ここ最近、広告業界がピリピリしている話題といえば、データだ。ビデオゲームパブリッシャーのアクティビジョン(Activision)のマーケターたちも、データ共有の仕方に慎重なアプローチを取っている。彼らはいま、さまざまな広告主とメディア間でデータをやり取りするための場、データクリーンルームを築こうとしている。
ここ最近、広告業界がピリピリしている話題といえば、データだ。ビデオゲームパブリッシャーのアクティビジョン(Activision)のマーケターたちも、データ共有の仕方に慎重なアプローチを取っている。彼らはいま、さまざまな広告主とメディア間でデータをやり取りするための場、データクリーンルームを築こうとしている。
同社でグローバルマーケティング分析、およびオーディエンス開発部門の責任者を務めていた(5月に退任)ティム・クック氏(※AppleCEOと同名だが異なる人物)はこう語る。「企業はこれまでも、データを処理し活用してきたが、プライバシー保護重視の潮流により、既存の方法を継続することは困難になってきている」。
「データクリーンルーム」とは、アクティビジョンのような広告主が、自社のデータ(メールやデバイスID)をメディアとシェアするための、いわば「保管場所」である。ファーストパーティデータがこのクリーンルームに入ると、それをもとにインサイトを集約し、活用することができる。
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データクリーンルームの利点
Googleが2017年にその立ち上げを行なったように、データクリーンルームは以前から存在しているが、その関心はかつてないほど高まっている。その背景にはあるのは、プライバシー保護重視の潮流だ。いうまでもなく、データの共有が容易になればなるほど、そして今後、サードパーティCookieに代わる選択肢が増えれば増えるほど、取引の整合性を確保するのが難しくなる。データクリーンルームは、このリスクを最小化する。アクティビジョンのような広告主が強い関心を示しているのはそのためだ。
では、データクリーンルームはなぜリスクを最小化できるのか。それは、実際にはデータを「移動させている」わけではないからだ。
前提として、アクティビジョンのデータとメディアのデータは、別々のクラウドに保管される。そのうえで全域でアルゴリズム(クエリ)を実行するため、データが実際に混合することはなく、漏洩のリスクにさらされることはないというわけだ。なお、これらのクエリは、ターゲティングや測定、インサイト抽出といったさまざまな目的に合わせてカスタマイズすることができる。アクティビジョンはデータ管理会社のハブ(Habu)と提携して、特にインサイト抽出にフォーカスしているようだ。
というのも、自社のデータと媒体側のデータを組み合わせることで、ゲームをプレイした人が、オンライン上でどのような体験をしているかをより深く理解できるからだ。こうしたインサイトは、クリーンルームによってしか得られないものだ。そして最終的には、それらインサイトは環境にフィードバックされ、マーケターにとって価値のある好循環を生み出す。
たとえば、アクティビジョンとメディアのデータから得られた傾向スコアは、プライバシーやガバナンスに配慮しながら広告配信を最適化することができる。このようなサイクルを実現するのがアクティビジョンの狙いだ。
だが、過度な期待は時期尚早
しかしいまのところ、このシナリオの大部分は仮説に基づいている。
現時点では、実際にこうしたメリットを得られているわけではなく、過度な期待は時期尚早だとクック氏は述べる。しかしこうしたプランが実現するのは時間の問題だと、同氏は確信している。クック氏にとってデータクリーンルームは、今後、データをめぐる商業的信頼を築くのに不可欠な存在なのだ。というのも広告主もパブリッシャーも、互いのオーディエンスに関するデータを相手に開示することに抵抗を感じているからだ。
「このようにインサイトを活用することで、アクティビジョンのプレイヤーに対し、よりパーソナライズされたクリエイティブを届けたり、正確な意思決定が下せる」と、クック氏は語る。「まずは、ユーザーのプロフィールをさらに充実させるような施策を打つ。そのあとは、プロフィール情報やユーザーの行動データによって、クリエイティブやアプローチ方法をカスタマイズする。インサイトがあれば、難しいことではない」。
アクティビジョンにとって最適解
アクティビジョンにとって、インサイトにフォーカスすることは、彼らの狙いを実現するための最適解だったのだ。
「インサイトが手に入れば、それに基づくターゲティングを行える」。プロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)でデータプラクティス部門を率いるジェイ・ストッキ氏もこう語る。「そのためにはテストを重ね、何が効果的なのかを理解しなければならない。その際には、基本的なアトリビューションモデルやROAS測定が用いられる」。
アクティビジョンが目指すべき次のレベルは、詳細なアトリビューションモデルをつくり、テストを重ねることだ。たとえば、ロイヤルティプログラムのセールス向上にどれだけ寄与するか、といったテストが考えられる。
Googleとの連携も
市場には現在、データクリーンルームのソリューションが溢れている。なかには、相互運用性のないウォールドガーデンが所有するものもあれば、データを移動させることなく、さまざまなパートナーと安全に共同作業ができるオープンなソリューションもある。クック氏によると、アクティビジョンは今後、混合型のアプローチを取る必要があると考えており、すでにGoogleのAds Data Hubと連携を行なっている。
「今回、我々がHubと提携したのは、Hubのソリューションなら、大手プロバイダーに特有の動きの遅さに気をもむことなく、目標を達成できると思ったからだ」とクック氏。「アクティビジョンは、データクリーンルームに対しては、特定のソリューションに依存しないアプローチを取っている。最近ではAds Data Hubに協力を仰いで、その機能性を探っている」。
[原文:To find new privacy-compliant data sets, Activision turns to data clean rooms]
SEB JOSEPH(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU