Uber(ウーバー)は昨年、多くの変化に直面した。そのひとつは、創業者トラビス・カラニック氏にまつわる騒動とも、ダイバーシティーの問題とも無関係だ。Uberは、メディアバイイングをインハウス化したのだ。
Uber(ウーバー)は昨年、多くの変化に直面した。そのひとつは、創業者トラビス・カラニック氏にまつわる騒動とも、ダイバーシティーの問題とも無関係だ。Uberは、メディアバイイングをインハウス化したのだ。
Uberは、調達、戦略、最適化といったメディアバイイングの大部分をインハウス化し、アドテク部門を設立したと発表。3年前にメディアマス(MediaMath)からUberのプログラマティックディスプレイ責任者に就任したベネット・ローゼンブラット氏は、ニューヨークで開催されたアドバタイジングウィーク期間中の10月2日に登壇し、Uberは自身がチームに加わった頃から大きく変わったと述べた。
Uberにとって、この決断の目的は、コスト削減よりも、広告戦略をみずからの手中に収め、改革を進めることだ。事業が成長するにつれ、Uberの広告はマスリーチやアプリのインストールよりも、活況を呈する配車サービス業界のなかで、パーソナライズやリエンゲージメント(ユーザーの呼び戻し)を推進することに移り変わってきた。Uberは、競合他社ではなく、自社のサービスを利用してもらう必要に迫られたのだ。
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Uberにおける3つの掟
エージェンシーと距離を置き、インハウス調達を進めるというUberの決断は、既存のマーケティングシステムをもたないマーケターが、より多くの決定権を求めた結果、インハウス化を選ぶという、昨今の流れに呼応している。創業10年のUberだが、マーケティングチームは設立からまだ4年ほどで、発展途上だと、ローゼンブラット氏はいう。加えて、Uberとエージェンシーの関係は良好とはいえなかった。2017年9月、Uberは電通傘下のモバイルアドエージェンシーのフェッチ(Fetch)に対し、同エージェンシーがメディアバイの効果を誇張し、実在しない不正広告を調達したとして、訴訟を起こしている。
Uberの変化は、プログラマティックマーケティングを担うテック企業、メディアマスとの提携強化にも見てとれる。メディアマスのグローバルプロフェッショナルサービス部門を率いるアナ・ゴロデカ=グラド氏は、ローゼンブラット氏とともにステージに上がり、移行のプロセスや背景について、彼に質問した。
ローゼンブラット氏によれば、マーケティング部門には3つの掟がある。透明性、助言の信頼、それに「増加(incrementality)」だ。以前のUberでは、インストールあたりのコストや初回利用にかかるコストが最重要KPIとされていたが、いまではインストール増分あたりのコスト、初回利用の増分あたりのコストに変わった。キャンペーンに対照群を設定し、効果測定を行うようになったのだ。
「我々の行ったキャンペーンの多くは、増分をもたらさなかった。広告にはいくつもの落とし穴がある。見栄えのいいキャンペーンを展開しても、何ひとつ結果が出ないこともある。本当に重要なことは、誰かがシートに座り、初めてUberを利用することだ」と、ローゼンブラット氏は語る。
「詐欺師と粗悪広告だらけ」
Uberの主力はモバイル広告だが、ローゼンブラット氏は依然として完全にプログラマティックにシフトしていないことに不満を抱いている。また、彼はエコシステムに蔓延する広告不正にも警戒を怠らない。モバイル広告の不正を特定し対抗するため、Uberはあるキャンペーンでテストを行った。半数のユーザーには1クリックでエンゲージする広告を、残りの半数には2クリックが必要な広告を提示したのだ。ローゼンブラット氏によれば、2クリック広告のクリック数は97%も少なかったという。
「こうして、真の増分はどれだけかという疑問が再び生じる。エコシステム内のパートナーの多くは、偽のクリックを使って、モバイルクライアントの高いオーガニック成長を食い物にしている。モバイルは詐欺師と粗悪広告だらけだ」と、ローゼンブラット氏は話す。
もちろん、Uberはエージェンシーと完全に縁を切ったわけではない。AKQAと組んだブランディングキャンペーンでは、スキャンダルで悪化したブランドイメージの改善に取り組んだ。
「最近の我が社は、ブランド指標において苦戦していた。そこで方針を修正し、エージェンシーの力を借りて、我々にとってプラスになるブランドキャンペーンを展開した」と、ローゼンブラット氏はいう。
AI主導の広告モデルの構築
同氏によれば、将来的に社内チームの優先課題となるのは、入札ストリームデータの利用など、AI主導の広告モデルの構築だ。こうしたモデルにより、たとえば利用者が「ワーズ・ウィズ・フレンズ(Words With Friends)」などのモバイルゲームをしているときなど、ユーザーが乗車可能なタイミングを予測できるようになることが期待される。ただし、UberはAI利用に積極的ではあるものの、アドテク部門を完全にロボットに置き換えることにはならないと、ローゼンブラット氏は語る。
「プログラマティック取引を完全にロボット任せにすることは考えられない。あいだに立って、すみずみまで目を配るトレーダーは今後も欠かせないというのが、私の考えだ」と、ローゼンブラット氏は語った。
Kerry Flynn(原文 / 訳:ガリレオ)