トレジャーデータが7月11日に発表した新サービス、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)では、一般企業によるビッグデータの利活用を支援し、ディスラプターへの対抗手段を提供するという。同社CEOの芳川裕誠氏による発表内容をまとめた。
「大企業なら安泰」という時代は、とうの昔に過ぎ去った。デジタル化の波が、ビジネスモデルだけでなく社会の仕組みそのものを変えはじめ、それに対応できず一線を退いたレガシー企業は少なくない。
その一方、台頭してきたのが、いわゆるディスラプターと呼ばれるデジタル企業だ。いまや全米におけるネット広告売上の70%以上を牛耳るGoogleやFacebook、そしてeコーマスで世界を変えつつあるAmazonなどである。
ディスラプターへの対抗手段
「デジタルディスラプターたちが、昔ながらの大企業が構築してきたエコシステムをひっくり返している」と、7月11日開催されたトレジャーデータの記者発表会で、同社CEOの芳川裕誠氏は語った。「そもそも、Googleは検索エンジン、Amazonは本屋だ。しかし、どんどん新しい領域に侵食してきた結果、このような事態が引き起こされた」。
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なぜ、こうした新興企業が既存企業の領域を奪い取り、勝ち組として名乗りを上げることができたのか。その理由は、膨大なファーストパーティデータをもとにした、パーソナライズドされた経験にあると、芳川氏は続ける。「ディスラプターは、ある種、企業全体が顧客データベースになっている。マスマーケティングではなく、完全にダイレクトな1on1のマーケティングをリアルタイムに行っているのだ」。
このようなディスラプターの躍進に対して、一般企業はこれまで、無視するかおもねるか、もしくは取り込まれるか以外に、有効な対抗手段をもたなかった。自社内にデータエンジニアやデータサイエンティストがいるわけもなく、新規獲得しようにも組織や設備、費用など、どこから手を付けていいかわからないからだ。今回発表されたトレジャーデータの新サービス、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)は、そこに風穴を空けられるという。
CDPだからこそのメリット
「トレジャーデータは、創業当初からありとあらゆるデータソースから大量のデータをリアルタイムに集めてくることに特化してきた。これをテコにして、ディスラプターに対抗できるデータ基盤をCDPで、一般企業に提供する」。
CDPが収集するデータはプライベートDMPと異なり、デジタル広告やウェブサイト、モバイルなど、オンラインに限ったものではない。POSデータやCRMデータ、入店データなども含まれる。さらに、IoT対応の自動車や家電などからもデータを収集できるという。「これにサードパーティデータを加えると、360度で顧客の姿を捉えられる。まさにGoogleやAmazonが日常的に行っていることだ。CDPを活用すれば、必ずしもデータDNAがない企業でも、より精緻なパーソナライゼーションを行えるようになる」。
また、さらなるCDPの優位性として芳川氏は、データ保管の「期限がない」こと、データのスペシャリストではないマーケターでも直接利用できる「簡便性」を挙げる。「ある種、ロックインがない」と芳川氏。
もちろんセキュリティに関しても万全だ。このプロジェクトのためにトレジャーデータは、1月に専門家のジェームス・ポール氏を雇い入れた。同氏は、元米海兵隊で情報システム管理責任者を努めたプロフェショナルだという。
「データ基盤は本当に大変」
すでに米国では、玩具メーカーのマテル(Mattel)や自動車メーカーのアウディ(Audi)などが、CDPを利用している。100年以上の歴史を有するエンターテインメント企業ワーナー・ブラザーズもCDP導入企業だ。
また、デジタルディスラプター側もCDPを利用している。モバイルコマースにおいて米国では、Amazonよりも人気があるウイッシュドットコム(Wish.com)だ。元Googleと元米ヤフー(Yahoo!)のメンバーが創業した同社では、CDPでパーソナライゼーションの精度を高め、10アイテムのうち9アイテムは検索せずとも見つかるようになったという。
「Googleやヤフーにおいて彼らが学んだことは、データ基盤というものは本当に大変だということだ。作るだけではなく、それを競争力ある形でメンテナンス、アップグレードしていくのは、もっと大変だと」。だから、ウィッシュはCDPの導入を決めたと、芳川氏は語る。「それで、貴重なベンチャー企業のリソースを、より高付加価値な部分に回すことができた。CDPなら、いまこの瞬間も増え続けているデータを、すぐに企業の力にすることができる」。
Written by 長田真
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