D2C 理解のため、VC事業を強化するマース・ペットケア

米食品大手のマース(Mars)はこれまで、ペットケア業界のベンチャー企業へ投資を行ってきた。同社は、この投資分野で業界最大の規模と影響力を誇る企業として、確固たる立ち位置を築きつつある。

同社のペットケアに関連する消費財の売上は、推定で年間180億ドル(約1.9兆円)にも達する。同社の狙いはD2C(Direct to Consumer:ネット直販)で市場により早くペットケアブランドを届け、収益の分配を受け取ることだ。コンサル企業のグランド・ビュー・リサーチ(Grand View Research)は、ペットケア市場規模が2026年には2026億ドル(約22.4兆円)にまで達すると予想している。

マース・ペットケア(Mars Petcare)は昨年3月、「コンパニオン・ファンド(Companion Fund)」を立ち上げ、投資ポットに1億ドル(約106億円)を投じている。そしてこの資金をもとに、これまで20のスタートアップへと投資が行われた。投資対象にはペットの食事の栄養に関する科学分野のスタートアップも含まれているが、より重点を置きつつあるのがD2Cベンチャーだ。

マースのような消費財企業にとって、D2Cブランドは羨むべき特徴をいくつも持っている。たとえば素早い意思決定、無駄の削ぎ落とされた構造、直販によるデータの蓄積などは、D2Cの強みだ。マース・ペットケアはD2Cスタートアップに接近することで、常に変化を続けるD2Cのビジネスモデルについて理解を深められる。いま消費財業界の大手は、店舗へ大量に商品を卸して利益を得るビジネスモデルだけでなく、個人への小口配達による利益確保も目指すようになっており、D2Cへと注目が集まっている。

マース・ペットケアのコネクテッドソリューション部門のプレジデント、レオニード・スダコフ氏は「カスタマーとの距離の近さについて、D2C企業から学べる点は多い」と語る。

スタートアップの選び方

マースには普通のCVC(Corporate Venture Capital)と異なる点がある。同社はコンパニオン・ファンドで「限定パートナー」と名乗っている。これは次のユニコーン企業を探す幹部がVC資金をどう運用するかについて限定的な影響力しか発揮できないようになっているためだ。投資の回収方法はふたつある。ひとつ目がマースの出資したスタートアップの上場による回収。もうひとつが、成長させたスタートアップをマース自身が買収して新サービスを提供することだ。2016年に同社が買収した「犬向けのフィトビット(Fitbits)」を販売するホイッスル(Whistle)もその一例といえる。

コンパニオン基金の個々の投資額は200万ドル(約2.1億円)から500万ドル(約5.4億円)までとなっており、成長の初期段階にあるスタートアップが対象となっている。そして投資と引き換えに、半数未満の株式を取得する。また一部のスタートアップにはマーケティングサポートも行っており、製品開発の専門家や製造リソース、流通計画、科学関連のサービスも提供している。これまでマース・ペットケアのチームはよりすぐりの勝ち組企業だけではなく、フィンテック企業のスクラッチペイ(Scratchpay)をはじめ、できる限り多くのスタートアップを支援の選考対象としてきた。これまで同ファンドはペット業界のスタートアップ1800社を選考したが、実際に投資したのはそのうち1.1%に過ぎない。

「当社がファンドを創設した当時、スタートアップのエコシステムは明らかに発展途上だった。十分なベンチャー資金が流入していなかったのだ」と、スダコフ氏は振り返る。

投資を成功させる秘訣

こうした企業を探すのは容易ではない。VCの分析と紹介を手がけるコリレーション・ベンチャーズ(Correlation Ventures)によると、2004年から2013年にかけてVCから資金調達を行った米国企業は1万社にのぼるが、65%が完全に失敗に終わったという。

マースはスタートアップに目を向け、本当のVCファンドとして機能するように取り組んできた。マースが買収したペット関連技術のスタートアップ、ホイッスルの共同創設者であり投資家でもあるベン・ジェイコブス氏は、スダコフ氏とパートナーのジェニーン・ターフェ氏とケイ・オドネル氏とともにグループで同ファンドを率いている。オドネル氏は動物クリニック企業のバンフィールド・ペット・ホスピタル(Banfield Pet Hospital)や、マース・ペットケアの動物栄養部門に勤めた経験を持つ。

同グループは、マースが過去18カ月かけてかき集めたデータ専門家ら大きなグループからの支援も受けている。「我々にとってのデータの価値を本当の意味で把握するには、Twitterやエージェンシーなど、外部から専門家を大量に集める必要があり、なかなか大変だった」と、スダコフ氏は振り返る。過去9カ月で、マース・ペットケアはデータとアナリティクス、そしてデータエンゲージメントの責任者を雇った。また、ほかにも国際ソリューションチームの上級職をマークル(Merkle)をはじめとするデータ専門企業からヘッドハントで獲得している。

「コンパニオン・ファンド」のパートナーは、VC企業のデジタリス・ベンチャーズ(Digitalis Ventures)からも支援を受けている。同社は人と動物の健康を専門とするVCで、同ファンドの日常的な管理を行う。潜在的な投資チャンスはキンシップ・パートナーズ(Kinship Partners)からももたらされる。同社は今年はじめにマース・ペットケアが立ち上げたアクセラレーターだ。

信頼性が高く、低リスクな

「新しいことをはじめるにあたって、成長を生み出すためのロジックというものがある。だが経験上、すでに企業として確立して長い場合はそれを実行するのが非常に難しいことがある」と語るのが、イノベーションコンサル企業のフィアレスリー・フランクで戦略ディレクターを務めるブラケット・ディッチバーン氏だ。「いずれにせよ、うまく運用されているVCファンドは少なくとも従来の株式投資以上のリターンをあげられるはずだ。マースも、10年20年かけてやがて投資を回収できるだろう」。

VCはトレンドとして新しくないと考えるブランドも多いが、その成功例は決して少なくない。成功し、大きく成長したブランドへ行っていた投資は信頼性が高く、しかも低リスクのリターンを生み出す。投資家からすれば、資金がVC的な使われ方をするのはあまり安心できないのかもしれない。だが、安定した企業が目覚ましい成長をとげるとも限らないのだ。

Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)