ライアン・マルヴァニー氏は少なくとも1日に1度、Amazonで発掘した「今日のおすすめ商品」を紹介する動画をTikTokに投稿している。TikTokを利用した、Amazonマーケティングのエコシステムが拡大するなか、マルヴァニー氏はこの分野で独自の地位を確立しつつある。
ライアン・マルヴァニー氏は少なくとも1日に1度、Amazonで発掘した「今日のおすすめ商品」を紹介する動画を、TikTokに投稿している。 @Amazonoholicというユーザーネームで知られる、同氏のTikTokページをにぎわせているのは、毛玉取り器、2万本極細毛歯ブラシ、ピーナツバター・ミキサーといった商品のデモ動画だ。
商品の大半は、マルヴァニー氏がAmazonで見つけ、個人として掲載しているものだが、クイバー(Quiverr)の社員でもある。同社は自社商品の販売のほか、Amazonブランドのマネジメント会社として、出品者向けのサポートサービスを行っている。TikTokアカウントのフォロワー数の増加に伴い、マルヴァニー氏はAmazonで自ら探した商品に加え、クイバーの自社ブランド品を紹介する動画も投稿しはじめた。おすすめのなかでも特に人気が高いのがザ・リンガー(The Ringer)という、チェーンメールスクラバー(フライパン用汚れ落としで、ステンレススチールを鎖帷子のような形状にしたもの)だ。これはクイバーのAmazonオリジナル商品で、女優のジェニファー・ガーナーも大いに興味を惹かれたという。そんな経緯もあって、「インフルエンサーとして認められるようになれば、商品の宣伝で会社に貢献できると考えた」と、マルヴァニー氏は、米DIGIDAY姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)の取材に応えて語っている。
TikTokを利用した、Amazonマーケティングのエコシステムが拡大するなか、マルヴァニー氏はこの分野で独自の地位を確立しつつある。TikTokのライブストリーミングは、月並みな商品をベストセラーに変身させる効果で知られる。たとえば、イチゴ柄のドレスやクランベリージュースなどがそうだ。とはいえ、口コミで拡散されて人気が出た商品のすべてが偶然の産物というわけではない。TikTokで情報発信するTikTokerたちは、Amazonでたまたま見つけたお買い得品や、ニッチ商品を紹介する動画を制作・投稿し、TikTok上のネットワークのゆるいつながりを通じて、何百万回という視聴回数を達成している。動画には、#AmazonFinds、#FoundItOnAmazon、#AmazonMustHavesといったハッシュタグをつけて投稿するのが常だが、マルヴァニー氏のように、既存のブランド企業に所属するTikTokerはいまのところ極めて稀だ。
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現在、約32万人のフォロワーを抱えるマルヴァニー氏は、はからずもTikTokにおけるクイバーの「顔」となった。これによりクイバーは、自社ブランド品の有力な販路を確保した。マルヴァニー氏から見れば、給与に加えてアフィリエイトリンクの報酬が見込める。クイバーとしては、ほかの事業者が運営するサイトに働きかけ、自社ブランド品の特集を組んでもらうことも、インスタグラムのインフルエンサーに有償で情報発信を依頼することも可能だ。しかし、すでにTikTokで定評のあるマルヴァニー氏に宣伝させる方が、より合理的だろう。今後は、マルヴァニー氏のTikTokアカウントの成功事例にならい、#AmazonFindsのハッシュタグ付き動画で販売促進する手法が、Amazonのサードセラーのあいだで広まるかもしれない。
発見を共有する
Amazonはeコマース最大手だが、新商品を探すには、「サイトがごちゃごちゃしすぎてわかりづらい」といわれることもある。最近、そこから余計な情報をそぎ落とし、選りすぐりの商品を紹介するサービスで人気を集めているのがTikTokerたちだ。投稿動画の大半は、一見風変りな未来的な商品を扱っており、最近のヒットとしてはレーザー投影式キーボード、シリアルディスペンサー、スポンジ置き兼ソープディスペンサーなどがある。TikTokerたちは、#AmazonFindsのハッシュタグ付き動画にナレーションを入れ、おすすめ商品の機能を説明する。なお、彼らの収入源はAmazonアフィリエイトによる成果報酬だ。
「TikTokerのなかには、すでにアフィリエイトリンクを活用して莫大な収入を得ている者もいる」。こう語るのは、インフルエンサーマーケティング・プラットフォームを有するステータスフィア(Statusphere)の経営者で、TikTokの#AmazonFindsセクションを担当するクリステン・ワイリー氏だ。Amazonのアフィリエイト・マーケティング・プログラムでは、おすすめ商品がサイト訪問者により購入された場合、売上高の1%から10%の報酬が販売者に支払われる。実際ワイリー氏自身も、TikTokの情報を参考にネットショッピングをする機会が最近増えてきたという。消費者のこうした行動から、#TikTokMadeMeBuyIt(TikTokに買わされたもの)というハッシュタグが生まれ、広がりつつある。
TikTokはある意味、ニューヨーク・タイムズ(New York Times)が運営するワイヤーカッター(Wirecutter)のような、アフィリエイトプログラムに力を入れるレコメンデーションサイトの後継者といえる。そういったサイトでは、メディア企業各社が、使い勝手の良いニッチ商品を推奨して、収益化を図っている。しかしTikTokerの場合、大抵はパブリッシャーの後ろ盾なしに、自力でレコメンデーションビジネスを発展させているようだ。
ワイリー氏の推測では、#AmazonFindsで稼ぐTikTokerが紹介する商品の多くは、いまのところオーガニック投稿がほとんどで、スポンサードポストは少ない。「TikTokerたちがおすすめ商品で集客に成功し、驚異的な収益を上げているのは、消費者の共感を呼んでいるからだ」と同氏は指摘。たとえるなら彼らは、テレビショッピング専門チャンネルのQVCに登場するナビゲーターの進化形であり、消費者を楽しませながら商品を売り込む術に長けているのだという。
変化するTikTokのエコシステム
しかし一方で、企業がTikTokの#AmazonFindsアカウントに、自社ブランドの商品動画を投稿する例も増えており、そうなると魅力が薄れる可能性も考えられる。米DIGIDAYの姉妹サイトのグロッシー(Glossy)掲載の記事によると、Amazonに出品中の事業者のなかには、すでに韓国コスメのミミボックス(Memebox)のように、集客効果を狙って#AmazonFindsのハッシュタグのアイデアに飛びついたブランドもあるという。ただし、これらは企業が制作した動画にハッシュタグを付けているだけだ。人気TikTokerが発信する#AmazonFindsの有料プロダクトプレースメントは、まだあまり例がない。
ともあれ、マルヴァニー氏のTikTokアカウントには将来性がありそうだ。eコマースの新境地を切り開く可能性もある。ブランドのなかには、社外の人材にスポンサード投稿を依頼して報酬を支払う代わりに、社員がTikTokのパーソナリティとして活躍することを、奨励する企業も出てきた。そうすれば、#AmazonFindsとタグ付けされたおすすめ商品の動画に、わざとらしさを感じさせずに自社ブランド品を登場させられるからだ。
クイバーの親会社であるアドバンテージ・デジタル・コマース(Advantage Digital Commerce、以下アドバンテージ)で、eコマースサービス部門長を務めるロブ・パウエル氏によれば、同社は今後、TikTokのパーソナリティ候補となる人材の採用を増やす意向で、子会社1社につき「有能な社員2、3名を候補に挙げている」という。その社員たちにパウエル氏は「ソーシャルメディアを通じて知られる存在になるには、どこから始めればいいか?」と問いかけた。彼らはインフルエンサーをめざし、ゆくゆくはアドバンテージの自社ブランド品や、同社の再販売事業者が扱う商品のプロモーションを手がけることになる。ウォルマート(Walmart)などの小売大手も、社員をTikTok上で活動するセールスマンに育てる取り組みに着手している。
こうした実験的な試みが進められるなか、マルヴァニー氏は自分が良いと信じる商品だけを取り上げて投稿し続けている。自身の意見を反映した動画で情報発信してこそ、本物のインフルエンサーといえるからだ。「インフルエンサーのアカウントが、商品の売り込み目当てに見えるようでは駄目だ」と、同氏は主張する。
小売業界は、ブランド販促の新たな手法を発見したかに見える。今後、#AmazonFindsのニッチな世界が広がるにつれ、TikTokのネットワークに属する人々が原動力となり、大ヒット商品が生まれる傾向は強くなっていくだろう。社員を、マルヴァニー氏のようなTikTok上のショッピングナビゲーターに育てることで、ソーシャルメディアの口コミ効果の恩恵に浴したいと考えるブランドも増えるかもしれない。
[原文:TikTokers are building Amazon product recommendation empires]
MICHAEL WATERS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)