「どのブランドも、 ゲーム への投資は検討する価値がある」 : 『フォートナイト』『あつ森』へ進出する広告主たち

ゲームが1日1時間までしか許されない単なる「遊び」でしかなかったのは、遠い過去のことになりつつある。

今やブランドがゲームというカテゴリーに積極的な投資をするのは珍しいことでも、新しいことでもない。BMWはeスポーツが主要なマーケティング戦略を担うと公言し、すでにマーケティング予算を振り分けはじめている。F1(フォーミュラワン)は若いオーディエンスを育成するためeスポーツやバーチャルレースを活用し、成功を収めつつある。どちらも、若い世代とのコミュニケーションやエンゲージメント構築の手段としてゲームを位置付けている形だ。

新型コロナウイルスの感染拡大によってイベントや物理的なチャネルが失われた(あるいは著しく減少した)一方で、ゲームをプレイする人口や時間は増加したことも無視できない。「ゲームというチャネルあるいはプラットフォームの存在を再認識し、自分たちのマーケティング戦略においてどのような役割を担うことができるのか。今ブランドが再検討しない理由はないだろう」と、DIGIDAY[日本版]の取材に匿名で答えたある外資系ブランドのアジア圏プロモーション担当者は話す。「我々はパンデミック以前からゲームを分析し戦略を考え、実際にキャンペーンを展開してきた。GoogleやFacebookの上で安定するのも悪くないが、チャレンジを回避すべきではない」。

熱心なプレイヤーこそが価値

そもそもブランドはゲームの価値をどこに見出しているのか。エイリアンを撃ち倒したり、パズルを解くことで楽しめるのはあくまでプレイヤーにとっての価値だ。前述の担当者は「同じ目的に没頭する熱心な多数のオーディエンスがいること」だと語る。4月に『フォートナイト(Fortnite)』内で開催された人気ラッパー、トラヴィス・スコットのライブイベントには、1230万人ものプレイヤーが同時接続したと発表された。「オーディエンスの規模はゲームによって異なるのは前提として、一度で1000万人以上の若くて新しいものに目がないオーディエンスにリーチする手段はそうそう存在しない」。

「『たった1000万人? どこかのSNSのグローバルDAUは10億人だ』といった数値比較はあまり意味がない。ゲームという文脈のうえに1000万人のオーディエンスがいることが重要だ」。

担当者が一例としてあげるのが、Nintendo Switchの人気タイトル『あつまれ どうぶつの森』でブランドがゲーム内コスチュームやアイテムの提供をおこなった事例だ。家具や服のデザインをプレイヤーが自由に制作しオンラインで配布できる「マイデザイン」機能を利用して、アパレルブランドを中心に多数のコラボレーションアイテムが登場した。ジェラート ピケ(gelato pique)やniko and…といった国内ブランドはもちろん、アナスイ(ANNA SUI)、ヴァレンティノ(Valentino)、マークジェイコブス(Marc Jacobs)などのグローバルブランドも参加している。

「我々のブランドは参加していないが、この事例はブランドとゲームの向き合い方をわかりやすく示している」と担当者は指摘する。まず、接触する時間や場の決定権はプレイヤーにあり、なによりプレイヤーは「ゲームを楽しむ」という目的をもっている。「そんな状況でどうすればプレイヤーに自分たちのブランドへ関心を向けてもらうのか。『どうぶつの森』の場合、プレイヤーはゲームの中で自分らしく表現できるアイテムを求めている。そこにマイデザインを通してブランドは選択肢を提供した。単なる生活者理解だと思うかもしれないが、この理解の先にはデモグラフィックだけでなくサイコグラフィックも明確な、共通のゲームタイトル上にいる膨大なオーディエンスへのリーチがある」。

ゲームならではのメリットもある。「家庭用ゲーム機やPCゲームのUIやUXは、当然ながら計算され尽くしている(されていないものもあるが)。ゲームの文脈に沿う形であればノイズもほぼないし、オーディエンスの印象はポジティブだ。行動の決定権をプレイヤーが握っているということは、裏を返せば常に最適な場所や時間にブランドに接触してもらえるとも言える。ある種のセーフティでプログラマティックな広告と言えるかもしれない。マークジェイコブズやヴァレンティノの売上が増加したかは定かではないが、少なくともプレイヤーたちは好意を持ってプロダクトやブランドを認知しただろう」。

eスポーツは競争激化

『フォートナイト』や『どうぶつの森』はゲームのなかでもトップクラスのタイトルだ。これほどの成功例は多くなく、ブランドとの「相性」がいいジャンルのゲームとなるとさらに限られる。「人気があって多くのオーディエンスがいるからと言って、『コール・オブ・デューティー(Call of Duty)』シリーズで自社製品やブランドロゴが蜂の巣にされるのも困る」と担当者も苦笑する。

熱心なオーディエンスがおり、ブランドにとって参入ハードルが比較的低いのはやはりeスポーツだろう。NBAプレミアリーグはeスポーツでの公式トーナメントを実施しており、5月にはアメリカのNASCARF1がエキシビジョンレースをeスポーツでバーチャルレース開催したことも記憶に新しい。

「我々も最初の投資はeスポーツだった。固有のゲームタイトルよりも規模感があり、コミュニティやプレイヤーを理解しやすい。選手と観客やプロチーム、定期的な大会開催などそのほかのスポーツと基本的な構造が似ており、市場の理解や目標設定も容易だったことが理由だ」と担当者も続ける。「リージョンによる極端な差異もなく、グローバルで共通の戦略を立てやすい。日本における市場規模は大きいとは言えないが、ゲームという『共通言語』を介しているのなら、あえて日本だけにこだわる必要はないと考える」。

ただし、成熟しつつあるということは投資すべきコストも肥大化していく可能性がある。前述のBMWをはじめ、レッドブル(Red Bull)やナイキ(Nike)などの巨大ブランドはeスポーツ黎明期からイベントやチームに多額の投資をおこない、存在感を示していた。その傾向は今でも変わらず、「お試し」感覚の小額なスポンサーでは埋没してしまうと担当者は話す。「我々の場合、グローバルのデジタルマーケティング予算のなかに少なくない割合でeスポーツに優先的に投資する予算を確保しているが、もはやそれでも不足しがちな状況だ」。

「ブランドが自らトーナメントを主催する事例も増えている。オーディエンスのデータ取得や効果測定などの面で魅力を感じなくもないが、そこまで『入れ込んだ』場合、ブランドの見え方に偏りが出てくる懸念もあり難しい。eスポーツでの有名プレイヤーや著名アスリート(スポーツ系のタイトルには実際のアスリートが参加することも多い)を利用するという方法もあるが、これはインフルエンサーマーケティングになるだろう」。

「どんなブランドにも検討する価値がある」

ゲームをマーケティング戦略に組むこむことは、それほどお手軽ではなくむしろ困難も多いと担当者は語る。「最近はゲームコミュニティにおけるセクシャルハラスメントや人種差別の問題が大きく取り上げられ、そこに関わるブランドも明確な意思表示を求められる事態になっている。『若者に接しやすいイケてるマーケティングチャネル』だと適当に関わっても効果は得られない」。

だからこそゲームというカテゴリーの特性を理解し、自分たちのマーケティング戦略においてどのような役割を担うことができるのかを検討する必要がある。「目的が決まったとして、そこがスタート地点だ」。プレイヤー層の把握やコミュニティの傾向、ゲームのシステムや提供される体験。データ収集や効果測定においてはゲームメーカーやコミュニティとの協力が不可欠となるため、彼らとのコミュニケーションも重要になると担当者は指摘する。「遊び場に入り込んできたつまらない部外者になってはいけない。彼らと一緒に盛り上がりながら、ビジネスとしての成功も目指す」。

新型コロナウイルスの影響で物理的な制限がなかなか解除されないなか、ゲームは娯楽だけでなくリアルを代替するバーチャルな空間、社会とのつながりを維持するコミュニケーションツールとしての機能が評価されていく可能性もある。「明確な共通した文脈のうえに成り立つ一種のSNSだと考えると、ゲームとの接点の有無に関係なくどんなブランドもマーケティングチャネルとして検討する価値がある」。

「仕事で『フォートナイト』や『リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)』がプレイできるなんて羨ましいと言われることもあるが、これは我々が成功している証拠だと考えている。側から見ると他人が羨むような『遊び』を、ブランドの価値を高める武器にできているということなのだから」。

Written by 分島 翔平
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