トラベルリテールといえば、かつてはヘリテージラグジュアリーブランドのフレグランスが棚を独占していたが、いまではニッチなインディーズ美容ブランドでリニューアルされつつある。 旅行免税店での購入客の年齢層が若くなるにつれて、 […]
トラベルリテールといえば、かつてはヘリテージラグジュアリーブランドのフレグランスが棚を独占していたが、いまではニッチなインディーズ美容ブランドでリニューアルされつつある。
旅行免税店での購入客の年齢層が若くなるにつれて、店頭にはシャネル(Chanel)、ラ・メール(La Mer)、資生堂などのほかに、グロウンアルケミスト(Grown Alchemist)、マリン&ゲッツ(Malin & Goetz)、ソル・デ・ジャネイロ(Sol de Janeiro)、タタハーパー(Tata Harper)などのトレンディな新しいブランドが登場している。これらのブランドは、若い旅行者を惹きつけようと試みるトラベルリテール大手業者が品揃えを広げるために加えられた。ブランドの観点からは、トラベルリテールがパンデミックから回復しているなか、このチャネルへの参入は国際展開への注力を活性化するのに役立つものである。
グロウンアルケミストとマリン&ゲッツの事例
グロウンアルケミストのCEO、アンナ・ティール氏は、免税小売業者からは「品揃えの拡大・多様化のために、新進気鋭の若いインディーズブランドや若い旅行客にアピールするブランドが求められている」と述べている。
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グロウンアルケミストは今年第2四半期に初めてトラベルリテールに参入したが、「非常に積極的な展開計画」があるとティール氏は語った。同社はまずオーストラリア、シドニーでトラベルリテールにローンチ。2023年にはヨーロッパ全土でさらに16カ所に進出して、その後、アジア太平洋地域全体に急速に拡大する予定がある。現在は世界的な免税店大手のハイネマン(Heinemann)とデュフリー(Dufry)で取り扱われており、将来はさらに多くの小売店で展開するという。
マリン&ゲッツはホテルやデルタ航空との提携を通じて長年旅行消費者に関与してきた基盤をもとに、2023年にトラベルリテールにも進出した。昨年末、ニューヨークのJFK空港にある国内旅行者向けのDFSの新しい美容コンセプトショップでまずローンチ。2023年には、マカオのデュフリー、韓国拠点の免税店の新世界(Shinsegae)、現代(Hyundai)、新羅(Shilla)、そして、中国の海南島の海南観光投資免税店(Hainan Tourism Investment Duty Free)に進出する予定がある。
マリン&ゲッツのCEO、ブラッド・ホロウィッツ氏は次のように述べている。「これらの小売業者の多くからは、通常の品揃えとは違うものを提供するためにライフスタイルブランドや当社のような新興ブランドがもっと求められている。このようなトラベルリテールのフットプリントで現在発展中のセクションがわかる。小売業者は新興ブランドから構成されるライフスタイルの(商品が並んだ)壁を作りつつある。美容とフレグランスに、小売業者が旅行者にとってもっと魅力的な品揃えを提供しようとしているのが見られる」。
2022年3月にロクシタングループ(L’Occitane Group)に買収されたグロウンアルケミストは、トラベルリテールチャネルに迅速に進出した美容複合企業の新しいポートフォリオブランドの数社の一例だ。ロクシタングループのソル・デ・ジャネイロも今年4月にデュフリーでトラベルリテールに進出し、6月にはヨーロッパ全土の空港でトラベルリテールポップアップを後援した。これ以前には、2021年第4四半期に資生堂グループ所有のドランクエレファント(Drunk Elephant)がトラベルリテールに進出、2020年にエスティ ローダー カンパニーズがドクタージャルト+(Dr. Jart+)をトラベルリテールチャネルに導入している。
インディーズブランドもこのチャネルに参入している。タタハーパーは2022年9月のアモーレパシフィック(Amorepacific)による買収に先立ち、2021年にマカオで初めて免税チャネルに進出した。高級スキンケアのユニコーンであるオーガスティナス・ベイダー(Augustinus Bader)も2021年に免税チャネルに初進出している。
国際展開の一環として免税店に進出
免税分野への進出はブランドの全体的な国際展開の取り組みの一環である。たとえば、マリン&ゲッツは中国本土でのプレゼンスを同時に拡大しており、8月8日に上海に新店舗をオープンした。これは中国本土では初の独立店舗であり、世界では6店目となる。
ホロウィッツ氏は、マリン&ゲッツの今年の収益の40%は北米以外からになるだろうと述べている。また、同氏は、将来はトラベルリテールが収益の20%を占めるようになるだろうと予想している。業界関係者によると、マリン&ゲッツの現在の世界売上は5500万ドル(約80億円)だという。
「これは当ブランドにとって、旅行消費者だけではなく、世界中の消費者を惹きつけるための非常に大きな戦略的機会だと考えている。当社には大規模なグローバルな目標がある」とティール氏。 「トラベルリテールは当社の国際展開計画の一環として非常に重要な役割を果たすことになるだろう」。
Z世代の関心を惹きつけたいトラベルリテール業界
免税小売店は若い旅行者の関心を引くことに懸命である。それは、特にZ世代がほかの世代に比べてトラベルリテールに関心がないことがデータにより示されているからだ。トラベルリテール調査企業、マインドセット(m1nd-set)の調査データによると、旅行中に免税品を購入したことがあると回答したのは、全体平均が51%に対して、Z世代の回答者は41%だった。また平均支出額も回答者全体の123ドル(約1.8万円)に対して、Z世代は73ドル(約1.1万円)と低かった。
「頻繁に旅行する客は平均してわずかに若くなっている。旅行客は幅広くさまざまなブランドを発見したいと考えている」とティール氏は語る。
トラベルリテール業界を取り巻く環境の変化
パンデミックの影響でトラベルリテールは容易に参入できる市場ではなかった。ELC(エスティ ローダー カンパニーズ)の2023年度第3四半期決算では、アジアにおけるトラベルリテールの不振により売上高が8%減少したことが示されていた。同社の次の決算報告は8月18日に予定されている。ELCのCEO、ファブリツィオ・フリーダ氏は当時の声明で、アジアのトラベルリテール市場の回復は「他地域での経験と比べて、予想していたよりもはるかに不安定であり、緩やかであることが判明した」と述べた。
資生堂グループの2023年上半期決算報告書では、「規制強化に伴う小売業者の在庫調整によりトラベルリテールの売上高が減少した」と記されていた。海外で免税品を購入して国内で安価で販売するサードパーティセラーに対する中国の措置について言及されていたが、サードパーティによるこのような動きはこれまで伝統的なラグジュアリー美容ブランドを強化している。
しかし、LVMHの最近の財務報告書では免税販売が黒字に戻ったと述べられており、今年の残りの期間の回復を楽観視する兆しもある。
国連世界観光機関(UNWTO)は、2023年は観光業が「完全回復」の軌道に乗っており、海外旅行は2023年第1四半期にはパンデミック前の水準の80%に達すると報告している。欧州旅行小売連盟(The European Travel Retail Confederation、ETRC)のビジネスパフォーマンスインデックスによると、2022年の免税売上高は2019年の83%に達したという。
ホロヴィッツ氏は今年末のトラベルリテールの見通しについて楽観的だという。
「当社のグローバルアメニティパートナーはどこもホテル客室用の全製品を事前に注文しているため、旅行の4カ月前に状況を把握できる。したがって、旅行業界にとって今年は大きな年になることを実際にかなり前から知っていたし、事実その通りになっている」。
ティール氏は、変動性はあるものの、トラベルリテールはグロウンアルケミストの戦略の一部であり、「チャネルという観点だけではなく、地理的なフットプリントという観点からも非常にバランスのとれたビジネスの組み合わせを実現する」と述べている。同氏は今後3年以内にトラベルリテールがグロウンアルケミストの売上の10%を占めるようになるだろうと予測している。
ティール氏によると、若い旅行者は、土産としてではなく、自分が旅行中に使うための「自分へのギフト」として免税品の化粧品を購入することが多いという。グロウンアルケミストとマリン&ゲッツはどちらも免税販売のために複数の製品からなるトラベルキットに注力している。
トラベルリテール限定商品もブランドにとって優先事項であり、限定商品は、スタッフのトレーニングや空港のポップアップなどのマーケティングアクティベーションも含めたブランドによる多額の投資につながっている。
ティール氏は、トラベルリテールへの参入について、「これは高額な初期投資モデルだ。しかし、適切に行えば間違いなく価値があるので、軽々しく下すべき決断ではない。複数の異なるタッチポイントにわたって多くの投資を行う必要がある」と述べている。
しかし、若いブランドには品揃えを刷新したい免税店からの誘いを受け入れられるという利点がある。
「新興ブランドや当社のようなニッチなブランドにとって、これまでは店舗スペースを確保するのはずっと難しかった」とホロウィッツ氏。現在では「新興ブランドの参入障壁は低くなった。多くの(ニッチな)ブランドが注目されているいま、我々のビジネスはエキサイティングな時期にある」。
[原文:Travel retail’s beauty assortment is getting hipper as niche brands move in]
LIZ FLORA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)