ひとつの製品カテゴリーに特化したビューティーブランドは、徐々に姿を消しつつある。ブランドがトップラインの売上を向上させたい場合、新しい市場領域へ拡大するか、あるいは追加製品のローンチが行われる。いまもっとも重要視されるのは、ブランドといかに深くつながれるか、信頼度である。
ひとつの製品カテゴリーに特化したビューティブランドは、徐々に姿を消しつつある。
フェイシャルスキンケアやメイクアップ、ウェルネス製品など、かつてはひとつの決まった美容カテゴリーに特化していたブランドが、当初の境界を超えて製品ラインを拡大している。メイクアップブランドがスキンケア商品を提供することはもはや新しくも不思議でもなく、またどんなブランドがデオドラントを発売してもおかしくはない。たとえばクリーンメイクアップブランドのコーサス(Kosas)は、2020年6月にデオドラントをローンチしたことに続いてボディウォッシュを発売した。デオドラントは同ブランドにとって初のボディケア製品だったが、現在ではNo.1ベストセラーとなっている。
一方で2009年に歯磨き粉ブランドとしてスタートしたハロープロダクツ(Hello Products)は、2020年6月にデオドラントを発売。2015年にデオドラントブランドとしてスタートしたネイティブ(Native)は2月にヘアケア製品を発売している。その結果、あらゆるブランドが「パーソナルケア」という包括的な言葉でくくられるようになり、従来のようなビューティブランドはもはや存在していない。
Advertisement
急速に進む製品ラインの拡大
1992年にカナダで誕生したウェルネスブランドのセージ(Saje)は、特定のカテゴリーにはとらわれずにセルフケアに当てはまる製品を展開している。マーケティング・シニアディレクターのシンシア・シャヒーン氏によると、セージは最初にエッセンシャルオイルのロールオンの販売からスタートし、その後10年でオイントメントや軟膏、ローションなどのボディケアやスキンケア製品へとラインを拡大した。シャヒーン氏は、セージが2000年代初頭にこれらのカテゴリーへ製品ラインを広げた理由について顧客の理解を得られている、と述べているが、2020年以降市場全体でカテゴリーの拡大が急速に進んだとも指摘している。
セージはもともと自然派アロマテラピーとエッセンシャルオイルのブランドだが、シャヒーン氏は次のように述べる。「私たちの場合、ボディ&スキンケア製品のブランドというポジションを主張することにほとんど支障はなかった。ボディケアやスキンケアはホリスティックに気持ちをよくしたり、植物の持つヒーリングパワーと結びついたりするのに役に立つという点で重要だからだ。(昨年は)多くのブランドが必要に迫られて、消費者のさまざまなニーズにもっと応えられるようポートフォリオを拡大している。私たちの場合、今年は100%天然のハンドサニタイザーを発売するなど、パンデミックの間に自分たちのコミュニティをサポートできるような製品により重点を置くようシフトした」。
一方、アミリス(Amyris)傘下のビオッサンス(Biossance)は主要成分のスクアランをベースにしたフェイシャルスキンケアブランドとしてスタートしたが、フェイシャル以外の展開を始めており、6月15日にはボディケアとデオドラントをローンチした。ビオッサンスCMOシーラ・ポラック氏によれば、ボディケア製品の季節性やフェイシャルスキンケアブランドとしてのブランドの原点を考えると、ボディケアへの商品展開において顧客教育をそれほど行わなくても受容されるだろうと判断したという。その代わり、ビオッサンスは、ボディケア製品を活用してソーシャルメディアやeコマースでスクアラン成分(サメの肝臓を原料とするスクアレンの合成代替物)やパッケージのサステナビリティについて説明したり、海洋の健全度や安全を守るために非営利団体のオーシャナ(Oceana)とチャリティパートナーシップを結んでいることを表明したりといった点に力を注いでいる。
一般的にブランドがトップラインの売上を向上させたい場合、新しい市場領域へ拡大するか、あるいは追加製品のローンチが行われる。指数関数的な売上の成長を目指すことで、新たなカテゴリーへの拡大を全面的に推進することもできるだろう。米Glossyの過去の報道によれば、ビオッサンスは2021年に最大1億6000万ドル(約177.1億円)の売上を獲得する見込みである。
ビオッサンスや美容業界全体が複数のカテゴリーへと拡大していくことには他の要因も影響しているとポラック氏は言う。現在市場に圧倒的な数のブランドが存在しているが、それに対して顧客は自分の価値観にぴったり合ったごく少数のブランドを厳選した上で製品を購入していると彼女は指摘している。
消費者が求めるのは信頼できるブランド
「消費者はセルフケアにより時間をかけており、健康に対していままで以上に包括的な視点を持つようになっている。日々の生活において、数は少なくても自分たちにとってより重要な意味のあるブランドだけを所有するというシンプルさが求められている。以前にくらべていまの消費者はかなり慎重に選択するようになっている」とポラック氏。
こうした決まった購買習慣が長期的に続いた結果、個々のブランドが多岐にわたるカテゴリーでより多くの製品を販売するようになった。小売業者もこの傾向にあり、セフォラ(Sephora)、ウルタ(Ulta)、クレド(Credo)、デトックスマーケット(Detox Market)など多くの小売業がこの3年でセクシャルウェルネスやオーラルケア、デオドラントなどの商品を店頭に置くようになっている。こうした状況は、最終的には顧客にとって、「選択のパラドックス(選択肢が多いほど人は不幸を感じやすくなる)」を自ら作り出してしまうことになるかもしれない。逆にブランドは、より徹底したパーソナルな方法で顧客と関わり、消費者を教育していくことにさらに力を入れていく必要がある。今年3月、ビオッサンスは得意客との交流を深めることを目的とした初のバーチャルな「コミュニティ・サミット」を開催、購入額の多かった顧客100人に発売予定の製品サンプルを配布した。
「市場と消費者の選択肢は無限であり、市場には商品があふれかえっている。平均的な消費者にしてみれば正しい選択をするのに時には圧倒されてしまうほどだ。消費者が求めているのは、信頼できるブランドやコミュニティの一員になること。より少ない数のブランドと(より深く)つながることで、消費者にとって購買の選択がもっと容易になるだろう」とポラック氏は語る。
[原文:Traditional beauty brands are morphing into personal care brands]
EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida、編集:山岸祐加子)