米小売大手ターゲット(Target)は6年ほど前に、サブスクリプション&割引サービスを導入した。これはAmazonが広めたモデルで、ターゲットはそれに追随するべく開始したサービスだ。しかし、このたび、その中止を決めた。
米小売大手ターゲット(Target)は6年ほど前に、サブスクリプション&割引サービスを導入した。これはAmazonが広めたモデルで、ターゲットはそれに追随するべく開始したサービスだ。しかし、このたび、その中止を決めた。
第3四半期も売上好調を維持したターゲットは、11月第3週、定期購入商品を割引する同プログラムを取り止め、注力の対象を各店舗におけるフルフィルメントと併せて、傘下の配送サービス会社、シップト(Shipt)を介した当日宅配サービスに切り替えることを決めた。「我々のサブスクリプション顧客の大半はすでに通常発送から当日配送に移行し、後者の迅速性と柔軟性を享受している」と、ターゲットの広報はブルームバーグ(Bloomberg)に語っている。
ターゲット・サブスクリプションズ(Target Subscriptions)は2014年、ダラー・シェイヴ・クラブ(Dollar Shave Club)やバーチボックス(Birchbox)といったスタートアップが起こしたデジタルサブスクリプションブームの最中に導入されたもので、仕組みはAmazonの「定期おトク便(Subscribe & Save)」のそれに酷似している。その狙いは、生活必需品を割引価格で提供し、再購入率を高めることにあった。ターゲットはまずベビー用品から始め、そこから家庭用掃除用品や美容用品、ペットフードといったほかの分野へと対象範囲を広げていった。同サービスを利用する顧客は特定の商品の、4週間から最長26週間まで、一定間隔での自動再注文に同意した。ターゲットが発行するクレジットカードを利用すれば、毎回さらに5%の割引を受けられた。
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「サブスクリプションは経常収益源であり、導入は極めて理に適っている」と、米リサーチ会社フォーレスター(Forrester)のプリンシパルアナリスト、サチャリタ・コダーリ氏は言う。したがって、もしもターゲットこれを軌道に乗せられなかったというなら、それはおそらく実施に問題があったからであり、「サブスクリプションという考え自体が根本的に誤りだったからではない」と、氏は続ける。
「サブスクリプションは、Amazonでも、ペットスマート(PetSmart)の子会社チューイー(Chewy)といった他のリテーラーでも大いに成功している。よって、ターゲットの場合だけ『失敗策』だったとは思えない。これはあくまで私の勘だが、ターゲットは十分な資金を投入しなかったのではないか」とコダーリ氏。また、サブスクリプション&割引サービスはおそらく「ROI(費用対効果)を見るには規模が小さすぎる」ため、一旦保留扱いにせざるを得なくなったのだろう、とも氏は分析する。
大当たり、にはならず
ターゲットのサブスクリプション&割引サービスに関する最大の問題は実施方法にあったと、ウォルマート(Walmart)やペットスマートを顧客に持つサブスクリプションソリューションプラットフォーム、オーダーグルーヴ(Ordergroove)のCEOグレッグ・アルヴォ氏も言う。「大半はその問題点に気づいておらず、実店舗でもオンラインでもサブスクリプションを利用できるようなオムニチャンネルを介して提供していない」。
具体的な収益額は公表されていないが、同プログラムは過去の四半期収益報告において存在感を欠いており、その事実が社内における優先順位の低さを物語っている。つまり、先駆者Amazonに倣い、鳴り物入りで導入した経常収益獲得策が、いつしか二の次になった、ということだ。たしかに導入以来、ターゲットは同プログラムの拡大に努め、複数の分野にまたがる数千もの消費財(CPG)製品を対象にしてきた。だが、小売業界専門オンラインメディア、リテイルダイヴ(RetailDive)が2014年に報じたとおり、同社は新規・既存のいずれのeコマース顧客に対しても、さらにはモバイルにおいても、 この新サービスのマーケティングを怠った。
事実、顧客獲得に欠かせないマーケティングの不足は、大問題となることが予想された。アルヴォ氏の指摘によれば、ターゲットのモバイルアプリ/ウェブサイト上で利用できないことが障害のひとつであり、顧客は別ポータルにアクセスし、登録しなければならなかった。これに対し、Amazonの「定期おトク便」ボタンは数千の商品で自動オプションとなっている。さらにAmazonは今年前半、出店事業者がフルフィルメントを行なう(FBM)商品にも、同社が認定したものには同サービスを自動オプションとした。
「作っただけで、客が来るわけではない」とアルヴォ氏。結局、ターゲットのサブスクリプションは消費者の期待に応えるものではなかったということであり、Amazonやボックスド(Boxed)といった日用品オンライン販売プラットフォームと比較すれば、それは明らかだと、氏は指摘する。
競争の激化
さらに、今回の中止には、サブスクリプション業界における競争のさらなる激化という背景もある。たとえば、ウォルマートは今秋、新型コロナ禍によるオンライン需要急増の第2波が始まるなか、Amazonプライム(Prime)の同社版ウォルマートプラス(Walmart+)を導入した。
アルヴォ氏はまた、コロナ禍中、サブスクリプションによる反復注文増を経験したリテーラーが数多い点も指摘する。チューイーも然りであり、同社は第3四半期、前年比プラス47%の売上像を記録した。「ターゲットはサブスクリプションと相性の良い全カテゴリーの商品を扱っているが、それらをひとつのアプリまたはサイトですべて賄えるようにはしなかった」。
ただその一方で、マーケティングリサーチ会社カンター(Kantar)のトリー・グンダラック氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(MODERN RETAIL)に対し、今回のサブスクリプション中止は必ずしも「失敗」を意味するわけではないと語った。ターゲットはすでに非接触およびクリック&コレクトサービスを構築しており、顧客の反応は上々と思われる。そうした優位性を持つにもかかわらず、同社がサブスクリプションサービスを存続させたのは、ひとつには、リピート顧客を簡便さが売りのほかサービスに引き込むためであり、ターゲットはすでにそれを実行しつつあると、氏は指摘する。「昨今、『失敗プログラム』の定義が変わりつつある。導入したすべてが機能して当然という考えは、もはや通用しない」。
氏の指摘する結果は、ターゲットの第3四半期収益に顕著だ。カーブサイドピックアップサービスが実に500%以上の伸びを見せ、インストアピックアップも50%以上増加し、シップトを利用した当日配送サービスも280%近く成長している。
概して、サブスクリプションはかつてのようなリテーラーの「必須機能」ではなくなりつつあると、グンダラック氏は分析する。「買物客に適時補充を促せる高精度の予測分析手段が複数存在する」。
[原文:‘Too small to show ROI’ Why Target canceled its subscribe and save service]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:長田真)