中国と香港の リテーラー は、ロックダウンの繰り返しによる苦境への対応力をますます高めている。「波は行ったり来たりを繰り返している」と、香港を拠点にするフリーのリテールアナリスト、ティファニー・ロン氏はいう。「ただ、何度も波を経験するなかで、我々は少しずつ慣れてきており、これならなんとかやっていけそうだ」。
コロナウィルスはどこにも行きそうにない。しかし中国と香港のリテーラーは、ロックダウンの繰り返しを経験するなか、苦境への対応力をますます高めている。
香港はいま感染第3波に見舞われており、新疆ウイグル自治区をはじめとする中国の諸都市も、感染者数の急増を抑えるべく厳戒態勢が敷かれている。「波は行ったり来たりを繰り返している」と、香港を拠点にするフリーのリテールアナリスト、ティファニー・ロン氏はいう。「ただ、何度も波を経験するなかで、我々は少しずつ慣れてきており、いまではなんとかやっていけそうだと感じている」。
表面的には、中国と香港のリテール業界は多くの側面で以前と変わらないように見えるが、現在はマスク着用の義務化が確実となっている。しかし、状況がどうなるのか誰にも予測できない状況が続くなか、市民のあいだでは、外出と消費活動を望む声が高まっているとロン氏はいう。事実、中国と香港におけるリテール業界の6月の売上は前年比1.8%減だが、5月(2.8%減)と比べると回復を見せている。
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かたや、米国はいまだパンデミックの渦中にあり、いわゆるニューノーマルはおろか、この先どんな日常が待っているのか想像することさえ難しい。だが、中国と香港のリテーラー勢はいずれも、わずか数ヵ月間で店舗営業を再開できる態勢をある程度整え、徐々にではあるが、なんとかコロナ前の日常を取り戻しつつある。彼らは新旧さまざまな工夫を凝らしており、その取り組みは全世界の手本となり得るかもしれない。
消費者に再び支出を促す
パンデミックがいつまで続くのか誰にも答えがわからないなか、消費者は現金を使うことを嫌い、高額商品の購買にはとりわけ消極的になっている。「回復の兆しが見えるまでに、半年か1年はかかるとされている。多くの消費者は先を見越しており、それが現在の購買動向に表れている」と、香港に拠点を置くトーフギア(Tofugear)のリテールアナリスト、テレンス・ン氏はいう。
中国のリテーラー勢は消費を促すため、さまざまな戦略に打って出ている。クーポン券、ディスカウント、そして体験型のサービスや商品はその代表例だ。地方自治体はテンセント(Tencent)やアリババ(Alibaba)といった、大手インターネット企業と積極的に組み、オンラインクーポンの配布など、さまざまな販促活動を実施して顧客の呼び込みを図っているという。前出のロン氏は「自治体は、そうしたeコマースプラットフォーム上での消費活動をてこ入れし、それぞれの備蓄を消費者に回そうとしている。そうすれば、市民はそれ以外のリテーラーや、さらにはほかの業界でも消費してくれることになる」と説明する。たとえば、北京はこうした施策にすでに122億元(約1854億6670万円)を投じている。一方、苦境を耐え忍び、無理をしてでも大幅なディスカウントを提供している所もある。ン氏は、たとえば香港では現在、外食が禁じられているため、多くのレストランはテイクアウトを最大50%引で提供していると述べる。
また、体験型のサービスや商品も、安全策を講じたうえで復活している。香港をはじめ、中国の諸都市の実店舗は顧客を呼び込むために、以前から体験型のサービスや商品に目を向けていた。ハイテクな旗艦店や、インタラクティブゲーミングといった人目を惹くポップアップはその代表例であり、復活の兆しが見られるとロン氏。ただし、体温測定をはじめ公衆衛生上の措置は不可欠となっている。「以前のようにふらりと立ち寄って体験することはできず、訪れる際には前もって予約をしておく必要がある。これは、施設内の人数を制限するためだ」。
また、ソーシャルメディアフレンドリーな手法を用い、世間のムードを巧みに捉えることで、消費者の引き込みを狙うリテーラーもいる。たとえば、香港のいくつかのベーカリーはPPE(個人防護具)を菓子パンやケーキのモチーフに取り入れ、マスクを付けている人をイメージしたものなど、これまでになかった商品を並べていると、ン氏はいう。売上の正確な数字は不明だが、どれも人気を博していると思われ、こうしたパンデミックを逆手に取った菓子類を、スマホで撮る人が後を絶たないという。「いくつかのソーシャルメディアプラットフォームで、間違いなくかなりの話題になっている」。
一方、積極的に商品を売り込むのではなく、ソフトなマーケティング手法に切り替え、困難の最中にある消費者に対し、絆や愛を訴えるリテーラーもいる。「我々は常にあなたと共にいる。ここでのショッピングは絶対に安全だ。というメッセージの発信は、ブランドロイヤルティの観点では、顧客を惹き付けておく非常に優れた手段だ」と、ン氏はいう。カシミアで知られる超大手、オルドスグループなど、いくつかの大企業はヘルスケアに従事する人々の支援やPPEの提供を目的とした巨額の寄付を行なっていると、オルドスのVPフェン・ホア・ソン氏は、米大手コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーに語っている。
柔軟なアプローチ
一方、できることがあれば何でもやり、消費者のニーズに応えようと努めるリテーラーもいる。彼らは専門分野以外の商品の扱いをはじめたり、デリバリーのオプションを増やしたりするなど、柔軟な姿勢を見せている。
専門性が高いと見なされているリテーラーが、いまや次々と商品の幅を広げている。アジアに数千軒の店舗を持つヘルス&ビューティリテーラー、ワトソンズ(Watsons)も然りで、多くのリテーラーと同じく、いまは加工食品を販売していると、ン氏はいう。「このパンデミックに対応するため、グローサリーを扱っているところもあり、米や麺、さらにはチップスまで売っている」。
商品の受け取りやすさにフォーカスし、オンラインサービスの向上に努めるリテーラーもある。たとえば、中国の家電量販店の蘇寧電器(Suning)は、中国全土に広がる1000店舗ものスタッフにオンライン勤務を求めた。WeChat(微信)もオンライン販売ツールとなっている一方、小規模のリテーラー勢は、ストリーミングおよびショート動画を販売に利用している。
また、多くの小規模事業者は独自の宅配網を構築する代わりに、すでに定評のあるサードパーティデリバリープラットフォームと提携していると、ロン氏は指摘する。「オンライン機能を持たない香港のスーパーマーケット」の多くは、フードパンダ(FoodPanda)といったサードパーティロジスティクス企業と手を組んでいるという。「人々は外を出歩かないし、配送が当たり前になっている。リテーラーにしてみれば、ロジスティクス面もカバーするオンライン機能を手に入れる、もっとも手っ取り早い方法といえる」。
一方で、無人リテールも人気を高めている。スターバックス(Starbucks)はピックアップサービスを導入した代表格であり、モバイルオーダーにより接触の最小化と、迅速なトランザクションを実現している。他方、 大手コンサルティング会社カーニー(Kearney)の報告によれば、スマートクーリエキャビネット(商品の受け渡しの場となる一種のロッカー)は、今回のパンデミック中、消費者のあいだで非常に高い人気を博したという。「生鮮食品を扱うeコマースリテーラーのなかでも、無人店舗をいち早く導入した蘇寧小店(Suning Xiaodian)は特に成長が著しく、南京と上海におけるユーザーベースを倍増し、売上も6~8倍増を記録した」という。
コロナ対策モデルの輸出
米リテーラーも、中国と香港勢と同種の手はいくつか打っており、非接触型オプションの導入や商品のバリエーション拡大を実施している。しかし米国では、モバイル決済インフラが確立されていないため、自治体が支援するクーポン戦略や、米国版WeChatの販売プラットフォームとしての利用など、中国と同様の取り組みを再現するのは難しいだろう。また、中国で有効性が証明されているほかの手段、たとえばストリーミング動画の販促利用も同様であり、いまだ米消費者層に広く入り込めてはいない。
とはいえ、中国と香港の現在の奮闘ぶりは、ワクチンが出回るまで感染急増への対応策を学んでいくしかない米国にとって、一種の青写真にはなり得るだろう。ただし、中国で世間が平時に戻るのが1年後だとしても、米国にとってはまだ先の話であり、中国がさらに先に進むための時間を与えることになるだろう。
NATASHA FROST[原文:To see the future of post-coronavirus retail, look to China and Hong Kong]
(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)