最高マーケティング責任者(Chief Marketing Officer)のほかに、もうひとつの「CMO」が欧米のブランド各社で重要視されつつある。すなわち、最高メディア責任者(Chief Media Officer)だ。台頭の背景には、どんな事情があるのか。
最高マーケティング責任者(Chief Marketing Officer)のほかに、もうひとつの「CMO」が欧米のブランド各社で重要視されつつある。すなわち、最高メディア責任者(Chief Media Officer)だ。
LinkedInでは、英語のプロフィールにて最高メディア責任者か同様の肩書を名乗るユーザーの数が、わずか1年間のあいだに150%近く増え、257人となった。テスコ(Tesco)、Airbnb(エアビーアンドビー)、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、これと実質的に同じ役職を、直近12カ月以内に新たに設けた。
これには理由がある。広告主はこれまで、オンラインメディアに多くのリソースを費やしてきたが、ビジネスにとって有効であるかどうかを十分に顧みていなかった。いま、そのことを自覚しはじめ、対策を講じようとしているのだ。かつては実務的な役職と見なされていたものが、いまではメディアの透明性が叫ばれる時代のキープレイヤーと考えられるようになった。最高メディア責任者の仕事は、もはや世界規模でのメディア対応の主導にとどまらない。ほかにも、アドテクスタックの構築、パブリッシャーとの直接の関係づくり、第三者による広告効果測定のための働きかけなどをこなす必要がある。通常はエージェンシーのベテランが広告主の広報担当者に比べて自信を抱いているようなスキルを、使えなければならないのだ。
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失われたノウハウを求めて
ブランド各社がそうした役職を設けはじめた一方で、自ら手を挙げるエージェンシー出身者も増えている。人材コンサルタント企業のライトハウスカンパニー(Lighthouse Company)およびアルティメットアセット(Ultimate Asset)はいずれも、最近になって、エージェンシーのベテランからクライアント側のメディアディレクター職の情報を求められるようになったという。スマートな幹部は、実践的なプランニングの専門知識をクライアント側の担当者がどれほど重宝しているかを知っており、同じ企業のなかで働きたがっていると、複数の人材コンサルタントが語った。
「エージェンシー出身者のなかに、クライアント側の動きを探りながら働きかけている人が増えている」と語ったのは、メディア分析を手がける企業エビクイティ(Ebiquity)の最高戦略責任者、ニック・マニング氏だ。「従来とは異なるタイプの役職であり、おそらくより大きな責任を担うことになる。最高メディア責任者は、いまやメディア対応の主導や調整以上の仕事を求められる」。
多くのブランドは、最高メディア責任者が備えておくべきノウハウを、社内に蓄積していない。デジタルに資金を投じるにあたり、従来受け継がれていた広告、ダイレクトマーケティング、戦略、クリエイティブ、メディアの各リソースを切り捨てたからだ。結果として、ブランドが直面する総体的問題に取り組んできた幹部が、社内にほとんど残っていない。世界広告主連盟(WFA)のメディアおよびデジタルマーケティング部門グローバルリード、マット・グリーン氏は、現況をこう説明した。「現職のグローバルメディアディレクターの大半はそれぞれキャリア終盤に差し掛かっており、その後継者たちはデジタルの世界にどっぷりと浸かっている。ちょうどエージェンシーの世界で、先日ハバス(Havas)英国およびアイルランド法人の最古参であったポール・フランプトン氏がCEOを辞任したように、広告主の世界でも、古株にとってまったく新しい状況が到来している」。
1年間で認識が変化
ドイツの大手旅行代理店TUIなど一部の広告主は、最高メディア責任者を置けばデジタル関連の問題に対処できるのかどうか、いまだに測りかねている。同社英国法人のマーケティングディレクター、ジェレミー・エリス氏は、同社はデータやプログラマティック広告などの分野におけるスペシャリストをすでに擁していることから、この役職が必要であるとの判断をまだ下していないと語った。だがTUIのようなブランドが最高メディア責任者の雇用を検討したという事実そのものが、ここ1年でこの役職への認識が変わったことを表している。
昨春の時点では、最高メディア責任者を名乗る人はかなり少なかった。その後、全米広告主協会(ANA)が昨夏、エージェンシーやデジタルパートナーのあいだで今後発生しうる利益相反に対処するために、この役職をもうけるように広告主に強く勧めた。それは従来最高マーケティング責任者の任務であったが、そうした人の大半はすでにほかの仕事で忙殺されていたか、必要な専門知識を持っていなかった。
状況が変わりはじめたのは、ここ1年ほど。このあいだにマーケターらは、ビジネスの成果につながらないものをすべて切り捨てる必要があることを認識したのだと、英国広告主協会(ISBA)の会長フィル・スミス氏は語った。
その実現は、ラストミニッツ(Lastminute.com)のような広告主にとっては容易だったかもしれない。同社の最高メディア責任者アレッサンドラ・ディ・ロレンツォ氏は、もともとはeコマースブランドであった同社で、パブリッシング事業を効率的に運営している。このような企業は数少ない。ラストミニッツのようにパブリッシングを開始した組織にとって、メディア責任者の役割は、ビジネスのバイサイドとセルサイドを橋渡しすることかもしれないと同氏は述べた。「最高メディア責任者はさらに、社内のマーケティング部門にとっても有益なアドバイザーとなりうる。複雑なエージェンシー業界の道案内となり、エージェンシーパートナーとの協力から広告主に最高の価値をもたらす方法を教えることができる」。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)