「インフルエンサーのバブル崩壊は、秒読み段階だと思う」:某高級ホテル・マーケティング担当者の告白

高級ホテルには特に、インフルエンサーから何百件にも及ぶ、なんとも身勝手な問い合わせが殺到しているという。あまりの問い合わせ件数の多さから、ダブリンにある某高級ホテルは、インフルエンサーの利用を全面的に禁止している。

匿名を条件に職場での体験について本音を語ってもらう当サイトの「告白」シリーズ。今回は某高級ホテルグループで広報とマーケティングを担当する経営幹部社員に、インフルエンサーマーケティングの「バブル」がじきに崩壊すると考えている理由、そして、その考えとは裏腹に、ホテルのマーケティングにインフルエンサーをいまだに起用している理由を赤裸々に語ってもらった。

なお、インタビューの内容は読みやすさを考慮し、多少編集を加えてある。

──旅行業界におけるインフルエンサーマーケティングの使用に関する見解とは?

トラベルインフルエンサーを起用するのが成功法だと考える人もいるが、トラベルインフルエンサーの作るコンテンツは、我々のような旅行業界のマーケティング担当者や広報、コミュニケーションのプロがすでに制作したコンテンツの二番煎じのようなものになりがちだ。旅行とは関係のない分野のインフルエンサーを起用すると、我々が予算を割けない部分や、我々では思い付きもしないこと、たとえば「ルームサービスのメニューは変更できるか」といったことに彼らは目を付ける傾向がある。一方、旅インフルエンサーの写真や動画、投稿はありきたりすぎることがほとんどだ。

──インフルエンサーマーケティングは効果的か?

トラベルブロガーの投稿を見て、ホテルを選んだというお客様にはまだお会いしたことはないが、ファッションインフルエンサーの投稿を見て同じアイテムを買ったという人はよく見る。多くのインフルエンサーが相当努力をしていることは重々承知だが、ときとして「いやいや、あなたと手を組むなんて冗談じゃない。インスタグラム(Instagram)の良くない使い方のお手本じゃないですか。お金を稼ぐ方法やインスタグラムの仕組みを悪用する方法、現実よりも自分を良く見せる方法がわかって、良かったですね」という気持ちになることがあるのも事実である。彼らの投稿は非常に身勝手で自己満足の塊である。

──インフルエンサーマーケティングの「バブル」の崩壊は時間の問題だと思うか?

秒読み段階だと思う。具体的にいつかはわからないが、刻一刻と迫ってきている感はある。誰もが完璧な生活の虜になり、インスタのために完璧な生活を演じ、自分のプロフィールページを完璧にするために必死になっていたが、いまSNSで「映える」だけというコンセプトに対して世間の風当たりは強い。最近、若い世代はほとんどフィルターを使わないTikTokなどのSNSを使用している。彼らが使用しているSNSは完璧な自分を演じることではなく、面白いコンテンツを作ることが目的なのだ。そして、彼らにとっては、静止画よりも動画が重要なのである。インスタ映えは、時代遅れなのだ。インスタグラムはFacebookと同じ末路を辿っている。いまの若い世代にとってFacebookはすでに親世代、祖父母世代のものだ。したがって、5~10年後にインスタグラムのインフルエンサーと手を組むことが時代錯誤になっている可能性は十分あると言えるだろう。

──TikTokについての見解とは?

我々はそもそも、TikTok(ティックトック)をマーケティングツールとは考えていない。TikTokは若い世代を対象にしているアプリだが、今後さらに進化するという印象はある。50%が口パク(リップシンク)のミームで占められていたTikTokは、すでにオリジナルコンテンツが充実したアプリになっている。TikTokをマーケティングツールとして使う方法はまだ見出せていないが、マーケティングツールへ進化してほしくないというのが本音だ。TikTokにはエンターテイメントの枠を超えてほしくないと思う。インスタグラムもかつてはもっと楽しいアプリだった。

──インフルエンサーとの仕事の仕方をどのように変えたか?

いままでインフルエンサーと契約を結ぶことはなかったが、いまは契約を結んでいる。ここ2年、ほぼすべてのインフルエンサーが「ホテルについて投稿し、ホテルが自由に使える写真をX枚提供します」という約束を有言実行している。今後、彼らは自分のSNS向けにホテルに提供したコンテンツを別の目的で使用できる。インフルエンサーとの関係はれっきとした取引関係だ。にも関わらず、彼らが実際に別の目的でコンテンツを使用するまで、その行為がもたらす本当の影響が我々にはわからないのである。

我々はインフルエンサーと条件を交換しているのだ。美容やファッションといった業界は「報酬を支払って宣伝してもらう」仕組みを見出しているが、我々が提供しているサービスは価値が高すぎるため、ホテルがインフルエンサーに報酬を支払うのは難しいのである。多くの場合、我々ホテル側が何かに対して料金を支払うことはないが、代わりにインフルエンサーに対して、一泊の宿泊や食事、スパトリートメントを提供することはあるだろう。また、自分のプロフィールページの世界観と合わないからといってプロフィールページで写真を非表示にすることや、削除することは契約違反となるという文言を契約書に含めている。これまで、取材のための旅費を出してほしいと言ってきたインフルエンサーもいたが、我々が旅費を支払うことは絶対にありえない。

──この20年インフルエンサーの存在は仕事をどう変えたか?

インフルエンサーマーケティングによって、私の仕事には非常に重く厄介な負担が上乗せされ続けている。あらゆることに関して、「インスタ映え」する瞬間があることを確認する作業を強いられている。しかもインフルエンサーのためだけではなく、一般の人々のためにも、である。個人的には、「インスタ映え」が辞書に採録されてもおかしくない言葉になっているのは興味深いと感じる。我々はすでに、旅行先で目にする世界が、誰かが自撮り棒で撮影した「見たことのある世界」と同じでは、誰も満足できない時代に足を踏み入れているのだ。インフルエンサーを責める気はない。これは誰にでも言えることだからだ。

※ 本稿へのフォロー記事として「『人々は インフルエンサー を馬鹿にするのが大好きだ』:ある旅行関連インフルエンサーの告白」を公開しています。あわせて、ご覧ください。

Deanna Ting(原文 / 訳:SI Japan)