限定スニーカーは、パンデミック後、本格的にオンライン販売へ移行した。各社オンラインでの売り上げを伸ばしているが、次なる課題も。自動プログラムを使って即時に購入するボットの問題や、サブスクサービスも増えており、この業界はいま再調整の時期にきている。
パンデミック以前は、話題のスニーカーが発売されるときは、おなじみの流れがあった。人々はスニーカーが発売された瞬間に購入しようと、ときには何時間も前から長い列を作って並んでいた。2015年にローンチしたナイキ(Nike)のSNKRSアプリのようなプラットフォームでの抽選方式やオンライン発売といったイノベーションは、そうした過去の流れを適度に変化させたとはいえ、しかし依然として対面式での販売が一般的だった。
こうした対面式の販売は、例にもれず、パンデミックによって大きく破壊された。オンラインでのドロップ(販売)はスニーカーを入手するサブ的な手段だったのが、2020年には唯一の方法となった。ここ1年でオンラインでの抽選や代替手段でスニーカーを入手する流れが推進され、長い列に並んで対面で購入する必要性は減少した。たとえば、新商品のスニーカーをすぐに入手できるレンタルやサブスクリプションのサービスの台頭も加速している。
スニーカー業界の関係者が米Glossyに語ったところによると、ほとんどのドロップはこうした新しいオンラインの手法を継続すると思われるが、それは店頭販売がなくなるということではない。発売当日に店に並ぶ方式も健在ではあるが、それほど重要ではなくなっている。
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「昔ながらの慣れた方法に固執する人たちもある程度はいると思うが、我々は完全にデジタルな世界に向かっている」と話すのは、スニーカーデザイナーのジェフ・ステイプル氏だ。
パンデミックで本格的にオンライン販売へ移行
スニーカーのベテランで、現在は小売店スニーカーズエンスタッフ(Sneakersnstuff)で米国内のブランドリレーションを担当しているウィル・ホイットニー氏によると、パンデミックの初期には、ナイキなどのブランドは事態が正常化して店舗で発売できることを期待して、発売を遅らせていたという。それが無理だと判明し、2020年の夏にはオンライン販売への移行が本格化した。
ナイキは、2020年夏の終わりまでにデジタルでの販売が売上の50%を急速に超えている。オンラインの売上が卸売事業よりも高かった。CEOジョン・ドナホー氏は、9月に行われたブランドの第1四半期の決算説明会でデジタルは「このまま継続する」と述べ、オンラインの売上が第1四半期だけで80%以上も急増したことを明らかにした。
ほかのスニーカーメーカーもナイキに続く。たとえばフットロッカー(Foot Locker)は、昨年、デジタル販売の成長率が実店舗でのそれを上回ったことを受け、ヨーロッパの4つの市場で新しいeコマースサイトをローンチした。
その一方で、実店舗でのスニーカーの売上は減少している。統計調査データベースのスタティスタ(Statista)によると、2019年12月の実店舗におけるスニーカーの売上は43億ドル(約4746億円)に達していたが、2020年12月には34億ドル(約3752億円)に落ち込んでいる。
スニーカーズエンスタッフは米国とヨーロッパに5つの店舗を持っているが、ビジネスの75%以上がオンラインだとホイットニー氏は言う。スニーカーズエンスタッフでは、人気スニーカーの発売のためのオンライン抽選システムをすでに導入していたので、完全にオンライン販売に切り替えるのもスムースだったという。「パンデミック前にオンラインで行ったすべての動きは、今回のよい準備となった。抽選に関してもすでに用意できてたし、eコマースのすべてが準備万端だった。非常に簡単に移行できた」とホイットニー氏。
オンライン販売の問題はボット対策
オンラインでのスニーカー販売の欠点は、例のごとく、限定商品がウェブサイトに表示された瞬間に自動プログラムを使って購入するボットが常に存在していることだ。
Reddit(レディット)のスニーカーのサブレディットのような掲示板に、一般顧客がクリックする前にボットがスニーカーを購入してしまうという苦情が多く書き込まれるのも日常茶飯事だ。
フットロッカーやナイキのSNKRSアプリで採用されている抽選方式は、こうした問題の一部を軽減しているが、完全ではない。リセール業者がSNKRSアプリのアカウントを不正に大量購入し、抽選で当選確率を大幅に上げることも可能なのだ。暗号通貨の認証方式と同じように、エネルギーを大量に消費するプルーフ・オブ・ワークの計算をすべての顧客のコンピュータに要求するなどより高度な技術を使えば、ボット行為では採算が取れなくなり、その結果そうした行為を抑止できるだろう。しかしそのプロセスは環境への影響もあり、大手小売企業ではまだ採用されていない。
台頭するサブスクリプションサービス
さらに、レンタルやサブスクリプションモデルによって、スニーカーがより手に入りやすくなるという新しいプラットフォームも生まれている。そのひとつキックス・ワールド(Kyx World)は最近ローンチされたプラットフォームで、発売されたばかりの新しいスニーカーをサブスクリプションボックスに入れ、ユーザーの自宅まで配達してくれる。価格は月額49ドル(約5400円)で1足、月額129ドル(約1万4000円)で2足、249ドル(約2万7000円)で3足、399ドル(約4万4000円)で4足となっている。会員は気に入らなければ返品できるし、気に入ったものはキープもできる。
キックス・ワールドCEOブライアン・ムポ氏いわく、同社は大手リセール業者から仕入れているから、顧客が話題のスニーカーを発売後1~2日のうちに手間をかけずに入手できるよう手配可能だという。リセール業者は、発売日やその直後にスニーカーを手に入れている。
「話題になったスニーカーの独占性と価格は制御不能になっている」とムポ氏は言う。「量にくらべて需要があまりに大きくなりすぎて、ボットのようなものによって(一足を)手に入れるのがかなりむずかしくなっている。そのため、高すぎる価格を設定しているリセラーに行かなくてはならない。この業界は再調整の時期に来ていて、ありがたいことに、いまそれが起きているのだ」。
[原文:‘Time for a recalibration’: Online sneaker drops are the way of the future]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida、編集:山岸祐加子)