に注ぎ込むのが一般的だ。ポップアップ店舗は今でも人気の高い投資だが、バーチャルストアによってオンラインショッピングの改善に取り組む小売企業も増えている。専門家は、これを小売企業が店頭でのショッピングの楽しさを、eコマースに持ち込むための継続的な試みの一環だとしている。
「小売企業は、顧客に提供する次の体験を何にしようか考えている。デジタルの機会がますます強いものになっていくことには疑いの余地はない」とコンサルティング会社BDOのナショナル・デジタル・リテール・リーダーを務めるロバート・ブラウン氏は語る。
小売企業がバーチャルストアから得ようとしているもの
バーチャルストアは、実店舗の探求プロセスと、従来型eコマースの利便性を兼ね備えたデジタルショッピング体験だ。人々はさまざまな部屋を見て回り、商品のセレクションを見て、商品の説明を読み、カートにその商品を入れることができる。小売企業はオブセス(Obsess)やエンペリア(Emperia)などの企業と提携し、こうしたeコマース体験を開発している。
パンデミックのあいだ、小売企業はバーチャルスタイリングからライブショッピングまで、多くのオンラインショッピングのコンセプトを実験してきた。しかし、店舗でのショッピングを再開する人々が増えてくると、これらの実験の多くは頓挫した。eコマースの売上の成長が鈍化してきた現在、小売企業はオンラインショッピング体験をより魅力的なものにすることで、より売上を伸ばすための、新しくかつ労力の少ない方法を探している。
eコマースに発見やエンターテイメント性という要素を加える背景には、オンラインショッピングをより記憶に残るものにするという考えがある。店頭での場合と同様、記憶に残るショッピング体験は、ロイヤルティや支出の増加につながると考えられからだ。
あらゆる行動を把握できる
その例として、エリザベスアーデンのバーチャルストア体験では、店舗で5種類のセラミド製品を見つけたユーザーに賞品が当たるというゲーミフィケーションの要素を取り入れている。Jクルーのバーチャルストアでは、店内のあちこちに商品が陳列し、ユーザーが商品をクリックするとその商品について詳しく学ぶことができるなど、店頭でのショッピングを模している。また、ヨガウエアとアクセサリーのブランドであるアローヨガ(Alo Yoga)のバーチャルストアでは、カスタムメイドの衣装を作成したり、同社のワークアウトプラットフォーム「アロムーブス(Alo Moves)」でいくつかの動画を見ることができる。
バーチャルストアでは、ショッピングの行動を追跡することも非常に簡単だ。現在のところ、小売企業は店舗で起きているすべての買い物行動、たとえば顧客がカートから戻した商品、顧客の注目を集めた商品、顧客が購入を検討した別のブランドなど、すべてを追跡することはできない。
「バーチャルストア内での行動に基づいて、ターゲティングが可能だ。これは悪い意味ではなく、顧客の行動に合わせてコンテンツをパーソナライズできるということだ。小売企業は現在、どのような人が店舗を訪れ、何を購入し、何がカートから破棄されたかなど、実店舗では必ずしも確認することができないようなあらゆる行動を把握できるようになってきた」と、ブラウン氏は述べる。
実店舗にかかる労力
デジタルコンサルタント会社のシーアイアンドティー(CI&T)でリテール戦略ディレクターを務めるメリッサ・ミンコウ氏は、対面型のポップアップ店舗は地域コミュニティで盛り上がりを見せるものの、一時的な店舗を設営するコストや労働力の確保といったマクロ経済的な課題を考えると、その設置は必ずしも容易ではないと語る。また、バーチャルストアは年中無休で開いておくことができ、さまざまな場所から買い物客が訪れることができる。
「ポップアップの実店舗は消費者にとって魅力的であり、人々が訪れる場所になったことは確かだが、多くの調整が必要だ。従業員のスケジュールを調整し、労働力に関連する多くの課題に取り組む必要がある。バーチャルストアならこのような問題は存在しない」と、ミンコウ氏は語る。
新しいデジタル体験では常にそうだが、バーチャルストアの問題は、消費者から広く受け入れられるかどうかということだ。専門家は、一部の人々はバーチャルストアでショッピングを行う時間の余裕がないため、従来型のeコマースサイトの利便性を好むかもしれないと語る。さらに、視覚的にアピールするバーチャルストアを作成するのは、eコマースサイトの作成よりはるかに難しいことだ。
「ごく普通のウェブサイトならあってもいいが、ごく普通のバーチャルストアというのは考えられない。バーチャルストアを作り上げるなら、極めて美観的に優れ、非常に魅力的なものでないといけない。実店舗とは異なる役目を果たすことが必要で、ウェブサイトともまったく異なることを行う必要がある」と、ミンコウ氏は述べている。
新しい体験を生み出し続ける
それでも、バーチャルストアはオンラインショッピングで一定の支持を得ていると専門家は信じている。バーチャルストアに必要なのはURLだけで、アクセスのためにVR技術を追加する必要もないとミンコウ氏は語る。ブラウン氏は、バーチャルストアに特に向いている業界はあるにせよ、小売企業は近い将来、顧客のニーズに応じてバーチャルストアをカスタマイズするようになるだろうと述べた。
「小売企業にとって危険なのは、これまでのやり方を固定し、今後もそのやり方を縛られ続けることだブランドとの関係の一環として新しい体験を生み出し続ける小売企業が成功していくだろう」と同氏は付け加えた。
[原文:Virtual stores are the experimental concept of the summer]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via J.Crew