英大手代理店WPP社系列のメディアエージェンシーであるマクサス(Maxus)の「the Drinking Code」という報告書には、アルコール業界における消費者の変化やマーケターへのヒントが書かれている。6つの国のアルコール愛好家たち6500人を対象としたこの研究では、彼らに有効な新しいマーケティング手法を見出そうとしているのだ。その調査結果によると、アルコール消費者が反応するキーワードとして「おすすめ」「インスピレーション」「個性」などが挙げられ、意外なことに「自制心」というキーワードも含まれているという。
アルコールに関してはプロダクトに対する消費者のロイヤルティーは高く、39%がほかのアルコール飲料も試したいと回答する一方、残りの61%は飲み慣れたアルコール飲料を好むとしている。そのため、新しいプロダクトを試してもらう機会は少なさそうだ。マクサスにて企画部長を務めるニック・ヴェール氏は、このような断片的で複雑な課題に対するマーケティング手法を米DIGIDAYに語った。
平均的なイギリス人は、人生を通して、およそ5万ポンド(約920万円)をアルコールに費やすという。これはチャリティー団体ワンポール(OnePoll)の研究で明らかにされた数字だ。
いまどき、イギリスのアルコール愛好家たちにも、デジタル化の波は影響を及ぼしている。SNSでより広範囲に人とつながるし、モバイルでのコミュニケーションは、ことさら増えているはずだ。しかし、昔からアルコール業界はテクノロジーに疎く、多くの業界ブランドは革新的なアイデアを嫌厭している。マーケティングに関しても、伝統的な手法を重んじてきた。
英大手代理店WPP社系列のメディアエージェンシーであるマクサス(Maxus)の「the Drinking Code」という報告書には、アルコール業界における消費者の変化やマーケターへのヒントが書かれている。6つの国のアルコール愛好家たち6500人を対象としたこの研究では、彼らに有効な新しいマーケティング手法を見出そうとしているのだ。その調査結果によると、アルコール消費者が反応するキーワードとして「おすすめ」「インスピレーション」「個性」などが挙げられ、意外なことに「自制心」というキーワードも含まれているという。
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アルコールに関してはプロダクトに対する消費者のロイヤルティーは高く、39%がほかのアルコール飲料も試したいと回答する一方、残りの61%は飲み慣れたアルコール飲料を好むとしている。そのため、新しいプロダクトを試してもらう機会は少なさそうだ。マクサスにて企画部長を務めるニック・ヴェール氏は、このような断片的で複雑な課題に対するマーケティング手法を米DIGIDAYに語った。
1. ブランドストーリーを語れ
ヴェール氏は「誰が、どうやって、なぜアルコールを製造していているかなど、ブランドの変遷が消費者に伝わっていない」と、大手ビール会社のマーケティングの現状について話す。対して、「Good Beer Guide 2015」(イギリスのパブガイドブック)によると、英国内に1285軒存在する小規模なクラフトビール会社の業界は、年比で10%も成長しているという。
イギリスでは、多くの既存のビール会社は、クラフトビール会社と競うのが困難になってきている。なぜなら、クラフトビール会社には、明確に語れるブランドストーリーがあるからだ。例として、2007年に設立されたスコットランドのブリュードッグ(Brew Dog)のブランドストーリーを挙げよう。同社は産業的に醸造されたビールに対抗するスタンスで、パンク調なブランドイメージを押し出しているのだ(東京では六本木にオープンしている)。
いままで大手ビールメーカーは、なるべく広範囲に販路拡大をしていくことが目標だった。しかし、これからはマーケティングによって「象徴的」な役割をビールに与えることで、若い世代を取り込む考えだ。このようにして「ターゲットを絞って販売し、ブランドメッセージに一貫性をもたらすことがルールになる」とヴェール氏は話す。
2. 個人にリーチする戦略を立てろ
最近の消費者は単にビールを飲むという行為以上のものを求める傾向も見逃せない。そこでヴェール氏は、従来のビール会社のように屋外の看板を使うかわりに、ダイナミック広告やターゲティング広告を実施することを提案。個人に直接リーチする形で、無差別にブランドメッセージを発信する広告とは一線を画すことが重要だと述べた。
とはいっても、ヴェール氏は「ダイナミッククリエイティブは、いまだ洗練されておらず、消費者に伝えるべきメッセージの戦略的観点から実施されていない」と、多くのマーケターが最適に活用できていないことを指摘する。
しかし、ダイナミッククリエイティブは、決してデジタルに限った手法ではない。コカ・コーラは、ラベルに人々の名前をプリントしたキャンペーンで、効果的なマーケティング実績をあげた。ヴェール氏によると「データをどのようにリンクさせれば、最適な形でターゲットにリーチ出来るのかを模索している段階だ」と、ダイナミッククリエイティブのアルゴリズムの可能性に期待している。
3. プロダクトの消費体験を高めろ
先述の「Drinking Code」という報告書には、消費者が選ぶアルコール飲料には、彼らが属するコミュニティーによって偏りがみられ、さらにその集団の慣習にユーザーの行動が影響されると書かれている。具体的には友人関係などにおける、その飲料を飲まなければ取り残されるという不安や恐怖などからくる習慣行動だ。人々はつながりを構築するために共通のエクスペリエンスを求め、アルコールがその手助けをしているという。
ブランドは、商品を通したユーザーエクスペリエンスを高めることで、利益を得ている。そのため、プロダクトの消費体験を高め、消費者の行動に影響を与えることを、ブランドメッセージの一部として強調していくことが可能だ。実際に、ハイネケンやギネスなど多くのビールブランドは、近距離通信技術をビールサーバーなどに設置していて、店の情報などをモバイルに提供しているという。
4. 逆説的に「自制」を促せ
報告書に書かれていることで、もっともイメージとかけ離れているキーワードに、「自制心」という言葉がある。調査によると、78%もの人が適度に飲むことを心がけており、半数以上の人がアルコールは大きな問題を引き起こす可能性があると認識している。
アルコールマーケティングにおいて、フランスやロシア、ノルウェーほど規制が敷かれていないのが、イギリスの現状だ。そのうえで、イギリスのアルコール消費者にリーチする効果的なマーケティング方法は、彼らに責任を持って飲むことを啓蒙することだとヴェール氏は話す。
例として挙げると、ハイネケンの「もっと踊って、ゆっくり飲もう(Dance More, Drink Slow)」キャンペーンや、ジョニー・ウォーカー(Johnnie Walker)の「絶対に飲酒運転をしない協定に参加しよう(#JoinThePact to Never Drink and Drive)」キャンペーンなどがある。消費者に適度な飲酒を促すことに注力し、両社ともより責任感のあるブランドメッセージを発信しているはずだ。結果的に、アルコールマーケティングにおいて、もっとも差別化を図る方法は節酒の啓蒙のようである。
Lucinda Southern(原文 / 訳:小嶋太一郎)
photo by Thinkstock / Getty Images