米国のD2Cブランドが自社ウェブサイト以外で商品販売と出荷をおこなう場合、いまだにAmazonを選択する企業が圧倒的だ。だが投資家はそれにかわる選択肢を模索しており、そのための出資も惜しまない。そんな彼らがいま熱い視線を送るのは、特定分野に特化したバーティカルマーケットプレイスのスタートアップだ。
米国のD2Cブランドが自社ウェブサイト以外で商品販売と出荷をおこなう場合、いまだにAmazonを選択する企業が圧倒的だ。だが投資家はそれに代わる選択肢を模索しており、そのための出資も惜しまない。
もちろん、D2Cブランドの販売チャネルはAmazon以外にもたくさんある。近年になってウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)、メイシーズ(Macy’s)などが独自マーケットプレイスを立ち上げたほか、ベリショップ(Verishop)、バブル(Bubble)、イエス(Yes)といったマーケットプレイスのスタートアップも登場している。投資家もまた、訴求力のあるマーケットプレイスに積極的に出資してきた。たとえばフェア(Faire)は、D2Cブランドの卸売販売を希望する小売業者とブランドを仲介するスタートアップで、最近1億7000万ドル(約18億円)の資金調達をおこなったばかりだ。
それでも、いまだAmazonと規模面で比較できそうなマーケットプレイスはいまだに登場していない。10月末に発表されたAmazonの業績発表を見てもそれは明らかだ。同社の収益、961億ドル(約10兆345億円)は前年比で37%増となっており、米国EC市場の増収ペースを上回っている。
Advertisement
マーケットプレイス需要の高まり
調理器具からマットレス、ペットフードに至るまで、あらゆる分野ごとに何十社というD2Cスタートアップが登場しているにもかかわらず、D2Cに特化したマーケットプレイスはいまだに台頭していない。こういった専門のマーケットプレイスがあれば、D2CブランドにとってはAmazonに代わる選択肢になりえるのだ。
米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)が投資家たちに話を聞いたところ、米国ではパンデミックの影響でECが急成長しており、同分野のマーケットプレイスへの投資に対する関心が高まっているようだ。だが、Amazonの代替となるD2C専用マーケットプレイス以上に注目を集めているのは、ウェルネス・ヘルスケア商品や食料品といった特定分野に特化したバーティカルマーケットプレイスへの投資だ。
新興のスタートアップだけでなく、どの企業にとっても、取り扱うブランドや商品数の面でAmazonに対抗するのは容易ではない。だが、D2Cスタートアップは世界的に成長を続けているのも確かだ。ベンチャーデータベースのクランチベース(Crunchbase)は、2019年以降、世界中のD2Cスタートアップによる資金調達の総額は80億ドル(約8400億円)から100億ドル(約1兆500億円)と推計している。こういったブランドのオンライン販売のチャネルに対する需要は増えているのだ。
商品ごとに別サイトで買う煩わしさ
D2Cブランド用マーケットプレイスへの関心の高まりの背景には、別の要素もある。さまざまな商品をオンラインで購入する層が増えるなかで、ひとつひとつの商品をわざわざ別のサイトに行ってまで購入するというのは消費者にとって苦痛なのだ。これはD2Cの創業者らですら同意見で、D2Cのカミソリブランドのスタートアップ、サプライ(Supply)の創業者パトリック・コドー氏は「カスタマーの動向を見るに、マーケットプレイスでの販売が適切に思える。私自身、5つの商品を買うために5つのサイトをめぐるというのは面倒すぎる」と語る。
コドー氏は2017年夏から実験的にAmazonでの販売をおこなっていたが、2018年半ばに取りやめている。さまざまな理由があるが、競合他社の商品広告が自社製品の販売ページに載るというAmazonの手法を嫌ったためだ。それ以降、ほかのマーケットプレイスでの商品販売はあまり検討してこなかったという。同氏は「北米でAmazonの規模に太刀打ちできるのはウォルマートくらいだろう」としつつ、サプライの商品価格は約75ドル(約7900円)と比較的高価なため、ウォルマートとの相性がよくないと述べている。
D2C用のマーケットプレイスは、確かに規模ではウォルマートやAmazonには及ばないだろう。だが、Amazonがリーチできない消費者を購買層として獲得できる可能性はある。たとえば、環境に優しい洗剤に強い関心を持っている消費者や、最先端のファッションブランドを求め続けている消費者などは、D2Cスタートアップにとってとりわけ価値がある。
ベンチャーキャピタルのレアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)でプリンシパルを務めるアンドレア・ヒプー氏もまた、さまざまなD2Cブランドを扱うAmazonよりも、特定分野に特化したマーケットプレイスへの投資に関心を持っているという。その理由はふたつある。ひとつ目は「Amazonや大手マーケットプレイスが手を出していない分野を強みとしているところが多い」ためだと語る。そしてふたつ目の理由が、「新型コロナウイルスの感染拡大により、以前は店舗でしか買わなかった商品をオンラインで求めるようになっており、新たなマーケットプレイスにとってのビジネスチャンスが存在する」ことだ。レアラー・ヒプーが最近投資した馬具ブランドのコロ(Corro)もまた、こういったマーケットプレイスの一例だ。
多くの商品を扱わないアプローチ
アーリーステージおよびシードステージのベンチャーキャピタル、カラー(Color)の共同創業者ジェイミー・シュミット氏は、「生配信の動画やリアルタイム販売といった新たな方法で、消費者との強いつながりを実現できるマーケットプレイスへの投資に強い関心を持っている」と語る。同氏は例として、今年夏に300万ドル(約3億1500万円)の資金調達をおこなったポップショップライブ(Popshop Live)を挙げている。
ポップショップライブはShopify(ショッピファイ)と統合されているため、厳密にはマーケットプレイスとは呼べないかもしれない。だが、オンラインにおける通販番組のように、販売企業が生配信で商品をオーディエンスに紹介できるようになっている。「このプラットフォームは大きく伸びるのではないか」と同氏は予測している。
現在、ウォルマートをはじめとする店舗小売企業がオンラインのマーケットプレイスに進出しているが、大半はAmazonのようになるべく多くの商品を扱うことを目指している。そんななか、バーティカルマーケットプレイスは、ニッチを開拓する存在として独自路線を邁進しているのだ。
課題は規模
実のところ特定の分野に特化したマーケットプレイスというものは以前から存在しており、注目も集めてきた。デリバリーサービスのシームレス(Seamless)やドアダッシュ(DoorDash)も、広義のバーティカルマーケットプレイスに分類される。だが、今回紹介したようなスタートアップのマーケットプレイスは、従来オンラインで販売されてこなかったような商品を扱っているところや、さまざまなD2Cスタートアップの商品をまとめて紹介するという点が新しいのだ。
既存のECスタートアップもD2Cブランドのキュレーターのような役割を果たしていると言えなくはないが、バーティカルマーケットプレイスよりも広範囲のブランドにフォーカスしているとみなせる。たとえばShopifyは、ECプラットフォームとして約100万社を扱っている。EC業界のニュースレター2pm Inc.の創業者ウェブ・スミス氏をはじめ投資家や経営者のなかには、Shopifyで商品販売をおこなっている企業数を考えれば、同社は自社マーケットプレイスを立ち上げるべきだと主張する声もある。実際、Shopifyがローンチしたアプリの「Shop」はこの方向性に向けた取り組みといえる。同アプリで、ユーザーはShopifyに出品しているブランドを追いやすくなり、注文の追跡が可能になっている。だがShopifyはいまだマーケットプレイスそのものを構築するような大きな動きは見せていない。
ヒプー氏は、次々と登場するマーケットプレイススタートアップに共通する大きな課題があると指摘する。それは、Amazonという比類ない規模のマーケットプレイスが存在する以上、いずれは規模を拡大させざるを得なくなるという点だ。 「スタートアップがほかのスタートアップと連携するのは容易ではない」と同氏は語り、次のように述べた。「Amazonの強みは規模だ。スタートアップがAmazonに出品するのは、Amazonには最初から消費者がいることが明白なためだ」。
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)