インフルエンサーマーケティングが進化するにつれ、ブランドやエージェンシーは、インフルエンサーとの仕事の仕方を見直しはじめている。その背景には、野放図なインフルエンサーマーケティングを正す動きが、規制強化やプラットフォーム側の自主的な取り組みとして、ここ1年半で進んだことがある。
チケット販売会社シートギーク(SeatGeek)がインフルエンサーへの報酬の支払いをはじめたとき、同社はソーシャルメディアにおけるスターたちがブランドについて何を話すかを厳しく管理した。
「我々は、アプリの要点すべてについて、彼らに語ってもらおうとした」と、シートギークのインフルエンサーマーケティング責任者、イアン・ボースウィック氏(TOP画像)はいう。「プロダクトを強力に後押ししようとしたのだ」。
この風潮は、2016年に同社がインフルエンサーのデビッド・ドブリク氏と提携したことで、大きく変わった。ユーチューバーのドブリク氏は、自身のクリエイティブな独立性を維持することを強く主張した。シートギークの製品を直接宣伝するのではなく、ドブリク氏は同社のアプリを使って友人にサプライズでワールドシリーズのチケットをプレゼントし、その体験を動画にしたのだ。これ以降、同社はドブリク氏と20以上のキャンペーンを展開し、合計視聴回数は1億5000万回を突破。このアプローチの成功は、シートギークにとってのターニングポイントとなり、同社の現在4人からなるインフルエンサーマーケティング担当社内チームは、インフルエンサーとの関係を根本的に見直した。
「クリエイターは我々よりも、はるかに説得力のあるブランドストーリーをオーディエンスに語ってくれる」と、ボースウィック氏はいう。
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インフルエンサーマーケティングが進化するにつれ、ブランドやエージェンシーは、インフルエンサーとの仕事の仕方を見直しはじめている。多数のインフルエンサーと一度きりの契約を結び、全員に同じコピーを使わせてフォロワーにアピールさせるのではなく、マーケターとエージェンシーは現在、より長期的なパートナーシップを結び、インフルエンサー側のクリエイティブな裁量を増やすことを検討している。背景には、野放図なインフルエンサーマーケティングを正す動きが、規制強化やインスタグラム(Instagram)などプラットフォーム側の自主的な取り組みとして、ここ1年半で進んだことがある。
こうした移行にともない、ブランドが参照する指標も変化した。「いいね!」やコメントだけでなく、ブランドはこうした戦略が実際の売上において投資利益率の改善をもたらすと気づいたのだ。
「過去1年半で、インフルエンサーマーケティングとは何かという一般認識は大きく変わった」と、アイプロスペクト(iProspect)でソーシャルメディア担当バイスプレジデントを務めるジョーダン・ジェイコブソン氏はいう。「かつては無法地帯だった。いまでもそういう部分はあるが、ずっとよくなっている。メディアとの統合が進み、ビジネスにおいて結果を出すまっとうな手段とみなされるようになった。一時の注目を集めるだけではない」。
一度きりの契約からの脱却
ブランドは当初、できるだけ多くのインフルエンサーと1回きりの契約を結び、彼らのオーディエンスにメッセージを送る傾向にあった。誰と提携するかの判断基準はしばしばフォロワー数で、契約はプロダクトとプロダクトメッセージをできるだけ多くの人々に宣伝するための「プログラマティック」マーケティングの形態に近かったと、インフルエンサープラットフォームのインフルエンシャル(Influential)のCEO、ライアン・デタート氏は語る。
近年、この風潮に変化が起きている。とくにこの1年半で、1度きりの契約で可能なかぎり多くのインフルエンサーを駆使してメッセージを量産し、多くの視聴者の目に触れるという戦略が機能していないことに、ブランドはようやく気づいた。
「結局のところ、インフルエンサーは人であって、メディアバイではない。ブランドは以前よりもインフルエンサーを長期的パートナーとみなすようになった」と、RQでアカウントディレクターを務めるケイティ・ウェルハウゼン氏はeメールで述べた。「ブランドはクリエイターとの強固な関係を構築しており、両者が協力してインフルエンサーのクリエイティブなビジョンを活用している。これにより、どちらのプレイヤーもそれぞれの活動領域において本物の創造性の扉を新たにいくつも開けることができる」。
関係性の変化には時間がかかる。出来合いのコピーで1度きりの契約を結ぶ場合、ブランドは単に多数のインフルエンサーをかき集め、オーディエンスに向けて用意したコピーを投稿させて、報酬を払うだけでよかった。長期的関係の構築には、当然のごとく時間が必要だ。エージェンシー関係者がブランドに推奨するのは、インフルエンサーとの相性に問題がないか判断し、コラボレーションの見通しを立てる「ケミストリー・セッション」を行うことだ。また、契約書にサインする前に、インフルエンサーについて入念に下調べしておくことも重要だ。OMDなど一部のエージェンシーは、ブランドのこうした手間の一部を代行すべく、指標化やランキングを行っている。
1度きりの契約の方が実現しやすいが、長期的関係の価値は、シートギークにとってはるかに実り多いものだった。チケット販売会社である同社は、1人のインフルエンサーと半年~1年にわたって提携を継続することを目標に定めた。「広告を何度も視聴すれば、オーディエンスの注目度ははるかに上がる」と、ボースウィック氏はいう。「見慣れるし、クリエイターも違和感なく仕事できるようになる。長期契約を結べば、市場規模が大きくなるし、毎月新しくパートナー探しに奔走することもなくなる」。
インフルエンサーにクリエイティブな裁量を与える
提携関係が長期的なものになれば、ブランドは抵抗なく、自社についてのメッセージを創作するうえでインフルエンサーにより自由を与えることができ、完成したコンテンツはインフルエンサーのチャネルに自然になじむものになる。一部のブランドはすでに、同じ広告コピーを別々のインフルエンサーの口から延々と吐き出させるのではなく、インフルエンサーがいつも創作しているコンテンツにブランドメッセージを織り込ませる形で、クリエイターと提携する試みをはじめている。
「ブランドはインフルエンサーネットワークを信頼し、コンテンツ制作とプロダクトの選択に関する判断において、彼らに創造的自由を与えるようになってきた。そうすることで、個々の消費者が信憑性を感じるコンテンツになる」と、デジタス(Digitas)でソーシャル戦略担当アソシエイトディレクターを務める、トレバー・デービス氏はいう。
「いまのような自由度は、以前はなかった」と、キッズ・アット・プレイ(Kids at Play)の創業者でCEOも務めるジェイソン・バージャー氏はいう。彼によれば、こうした自由度が生じたのは、ブランドとインフルエンサーの両方が、関係に何を期待し、何を必要としているかを明確に認識するようになった結果だ。
関係の形はブランドとインフルエンサーによってそれぞれだが、はっきりしていることがひとつある。ブランドはかつてないほどインフルエンサーに対してオープンになっていて、彼らと提携して、単なる広告ではないチャネルに合ったコンテンツを制作することに前向きなのだ。そうは言っても、ブランドはインフルエンサーへ単に手綱を渡すわけではない。「制作に関してはるかに自主性が認められるようになった一方で、ブランドは一定のガイドライン、一種のプレイブックの提供に関しては、管理をやや強めている。自由な創作を台無しにすることなく、介入できるようにするためだ」と、デービス氏は述べた。
プラットフォームが正常化を後押し
インフルエンサーとブランドの関係の変化は、インフルエンサーマーケティングに対するプラットフォームの見解の変化に呼応している。1年半ほど前、インフルエンサーマーケティングには悪評がついてまわっていた。ブランドセーフティやインフルエンサー不正の問題に加え、議員たちはまだマーケティングのあるべき姿や、ブランドとインフルエンサーが関係の透明性をどう示すべきかに関して、規制を明文化できていなかった。政府と業界によるインフルエンサーマーケティングの規制が進むにつれ、ボットフォローの多いインフルエンサーを検出するツールが登場し、インスタグラムなどのプラットフォームも、インフルエンサーとブランドの関係について立場を再検討しはじめた。
最近、インフルエンサーのブランデッドコンテンツのプロモーションを行うツールがプラットフォームに追加された。タグが使えるようになったり、以前は存在さえしなかったパフォーマンスデータにブランドがアクセスできるようになったことで、「編集可能になり透明性が増した」と、ジェイコブソン氏はいう。またYouTubeのフレームビット(FrameBit)やTwitterのニッチ(Niche)など、プラットフォーム自体にインフルエンサー部門が創設され、プラットフォーム上で人気のインフルエンサーをブランドに紹介するサービスも活発化している。
「単なるスクリーンショットではない、パフォーマンスデータに直接アクセスできるようになったところから、状況は変わりはじめた。コンテンツの効果をブランドがはるかに詳細に検証できるようになったからだ」と、OHパートナーズ(OH Partners)のソーシャルメディア・広報担当バイスプレジデント、ジェイソン・ミラー氏はeメールで述べた。「さらに、インフルエンサーの投稿を直接、クライアントのブランデッドコンテンツと同じようにプロモーションできる機能が加わったことで、より少数のパートナーと、より多くのことが実現可能になったといえる」。
「多機能なアナリティクスを手にしたことで、我々は(インフルエンサーを)本物のメディアチャネルのように扱えるようになった。それだけでも、多くの可能性が拓かれ、悪評を過去のものにして、きわめてまっとうなアプローチへと脱皮することにつながる」と、ジェイコブソン氏は語った。
Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)