TikTokの親会社であるバイトダンス(Bytedance)は9月21日、新会社TikTokグローバルについての発表を行った。そのTikTokグローバルの設立が近づいてくるしたがって、広告主が抱く大きな懸念がいくつか明らかになってきている。
米国における、TikTokのスピンオフを巡る物語は、依然として目まぐるしい展開を見せている。この記事の執筆時点では、ドナルド・トランプ大統領が8月にTikTokに対し出した執行命令の要件は(少なくとも表面上は)満たされていない。しかしトランプ大統領はいまのところ、現段階での提案を「祝福」している。
TikTokの親会社であるバイトダンス(Bytedance)は9月21日、新会社の「TikTokグローバル」について、同社は最初、バイトダンスの100%子会社として設立されると発表。設立後、TikTokグローバルはPre-IPOラウンドでの資金調達を予定しており、その後、バイトダンスが80%の株式を保有する子会社になるという。新規出資者のオラクル(Oracle)とウォルマート(Walmart)は、残りの株式20%を取得する見込みだ(それぞれの保有率は12.5%と7.5%)。こうした動きは、米国がTikTokに要求する、過半数所有の条件を満たすものとして位置づけられていると、多くのメディアが報じている。というのも、すでにバイトダンスは米国の投資家を複数獲得しており、これにより米国が所有する株式の総保有率は、結果的に約53%になるといわれているからだ(とはいえ、トランプ大統領は9月21日のフォックスニュースのインタビューで、TikTokが米国の完全な支配下に入らないかぎり、トランプ政権がこの取引を、完全に承認することはないと述べている)。
「クラウドとテクノロジーの、信頼できるプロバイダー」として、オラクルには、TikTokの米国におけるソフトウェアのソースコードを検査する許可が与えられている。しかしながら、バイトダンスは、9月21日に声明を発表し、現在のプランにはTikTokの要ともいえるコンテンツレコメンデーションアルゴリズムをはじめとする、さまざまな技術を米中間で移転することは盛り込まれていないとしている。また、いまのところTikTokは、中国の所有権から完全に切り離されているわけではない。それを考えると、現在のタームシート(条件規定書)に書かれている方向性が、果たして米国が抱く、国家安全上の潜在的懸念を晴らすものなのかは定かではない。さらに、この取引の成立には、中国当局の承認も必要になるという。
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わからないことだらけだが、TikTokグローバルの設立が近づくにつれ、広告主が抱く懸念がいくつか明らかになってきている。
ノイジーなIPO
一進一退の攻防はまだ終わらない。この取引の細部を巡る米国と中国との駆け引きが、今後さらにタームシート上で展開されるだろう。政治の駒として使われてたTikTokが、IPOが近づいてきているいま(予定では「12カ月以内」)、米国対中国のゲームに再び巻き込まれる可能性は十分にある。
また、同社のIPOが過大評価される可能性も懸念されている。インフォメーション(The Information)が先日報じたところによれば、オラクルとウォルマートは、TikTokグローバルの企業価値を500億~600億ドル(約5.2兆~6.3兆円)に評価しているという。600億ドルという企業価値は、スナップ(Snap)のそれ(350億ドル[約3.6兆円])の2倍近い額であるが、売上は大きく下回っていると、グループエム(GroupM)でビジネスインテリジェンス部門のグローバルプレジデントを務める、ブライアン・ワイザー氏は指摘する。
過大評価されたIPOは、その莫大な評価額に応じた富の期待を、従業員たちに抱かせる。しかし市場にデビューするや、まもなく株価は暴落する。このことを誰よりも知っているのは、スナップ草創期の社員たちだろう。また、ワイザー氏にいわせれば、広告主にとってTikTokのIPO(とりわけ、過大評価された場合のそれ)は、広告主のさまざまな懸念を払拭するための、「最低限の要素」にしかならないという。
「生まれるのは、社員が不満を募らせるかもしれないというリスクだ」と、同氏は語る。
ウォルマートの目論見とは? 同社のライバルたちは認めるのか?
ウォルマートは9月19日付けの声明のなかで、この取引が同社に「リーチの拡大や、オムニチャネルの顧客に対するサービスの提供、サードパーティマーケットプレイスや、フルフィルメント、広告などの各種事業の成長を実現するための重要な手段をもたらしてくれることを期待している」と述べている。
すでにウォルマートには、広告部門のウォルマート・メディア・グループ(Walmart Media Group)がある。同部門は、Amazonとの直接対決を繰り広げているが、ウォルマートの実店舗の売り上げデータを活用することによって、差別化を図っている。TikTokの力を借りることができれば、ウォルマートはソーシャルコマースの足掛かりを得られる可能性がある。特に、ウォルマートの平均的な買い物客よりも、若いユーザーたちにリーチできるようになるかもしれない。
「eコマースのアセットと小売データを組み合わせた、クローズド・ループ・メジャメント(closed loop measurement:オンライン、オフラインを跨いだ測定)を提供できるウォルマートは、CPGブランドから歓迎されるだろう」と、広告エージェンシーのUMでデジタル/グローバルブランドセーフティ部門の最高責任者を務める、ジョシュア・ロウコック氏は語る。
だが、ウォルマートの小売業界のライバルたちは、同社がTikTokの内部を間近で見れることをどう思っているのだろうか?
ウォルマートのチーフエグゼクティブであるダグラス・マクミロン氏は、TikTokグローバルの取締役5人のなかの1人になる見込みだ。そうなれば、収益源が取締役会の議題に上ることは間違いない。小売業界のほかのトップ企業各社が、Amazonへの出稿に対して抱くのと同種の不信感が、TikTokに対しても次第に明らかになってくるかもしれない。
「TikTokは、ウォルマートのライバルを、彼らの支出やキャンペーンに関するデータがウォルマートの手に渡ることはないと、安心させなければならなくなる」と、ロウコック氏は語る。
「クラウドとテクノロジーの、信頼できるプロバイダー」としてのオラクルの立ち位置は、今後どうなっていくのか?
見たところ、オラクルは同社にとって最大のライバルであるGoogleやAmazonと争わずして、金になるクラウドカスタマーを獲得したように思える。
「我々は、米国内のTikTokユーザーのデータプライバシーと、安全性をかつてないレベルで保証すべく、自社の安全なクラウド技術を、継続的なコードレビューとモニタリング、監査と統合していく」と、オラクルは先日発表した声明のなかで述べている。
ある広告主が、自社のクラウドホスティングプロバイダーがどの企業であるかを根拠に、メディアパートナーを選んでいたのは、いつのことだったか。しかし、もしオラクルがTikTokと自社のデータクラウド事業を、うまくリンクできる方法をさらに見つけることができれば、広告主はもっと関心を持つようになるかもしれない。
とはいえ、オラクルからの発表がすぐにも行われることはないだろう。この一連の騒動の中心には、ユーザーデータの保護という名目がある以上、それはなおさらだ。米国の、データセキュリティ分野における救世主としての地位を手に入れているオラクルが、早期の段階で事態に混乱を招いたところで、おそらく何も得られはしないだろう。
しかし、この先のロードマップ上に、オラクルがTikTokと自社のデータクラウド事業をリンクさせ、何かしらの取り組みを行う可能性はある。
「オラクルは、アドテク業界への投資の価値を確保できていない。同社はビッグデータ・プラットフォームのブルーカイ(BlueKai)や、データマネジメントソリューションを展開するデータロジックス(DataLogix)の事業を買収したが、現状、自社のマーケティング事業とデータクラウド事業の実際のスケールを確立する方法を見つけ出せていない」と、アドバンスドTV企業のシミュールメディア(Simulmedia)のCEO、デイブ・モーガン氏は語る(事実、ヨーロッパでは、オラクルはサードパーティデータターゲティング製品の提供を縮小している。これに関する最新情報については、アドウィーク[Adweek]が先日報じている)。
それでも、(オラクルが買収した)プラットフォームとクラウドのプロバイダー各社は、アップセルの機会を常に求めている。
「TikTokと強いパートナーシップを結ぶことで、オラクルはTikTokの広告主に対し、これまで築いてきたアセットを、独自のデータや広告ターゲティング/測定/アトリビューションのスタックに変え、それらを提供してマネタイズできるようになるかもしれない」と、モーガン氏は語る。
我々は「スプリンターネット」に向かって突き進んでいるのか?
「オープンインターネット」の実現には、やはりさまざまな障壁があるようだ。現状、ユーザーがどの国にいるのかによって、オンライン体験は大きく異なる。たとえば、GoogleやFacebookなど、米国で人気のWebサイトやアプリの多くが、中国では禁止されている。一方トランプ政権も、テンセント(Tencent)の人気アプリ、WeChat(微信)を米国から追放しようとしている。
スタートアップスタジオ、エクスパ(Expa)のベンチャーパートナーであり、Webトラッキング企業アッドディス(AddThis:オラクルが2016年に買収)の共同創業者であるフーマン・ラドファー氏は、中国テックビジネスに対して米国が主張する、「相互主義の精神」それ自体は、正統性があると主張する。
「政府という権力の脅威を感じることなく、人々がプライベートで自由にコミュニケーションを取れる場。それこそがこの世界には必要だと考えている」と、ラドファー氏は語る。「また、それこそがプロダクトをデザインするときの最終目標だ。しかし目標の達成には、(各国のあいだに存在する文化や政治、慣習などの)差異を解消するための困難が伴う」。
一部の専門家は、インターネットのバルカン化(テクノロジー、コマース、政治、ナショナリズム、宗教、関心などの諸要因によるインターネットの分化と分裂を意味する。スプリンターネットともいわれる)に対する警告を発している。国毎の法律や禁令からなる、世界規模のインターネットの分裂が実現すれば、多国籍企業がオンライン広告を購入する手順は、さらに複雑化するだろう。
「もしそうなれば、広告主は規制や取引のリスクを最小限に抑えるため、中立国からメディアを計画的に購入できるエージェンシーとの協働を考える必要がある」と、ロウコック氏は語る。「そのとき、広告主とエージェンシーは、ローカル市場のデジタルパブリッシャーが持つ技術力をうまく支援し、育てなければならなくなるだろう」。
[原文:TikTok’s unusual spinoff: 4 outstanding advertiser concerns]
LARA O’REILLY(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)